赤い部屋

ねむたん

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「お前、マジでこれ売る気あんの?」

ハンドルを握る佐々木が、サングラス越しにちらりと涼介を見た。

「営業マンとして当然だろ? ま、俺が買うならパスだけどな」

言いながら、佐々木はサングラスを外す。
長めの前髪の下、くっきりとした二重の目元。右目の下にある 泣きぼくろ が、妙に色気を醸し出している。
放っておいても女が寄ってくるタイプの顔。

一方、涼介はといえば、童顔で背も低く、どちらかというと 小型犬のようなタイプ だった。
職場の女性陣には見事にスルーされるが、なぜか年上には可愛がられる。

「おい、聞いてるか?」
「……いや、売れないだろ、これは」

涼介は助手席で資料をめくる。

二人が向かっているのは、都内から二時間ほど離れた田舎町にある 売れ残り物件 だった。
築五十年以上。これまで何度も買い手がつきかけたが、すべて契約前に白紙になったという。

「……怪現象のせい、か」

契約破棄の理由には、決まって 「不審な現象」 という曖昧な言葉が並んでいた。
地元の人間に聞いても、皆一様に口をつぐむ。

「まぁ、実際に行って確かめてみりゃいいさ」
「そうだな……」

涼介はタブレットを開き、物件の写真を再確認した。
問題の洋館。風格はあるが、長年の放置で傷みが目立つ。

そして、二階の 赤黒い部屋。

その部屋だけ、壁の色が異様に濃く見えた。

「写真だと、やっぱり二階が変な色してるな」
「光の加減じゃね? まぁ、見てみりゃわかるだろ」

佐々木は軽い調子で言いながら、アクセルを踏み込んだ。

やがて車は目的地に到着した。

門の前で車を降りると、ひんやりとした空気が肌を刺す。家の周りは荒れ果て、雑草が腰の高さまで伸びていた。

「すっげぇ、昭和の遺産って感じ」
「築五十年だからな」

錆びた門扉を開き、二人は庭を進む。玄関前に立ったとき、ふと涼介は顔を上げた。

見上げた二階の窓。

そこに、赤黒い部屋があった。

「……やっぱり、赤黒いな」
「は? どこが?」

佐々木が怪訝そうに眉をひそめる。

「いや、見ろよ。二階のあの部屋だけ、明らかに色が違うだろ」
「どこがだよ。普通に白っぽいけど?」

涼介はぎょっとした。

確かに、自分には赤黒く見える。だが、佐々木にはそう見えていない。

「……気のせいか?」
「ビビってんのか?」

佐々木は笑いながら、玄関の鍵を開けた。

家の中は、しんと静まり返っていた。

「うわ、カビ臭ぇ……」
「そりゃ、何年も放置されてりゃな」

埃っぽい廊下を歩き、部屋をひとつずつ開けていく。どの部屋も使われたまま時が止まったようだった。

「二階、行ってみるか」

軋む階段を上り、問題の部屋の前に立つ。

「……開けるぞ」

ゆっくりとドアを押し開く。

そこにあったのは、普通の和室だった。

「……え?」

赤くない。
外から見たときの異様な赤黒さは、どこにもなかった。

「な?」
佐々木が肩をすくめる。

「だから言ったろ。ただの光の加減だよ」

だが、涼介の違和感は消えない。
確かにこの部屋が赤黒く見えたのだ。なのに、今は——

視線の端に、白いもの が映った。

部屋の隅に、盛り塩が置かれている。

「……なんだ、これ」

佐々木がそれを見て、「うわ」と眉をひそめる。

「こういうのが置いてあるってことは、本当に何かあるってことじゃね?」

「やめろ、そんなこと言うな……」

嫌な予感が胸を締めつける。

そのとき——

カタッ

「あっ」

佐々木の足が、盛り塩を蹴飛ばした。

白い塩がぱらぱらと畳の上に散る。

「お前……」

「悪い、見えてなかった」

涼介は反射的に周囲を見回した。

——何も起きていない。

だが、ひどく冷たいものが背筋を這い上がるのを感じた。
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