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60.お〜い、茶番劇がはじまるぞ〜

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 そしてはじまった断罪⋯⋯茶番、いえ珍喜劇。

 ポンコツ王子の腕に怯えた表情でしがみつくレベッカ。その両脇に立つのは側近候補の脳筋ビクトールとエセ眼鏡トーマス。

 陰にはまだ人がいるようだが、ロクサーナのところからは暗くてはっきりとは見えない。



『ロクサーナ・バーラム!! 貴様のような心卑しき女など我が国には不要! 婚約を破棄すると同時に、国外退去を命じる!』


 と、冒頭に戻った次第で⋯⋯。



(なんともお粗末な⋯⋯だってさ、入学して2ヶ月ちょっとしか学園にはいなかったのにな~)

「まず初めに、ポンコ⋯⋯アーノルド王子殿下と私は婚約しておりませんし、婚約者候補であった事すらございません。
留学生の代表としてお挨拶をさせていただいた事はございますが、それ以外には、私の方からお声がけした事もございません。
なぜなら私は留学生のでございますので」

「い、引率者だと!? でで、でもリーダーだって」

「はい。リーダーとはグループを率いる者、すなわち引率者⋯⋯その通りでございます。聖王国より他国へ向かうサブリナとセシルの相談役として参加するようにと依頼されて参りました。
因みにレベッカについては私の契約に含まれておりませんでしたし、本人からも『ほっといてよ!』と明言されましたので、虐めるどころか、必要最低限の関わりのみにしておりました」

「なぜレベッカだけを契約に入れなかったんだ。それこそが虐⋯⋯」

「元々、レベッカは留学生のメンバーではありませんでした。実家の権力を使い、ゴリ押しで出発当日からしてきただけでございます」

「しかし、貴様は聖王国にいる時もレベッカを虐⋯⋯」

「それにつきましては、確たる証拠の提示をお願い申し上げます。私からは逆の証拠⋯⋯私の方こそ、不当な言いがかりをつけられていたという証拠を準備致しております」

「こ、ここにいる俺の側近や同級生達も知っている。貴様が虐⋯⋯」

「ぜひお名前をお聞かせいただき、証拠提出をお願いいたしますね。論破の準備は済んでおりますので、いつでもどうぞ」

「俺の名前はビクトール・ウルブズだ!」

「私の名前はトーマス・マクガバンです。覚えておいでですよね」

「お顔には見覚えがあるように思います、多分側近候補の⋯⋯脳筋&エセ眼鏡⋯⋯ゴホン⋯⋯だった気がします。では、証拠の提出をどうぞ」

「レベッカが泣いてた!」

「そ、そうだ! レベッカが言ってた。そ、それにサブリナとセシルも言ってた! だよな! はっきりとコイツに言ってやれ」

 雛壇の陰に隠れていたらしいサブリナとセシルが出てきて、脳筋やエセ眼鏡の隣に立った。

「え、ええ。皆さんのおっしゃる通りですわ。ロクサーナはレベッカにとても酷い態度でしたの」

「うん、レベッカには冷たかったよ。あたし達にもだけどね」

(ほっほ~。サブリナとセシルがいないと思ったら、そうきたかあ)

「証拠はないと言うことでしょうか? では、私の証拠をお見せいたします。そこの壁の前を開けてくださいませ⋯⋯ええ、もう少し⋯⋯そのくらいあればいいでしょう。あ、そこの酒焼けし⋯⋯赤い顔の方がちょっと邪魔⋯⋯ありがとうございます。
では、魔導具士ギルドで特許を認められた、魔導具での映像をご覧いただきますね」

 真っ先に映し出されたのは、聖王国の教会の渡り廊下。

「先ずは、聖王国での映像からです」


『アンタ、邪魔なのよ! 顔がウザいっていつも言ってるでしょ。アンタ達コイツを外に放り出してきなさい! 畑の肥やしにでもしてきて⋯⋯あ~、もしかして畑が腐るかも~、ギャハハ』

「ちょ、ちょっと、あんたなに映してんのよ! やめてよ、やめなさい。こんなのでたらめよ! アーノルド、こんなの嘘だか⋯⋯」

『ちょっとお、いつまで教会にいるつもり~、男爵家の娘なんて平民じゃん。さっさとどこかに行きなさいよ! ホントにキモいんだから』

『アンタなんかクソの役にも立たないんだからね! 生きてるだけ無駄よ、無駄無駄』

『汚い下民が教会にいるなんて空気まで臭くなるじゃん⋯⋯』

『教会内を彷徨くんじゃないわよ! さっさと消えな!!』


 くるくる変わる場面にレベッカの悪態が映し出され、会場が静まりかえった。

「レベッカの顔⋯⋯だったよな。あ、あれ? え?」

「いかがでしょうか。聖王国での不当な扱いのでございます。必要であれば、まだまだいくらでもございますが、次にダンゼリアム王国に来てからの映像をご覧に入れたいと存じます」

『ねえ、いつまでそこに突っ立ってるつもり? さっさと行ってきなさいよ! ホント、あんた達って役立たずなんだから。
馬車の中なんて暑くてたまんないんだから、早くしてよね』

「待って! お願い、ちょっと待っ⋯⋯」

『こんな狭い部屋では荷物が入りきらないわ! メイド専用の部屋は私の隣じゃないと役に立たないじゃない! ロクサーナ、あんたちゃんと指示してないの!?」

「この辺りが初日です。翌日以降もご覧⋯⋯」

「やめてやめてやめてえぇぇ!」



「では、ご希望がございましたら、別の映像もお見せしたいと思います。なお、学園在学中に私物が紛失したり、水が落ちてきたり⋯⋯階段上で突き飛ばされたりと色々な出来事がございました。
それについても映像が残っておりますので、お心当たりの方は聖王国教会のジルベルト司祭宛にお声がけくださいませ。
ご連絡のあるなしに関わらず、正当な手続きにて対処させていただきますね」

「そ、それってつまり⋯⋯」

「悪気はなかったの! ちょっとした悪戯で⋯⋯」

「ああ、お名前は存じませんが、私の鞄にインクをひと瓶ぶちまけられた方ですね~。なかなかハードな悪戯でございます」

「あの⋯⋯ごめんなさい。勘違いしていて」

「確か⋯⋯植木鉢を2階から元気よく投げてこられた映像の方ですね! 覚えてますとも。なかなかの腕力でブンっと⋯⋯勘違いでされる行為としては、大変デンジャラスな趣味をお持ちのようで」



「煩い煩い煩い! そんな映像なんか信用できん! 兎に角貴様の魔法士の資格は剥奪して、貴様を平民に落としてやるから覚悟しろ! 土下座して謝るなら許⋯⋯」

「残念ながら、私は魔法士ではありませんし、ダンゼリアム王国の方に私の資格を剥奪する権利はございませんし、平民に落とす資格もありません」

「魔法士じゃない⋯⋯そ、そうか! 貴様は魔法士見習いかただの使用人のどちらかだな。ふん、貴様のような奴がこの国に来るなんて恥をし⋯⋯」

「私は魔法士でも魔法士見習いでも使用人でもございません。10歳の神託の儀で聖女認定されました、正・真・正・銘の聖女ですから。
全員同じ年齢でありながら、なぜ私が留学生のリーダーになったのか⋯⋯それは留学生の中で最もランクが高かったからですの」

「貴様が聖女だなんてあり得ん⋯⋯聖女はレベッカだ。俺の熱も下げてくれたし、リューズベイでは祈りで光を⋯⋯空まで光らせたんだからな!」

「光らせるだけなら魔導具でもできますし。レベッカは魔法士見習⋯⋯」

「やめて! もうこれ以上虐めないで、お願い」

(う~ん、疲れてきた。こういう悪意ってチクチクして苦手)

「あ、あの、ロクサーナ⋯⋯わたくし達、友⋯⋯」

 サブリナが震える声で話しかけた時、雛壇の陰からもうひとり⋯⋯正装したレオンが出てきた。



「ロクサーナ、レベッカが聖女だというのは間違いないんだ。レベッカは俺の生命を救ってくれたんだから」

「そ、そうよ⋯⋯アタシは11年前にレオンの命を救ってあげたの。ほら、アタシが聖女だって分かったでしょ?」



「では⋯⋯」

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