上 下
38 / 149
ハーミット王国、ドワーフの里へ

36.臆病なノッカー

しおりを挟む
 小柄なノッカーの身体が揺らぎはじめ、デーウの醜悪な巨体に変わっていった。

 額に生えた角と白眼のない真っ黒な目。鼻は右に曲がり大きく裂けた口からは異臭を放っている。
 筋肉の塊のような身体は浅黒く手には身の丈ほどもある両刃刀を抱えている。

 鋭い鉤爪で頬を搔くたびに薄らと血が滲んでいく。


 ミリアの横ではじめてフェンリルが『グルル』と唸り声を上げた。


「一応聞いてやろう。何で分かった」

「ノッカーなら一番にヒヒイロカネを欲しがるし、さっきの石ころに騙されたりなんかしないもの」


「それなりに観察眼はあるようだが残念だ。さっさと花を出せば殺さずにいてやろう」


「暴力の大好きなデーウの言葉なんて信じられないわね。
なぜ、不老不死の花なんて盗んだの?」

「盗んだのはボギーで俺じゃない。
愚かで間抜けなペリが馬鹿なボギーにお宝を盗まれた・・面白い見世物だろう? いい暇つぶしになった」

 歪んだ醜い顔でゲラゲラと下品に笑うデーウ。


「楽しむ為に私の両親を殺したの?」

「ああ? 何の話だ? そうか、貴様はあの時の餓鬼か。
大したことのない両親だったぜ、あっという間にポックリだ。
あの後のペリの悲壮感漂う顔には楽しませてもらったがな」


「あんただけは絶対に許さない」

 ミリアはアイテムバックからガンツの杖を出し構えた。


「弱い奴はすぐ吠える。さっさと花を出さんとここにいる奴らを一人ずつなぶり殺しにするぜ。どうする?」


 ミリアはデーウを睨みつけ【ライトエリア】【ライトランス】を立て続けに放った。
 デーウが避け一瞬怯んだ隙にガンツ達が一斉に襲いかかったが、デーウが両刃刀を振り回した風圧で小柄なナナとマックスが吹き飛んだ。


「たかがドワーフや人間ごときが俺様に敵うとか思ってんじゃないだろうな」

 鼻で笑うデーウの前でフェンリルが変身を解き、巨大な灰色狼の姿になった。


「「「フェンリル?!」」」
 

「へえ、面白い奴とつるんでるなあ。だが俺の敵じゃねえ」


 ミリアが【ライトランス】を放つと同時にフェンリルがデーウの右手に噛み付いた。

 デーウが左手の爪でフェンリルの背中を抉り、フェンリルを叩き落とした。
 ガンツがデーウの足を狙って斬りつける。デーウがガンツに注視した時を狙い三人で同時に切りかかった。


「俺はクワルナフ神の光輪以外は効かん」

 デーウがガンツに向けて両刃刀で斬りつけた。横に転がって避けたガンツの傍からグレンが切りかかった。

 ドワーフやマックスの刀ではデーウに当たっても僅かな切り傷がつくのみ。


「みんな下がって!」

 ミリアはもう一度【ライトランス】を放ったがこれもデーウの身体に傷をつけたのみで終わる。


 フェンリルが再度デーウに飛びかかり左肩に噛み付いた。


『我に向けて放て!』


 ミリアは杖をデーウに向け、自身の魔力の全てをかけて生まれて初めて詠唱した。


  光よ、裁かれぬ敵に裁きを
  【ジャッジメント・レイ】


 眩い光が金から白に変わり杖の先からデーウに向けて放たれた。

 デーウの胸に当たった光は身体の中から四方に飛び散り、デーウと噛み付いていたフェンリルを金色に光らせた。
『ぐわぁ』と言う断末魔を最後にデーウはサラサラと黒い砂になり消滅していった。


 ミリアは魔力を使い果たし、膝から崩れ落ちた。

「「「ミイ!」」」「ミリア!」


 バタバタと足音が響きみんながミリアの元に走ってきた。

「みんな、怪我はない? フェンリル、これ・・傷薬を」

『我は問題ない』

 見るとフェンリルの背中の傷は消えて無くなっていた。

 ミリアは魔力回復ポーションを飲み、ホッとして座り込んだ。

「良かった、みんな無事で」


 ノッカーがふわっと現れた。

《隠れててごめんなさい》


 全員が思わず戦闘態勢をとった。

《ひっ!》

「あなたがもう一柱のデーウじゃなければ。フェンリル、彼は本物?」

『ただのノッカーよ。漏らしておるからちと臭うがな』



 その後、ノッカーにヒヒイロカネとジャムを渡して鉱山を後にした。

 鉱山の入り口には多くのドワーフが心配そうな顔で待ち構えていた。

「今日からでも明日からでも採掘出来るぜ」

「「「い、やったー」」」

 大喜びで肩を叩き合う者や小突き合う者、涙を拭いたり笑いあったり・・。


 長老が前に出て来て頭を下げた。

「ガンツ、疑ってすまなんだ」

「それならミイに言ってくれ。こいつがやったんだ、俺達はほんのちいとばかり手伝っただけだしな」


「ミイ、ドワーフの里を救ってくれた事心から感謝する。失礼な態度申し訳なかった」

「とんでもないです。本当に良かったです」



 ミリア達は数日ドワーフの里に留まり鉱山での採掘の様子を観察することになった。

 ガンツは長老に連れて行かれ、ミリアはペリからの連絡を待っている。

 マックスはナナに鉱山に連れて行かれ、ピッケルの使い方から石の見分け方などを教えてもらう事になった。


 夜になり迎えに来たラタトスクに連れられて、再びユグドラシルの樹の元にやって来た。
 ミリアの横には元の姿に戻ったフェンリルが並んでいる。


 ユグドラシルの樹の下でミリアはペリに不老不死の花を渡した。

「ありがとう、傷一つついてない。
やっぱりセリーナとライオ「違います。やったのはデーウ、悪いのもデーウですから」」


 フェンリルは何も言わず座り込んでうたた寝を始めている。


「仇を打てました。光の魔法、教えてくれてありがとうございます」

「本当にセリーナによく似てる。お礼に一つ情報を教えてあげる」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜

おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。 それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。 精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。 だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————

待ち遠しかった卒業パーティー

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アンネットは、暴力を振るう父、母亡き後に父の後妻になった継母からの虐め、嘘をついてアンネットの婚約者である第四王子シューベルを誘惑した異母姉を卒業パーティーを利用して断罪する予定だった。 しかし、その前にアンネットはシューベルから婚約破棄を言い渡された。 それによってシューベルも一緒にパーティーで断罪されるというお話です。

妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。 受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。 妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。 今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。 …そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。 だから私は婚約破棄を受け入れた。 それなのに必死になる王太子殿下。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...