【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

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第二章 育ったお花から採れた種

02.最強の刺客、アメリア・ビルワーツ登場

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 ランドルフ王太子15歳とアメリア・ビルワーツ14歳の婚約が発表され、王都の新聞には毎日のように、王家とビルワーツ侯爵家の話題が掲載された。

『王家の悲願、ビルワーツの悲劇』

『新たなる婚約破棄案件か?』

『因縁の⋯⋯王家VSビルワーツ、今回の勝者は!?』

 過去に起きたマクベス国王とリディア嬢の婚約破棄騒動とその顛末、エロイーズ王妃殿下によるネックレス強奪騒動、現在準備されている豪華な婚約披露パーティーの詳細⋯⋯新聞のネタは数限りない。

 その全てに関係しているのが、陰で『王国の癌』『暴虐の魔女』と呼ばれているエロイーズ王妃殿下となれば、過去の実話や噂話までが再浮上し増版しても追いつかない。毎日のように号外がばら撒かれ、街中では賭けがはじまった。

「婚約成立に賭ける奴は少ないから、当たればすごい儲けになるぜ」

「いや、婚約破棄か不成立って方に賭けるよ。そっちの方が確実だもんな」



 盛大な夜会とそれに関わる工事や商品の購入で、王都の商人や各種職人は目の回る忙しさになった。目敏い商人は大量の荷を抱えて王都入りし、地方や他国の職人も王都を目指して馬を走らせた。

 王宮の裏門には商人達の荷馬車が列を成し、その横を職人達が足早に通り過ぎていく。

「何でも売れるから、とにかく仕入れてこい!」

「掃除用具から敷石まで取り替えるってさ」

 商会員は不眠不休で商品を運び、職人は目を赤くしながら夜なべ仕事に精を出す。



 乱暴に警笛を鳴らしながら走り去る荷馬車の横を、家紋をつけていない馬車が通り過ぎていった。

「わあ、凄い騒ぎです! 婚約発表したりこんな買い物をしたり⋯⋯王家は破滅に向かうのが本当にお好きですね。
『愚者も千慮に必ず一得あり』と言いますが『一得』は迷子のようです。
 天網恢恢てんもうかいかい 疎にして漏らさず』の方が良かったかなあ。
お父様はどう思われますか?」

 愚者も千慮に必ず一得ありとは、愚かな者でもたまには採るべきいい考え方をするということ。

 天網恢恢疎にして漏らさずとは、悪事を働いた者には必ず天罰が下り、逃がれる事はできないということ。

 14歳の少女の語る蘊蓄である。

「一得が迷子なら後者でいいんじゃないか?」

「うーん、確かに。でも、僅かな望みくらいは残してあげたいと思いましたの。リディア叔母様は昔、マクベス陛下の事がお好きだったと教えていただきました。
なので、ほんの少し慈悲を与えて差し上げたいと思っています」

「14歳に慈悲を与えられる国王は、哀れすぎると思わないか?」

「思います。でも、傀儡政権に甘んじておられる⋯⋯そうせざるを得ないまま流されてきたという事実は変えられません。時代に翻弄されたお可哀想な方だとも思うのですが、大人は責任から逃げてはなりません。
でも、皇帝の権威に影が差しはじめた今がチャンスですから、今度こそ私達が王宮の膿みを出せれば、大きな変化が期待できると信じております」

「それなら私も頑張らなくてはいけないな」

「娘に負けているわけにはいきませんものね」

「その通りです。今の状況は過去の貴族達が甘過ぎたのも理由の一つですから、その一角を担うお父様も頑張って下さいね」

「分かった、今度こそ徹底的に潰してやろう。で、婚姻前契約書の内容は本当にあれで良いんだな」

「はい、欲を掻いた内容であればあるほど好都合です。こちらがなんの文句もつけなければ、益々付け上がるはずですから。あのままの内容で契約し、しっかりと踊っていただきましょう」

「なら、私の方で少し細工させてもらってもいいな?」

「勿論です。最終のバトルさえ任せていただければ、途中経過はご自由にしていただいて構いません。何があっても勝てますしね」



 この婚約話が来た時、レイモンドとセレナは王家との契約内容を理由に、完全拒否を望んだが、アメリアは小躍りした。

『王命拒否だなんて、敵前逃亡のようでつまらないではありませんか。相手は発情した猿ですから、条件をひとつ付けてくださるだけで、盛大な『ざまぁ』ができるのですから。
王太子有責で婚約破棄にした後は、毒婦が帝国に逃げ帰るか幽閉されるまで必ず追い込んでみせます』

 アメリア14歳、恐るべし。





 城門を抜け王宮の正面で馬車が停まると、近衛兵に守られた派手な衣装の男が近づいてきた。

「さあ、敵地に着いた。準備はいいかな?」

「はい!」

 慇懃無礼な男は事務次官だと告げて、レイモンド達3人を法務大臣の執務室まで案内をした。

「ようこそおいでくださいました。法務大臣のポーレット・オルドリッジと申します。謁見を予定しておりましたが、宰相のイシュタル卿が体調不良で、その⋯⋯政務が滞っておりまして。
まあ、婚姻前契約書なんて私がいれば問題ありませんしね」

「痛み止めには、ヤナギの樹皮から抽出したサリシンが有効だとお伝え下さい。かなり苦味がありますが良く効きます」

 宰相は体調不良ではなく、エロイーズに鉄扇で殴られて鼻の骨が折れた後、肩や腕を骨折。左足は複雑骨折しており、いまだに歩くこともできない。

(骨折するほどの蹴りってすごいよね~。痛み止めは必須、うん)

「え? あ、うん。今度会ったら伝えておこう。で、婚姻前契約書の草案はご覧になられたと聞いております。再度確認していただき、内容に異議がなければサインをお願いします」

 宰相が持参した草案とは⋯⋯。

1、持参金と化粧料の一部としてダイヤモンド鉱山の権利及びエメラルド鉱山から産出された宝石の7割
2、婚約期間中にかかる経費については全額ビルワーツ侯爵家支払い
3、婚約後の教育等に関する費用の概算は前倒しで一括払い

「特に問題はありませんね。エメラルド鉱山ではなくダイヤモンド鉱山で助か⋯⋯あ、いや」

 レイモンドがにこやかな顔でうんうんと頷いたのが、不安だったらしく法務大臣が首を傾げた。

(今、ダイヤモンド鉱山で助かったと言いかけたのか? 虚勢を張っているようには見えんし⋯⋯何か理由があるのか? マズい、このままサインさせて後から問題が出たら、ワシのせいにされるかも)

 話し合いに失敗した宰相が、エロイーズに大怪我を負わされた⋯⋯あの二の舞にはなりたくない。

(輿入れの時からベッタリの宰相でさえ死にかけとる⋯⋯ワシなら確実に殺られる。ど、どうすれば⋯⋯)

「えーっと、発見されたばかりのダイヤモンド鉱山を手放すのを、良かったと言われるのかな?」

「ええーっと、まあ。ですが王家も以前は採掘権をお持ちでしたし、発見されたばかりだと言うのもご存知な訳ですし⋯それに関するあれやこれやの情報はお持ちでしょうから。まあ、大丈夫ですよ」

「いやいやいや、そういった情報は、もうなくなっているかもしれん。何しろ随分昔の話ですからなあ。それで⋯⋯あのぉ、詳しい話を教えてもらえたりはせんだろうか?」

 その後も、のらりくらりと言い訳を続けるレイモンドは苦笑いで誤魔化し、法務大臣は必死の形相でしつこく食い下がった。



「発見されはしましたが⋯⋯今はまだ準備段階と言いますか。坑道とか鉱山ギルドとの折衝とかは調査・計画中といった感じで。そこまで言えばお分かりだと⋯⋯え? 分からない? うーん、そうですか。それは困りましたなあ。
それ以上に問題なのがですね、加工場の建設や研磨機などの手配とか⋯⋯ああ、ダイヤモンドとなると、加工用の熟練の技術者を探すのも結構大変なんで。
産出されても原石のままだと価格は途轍もなく安いですし、加工で失敗したらクズ石と同じで⋯⋯なんの価値もなくなる⋯⋯は、言い過ぎかなあ」

「こ、鉱山ギルドと言うのは初めて聞いたんだが⋯⋯」

「鉱夫を雇う際にはそこに行かないと、真面な鉱夫を必要数雇うことはできないんですよ。で、試掘権・採鉱権・定住権・移転の自由権等の契約をして、住居の準備も必要不可欠ですね」

「それらが準備できるまで採掘は⋯⋯」

「できませんね」

(マズいぞ! このままでは確実にエロイーズ様に殺られる⋯⋯)

 門外漢の法務大臣が策など思いつくはずもなく、ダラダラと冷や汗を流しはじめ⋯⋯。

「そ、そういったことを専門にやる者はおらんのか?」

「いませんね。鉱山の所有者の仕事ですから⋯⋯ではこうしましょう。ある項目を追記していただけるなら、相談に乗ると言うのは如何ですかな?」

「ど、どのような内容ですかな?」

「不貞が発覚した場合、その時点で婚約破棄していただきたい。これは端に当家の不安解消の為で⋯⋯前回の婚約破棄の顛末のようにならないと言う保証のようなものです。
王家側の有責で婚約が成立しなかった場合、ランドルフ王太子殿下との婚約を前提としてで発生した費用については、全額王家負担とする。
当家は鉱山開発における坑道に関係する手配と、坑夫の住居や加工場の建設の手配をしましょう。流石に、費用は王家に負担していただきますがね。
恐らくですが、帝国の技術者を手配されるでしょうから、私達は手を出さない方が良さそうだと思いまして」

 レイモンドの狙いが分かったセレナとアメリアは、笑いを誤魔化すために慌てて下を向いた。

(婚約破棄した時には、ダイヤモンド鉱山の準備は王家の費用で終わっているって事ね。流石腹黒なお父様。これなら王家のお陰で準備が遅れずに済むわ)

「今回の話の最終責任者⋯⋯草案を作られたのは王妃殿下だと聞いておりますが、最終決定権をお持ちの方の許可をいただけるなら、この内容でサインしますが⋯⋯どうされますか?」

「ううむ、そうだな⋯⋯うん、すぐに聞いてこよう。少し⋯⋯少しだけ待っていてくれ」

 慌てて部屋を飛び出した法務大臣は、あっという間にエロイーズの許可をもらって帰ってきた。

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