上 下
10 / 41

10.ロクサーナがチクチクしているのは

しおりを挟む
 ロクサーナが作っているのはパッチワークキルトとアップリケキルトを組み合わせたもので、手芸部時代に夢中になって作ったハワイアンキルトをイメージしたもの。


 アップリケ終了後、薄く伸ばした羊毛と裏地の3枚を合わせ、アップリケのデザインに沿ったおとしキルトを施す。
 その後デザインの上に丁寧にキルティングを施すデザインキルトをして3枚の生地を安定させ、周りを輪取るようにエコーキルトをすれば完成。

 大きなものではベッドカバーやタペストリーなども作るが、手作業では完成までに時間がかかりすぎるので(目先の資金調達の為にと)女性用や子供用の鞄やリュックサックなども作っている。


 この世界には鞄を背負うという概念がなかったので、リュックサックはあっという間に爆発的人気を博した。

 丈夫な帆布を使った男性用の物と、キルティングで作った女性の物。子供用には可愛らしいアップリケ付き。


 商標登録した後の販売はクラリア商会に全面委託し、ロクサーナはひたすらチクチク。
 商品と材料の受け渡しはコナーが張り切って担当してくれた。


 注文や問い合わせが引きも切らずクラリア商会からは納品数を増やして欲しいと言われているが・・。


(人手が欲しい・・、上手く行きすぎて辛い)



 屋敷の使用人はコナー以外は信用しない方がいいと考えている。

 優しかった馬丁がクビになったのは、馬丁が旧ロクサーナを馬に乗せてくれたのをステラに見られた次の日だった。

 今いる使用人はコナー以外はメリッサが来てから入れ替わった人ばかり。

(取り敢えずは現状維持かなぁ。プレミア感で値上がりとかしないかな・・)


 新ロクサーナが邪な思いを抱きつつせっせと製品を作ってはコナーに預けていた頃、予想通りの騒ぎが起きた。



 コナーの所から帰り裏口からこっそり厨房へ入るとメイドの大声が厨房の左の方から聞こえてきた。

「ありましたー。奥様、あの子の部屋にありましたー」


 厨房の前をメイドが横切った直後にメリッサの怒鳴り声が聞こえてきた。

「アレを探しなさい! 直ぐ連れて来るのよ!」

 入り口から覗いていた料理人が裏口の近くに立っているロクサーナに気付き、ギョッとした顔をした後顔を背け慌てて調理台に戻り玉ねぎの皮を剥き出した。



 そろそろと廊下に出て辺りの様子を伺っていると、ステラ専属のメイド2人がバタバタと走って現れた。


「奥様、ここにいましたー!」

 1人が大声で叫びもう1人がロクサーナの右腕を捻り上げた。

「いたい!」

 取り敢えず抗議の声をあげてみた。


「煩いわね、サッサと来なさいよ。ふふん」


(思い出した! 旧ロクサーナの記憶ではこの後・・)


 メイドに腕を取られたままメリッサの私室の1つに連れて行かれた。


「今朝わたくしの部屋からブローチがなくなっているのに気が付いたの。これに見覚えはないかしら?」

「いいえ」

(そうだ、はじまりはこのブローチだ)


 少しずつ鮮明になっていく記憶にロクサーナは青褪めた。

(ヤバい! アレは痛い。どうしよう、何か・・何か・・)


「お前の部屋の枕の下から見つかったの。お前が盗んだのね、正直に言いなさい!」

「いっいいえ」

「泥棒には罰を与えなくてはね」

 メリッサの合図でメイドがロクサーナをメリッサの前に突き飛ばそうとした時、左手でメイドのスカートを握りしめた。

 「ビリビリ、ビリッ・・きゃあー」


 メイドのスカートが見事に破れカルソンズボン状の下着が丸出しになった。

 慌てふためくメイド達に驚いて呆然としているメリッサの足元には、メイドから剥ぎ取ってしまったスカートの残骸を握りしめたロクサーナが転がっていた。


 憎々しげにロクサーナを見下ろしたメリッサは「ふんっ」と鼻を鳴らし、扇子を手に叩きつけた。

「今度やったらタダではおかないから、覚えておきなさい」


 立ち上がったロクサーナは脱兎の如く逃げ出し、その日から部屋に鍵をかける事にした。

(自己防衛だもん、仕方ないよね)


 旧ロクサーナはあの後メリッサに鉄の芯を使った扇子で背中を何度も叩かれ、あのメイドには蹴られたのだから。

しおりを挟む
感想 136

あなたにおすすめの小説

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。 しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。 一体どういうことかと彼女は震える……

婚約破棄されたので初恋の人と添い遂げます!!~有難う! もう国を守らないけど頑張ってね!!~

琴葉悠
恋愛
  これは「国守り」と呼ばれる、特殊な存在がいる世界。  国守りは聖人数百人に匹敵する加護を持ち、結界で国を守り。  その近くに来た侵略しようとする億の敵をたった一人で打ち倒すことができる神からの愛を受けた存在。  これはそんな国守りの女性のブリュンヒルデが、王子から婚約破棄され、最愛の初恋の相手と幸せになる話──  国が一つ滅びるお話。

婚約破棄は計画的に。

秋月一花
恋愛
「アイリーン、貴様との婚約を――」 「破棄するのですね、かしこまりました。喜んで同意致します」  私、アイリーンは転生者だ。愛読していた恋愛小説の悪役令嬢として転生した。とはいえ、悪役令嬢らしい活躍はしていない。していないけど、原作の強制力か、パーティー会場で婚約破棄を宣言されそうになった。  ……正直こっちから願い下げだから、婚約破棄、喜んで同意致します!

全力悪役令嬢! 〜王子の薄っぺらい愛など必要ありません〜

本見りん
恋愛
 ……それなら『悪役令嬢』、全力でやり遂げてやろうじゃないの!  日本人だった前世を思い出し、今の自分が『悪役令嬢』だと気付いたレティシア スペンサー公爵令嬢。  なんとか断罪を回避しようと対策を試みるも悉く失敗。それならと心優しい令嬢になろうと努力するが、何をしても《冷たい令嬢》だと言われ続けた。そしてトドメが婚約者フィリップ王子。彼も陰で対立派閥の令嬢にレティシアの悪口を話しているのを聞いてしまう。  ……何をしてもダメだというのなら、いっそのこと全力で悪役令嬢をやりきってやろうじゃないの!  そう決意したレティシアは、立派な? 『悪役令嬢』となるべく動き出す。……勿論、断罪後の逃げ道も準備して。 『小説家になろう』様にも投稿しています。こちらは改訂版です。 『ハッピーエンド?』とさせていただきました。 が、レティシア本人的には満足だと思います!

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

公爵令嬢が婚約破棄され、弟の天才魔導師が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています

私、今から婚約破棄されるらしいですよ!卒業式で噂の的です

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私、アンジュ・シャーロック伯爵令嬢には婚約者がいます。女好きでだらしがない男です。婚約破棄したいと父に言っても許してもらえません。そんなある日の卒業式、学園に向かうとヒソヒソと人の顔を見て笑う人が大勢います。えっ、私婚約破棄されるのっ!?やったぁ!!待ってました!! 婚約破棄から幸せになる物語です。

処理中です...