あなたが私を望まないのなら。

ねむたん

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ヴァルディールの宮廷で、クレアはその名をますます高めていた。外交顧問としての役職に就いて以来、彼女は周囲から信頼を集める存在となり、その聡明さと気品は国中で評判となっていた。

ある晴れた日の午後、クレアはヴァルディール国王主催の宮廷舞踏会に招かれていた。この舞踏会は隣国からの使節団を歓迎するためのものであり、国中の貴族たちが華やかに装い集まっていた。大広間のシャンデリアが眩しく輝き、床には磨き上げられた大理石が反射する光が踊っていた。

クレアは薄いクリーム色のドレスを身にまとい、柔らかな微笑みを浮かべながら会場に現れた。その姿は他の誰よりも目を引き、多くの貴族たちが振り返って彼女を見つめた。ヴァルディールに来て以来、彼女は落ち着いた知性と洗練された振る舞いで人々を魅了していたが、この舞踏会では特にその存在感を放っていた。

「クレア様、今日もお美しいですね」と一人の貴族が声をかけると、彼女は柔らかく微笑みながら答えた。

「ありがとうございます。今日はこのような素晴らしい場にお招きいただけて光栄です」

彼女の一言一言が品格に満ち、周囲の人々は自然とその輪に引き寄せられていった。彼女はただそこにいるだけで、人々を惹きつける特別な魅力を備えていた。

舞踏会の中盤、ラウレンス公爵がクレアに近づいてきた。「今日は一段と輝いていますね、クレア嬢。会場の誰もが貴女に注目している」

クレアは照れたように笑いながら答えた。「そうだとしたら、過分な評価をいただいているだけです。私はただ、ここで自分にできることをしているだけですから」

「それが、貴女が素晴らしい理由でしょう」とラウレンスは微笑んだ。

彼との会話を楽しみながらも、クレアはこの舞踏会がかつてのローゼンハルトでの舞踏会とはまるで違うことに気づいていた。かつての王宮では、誰かに認められるために努力し、婚約者であるエドガーにふさわしい妃として振る舞わねばならないという重圧があった。しかし、今の彼女は自由だった。誰かの期待を背負うのではなく、自分の意思で行動し、自分の価値を築いていた。

舞踏会の終盤、クレアは大広間の端で一人静かにワインを傾けていた。遠くから聞こえる音楽と笑い声を耳にしながら、ふとローゼンハルトでの過去の日々を思い返した。

「私は……本当に遠くへ来たのね」

その呟きには、もう悲しみや後悔はなかった。ただ、過去があったからこそ今があるという確信だけがあった。

ラウレンスが再び近づき、手を差し出した。「そろそろ踊りませんか?」

クレアは一瞬驚いたが、すぐにその手を取った。「喜んで」

二人は踊りの輪へと加わり、軽やかなステップを踏みながら会場を滑るように回った。クレアの表情には穏やかな笑みが浮かび、その姿を見つめる人々の間に羨望の声が広がっていた。

クレアの新しい人生は、彼女自身の力で築き上げたものだった。ローゼンハルトでの苦しい日々が彼女を強くし、今の彼女を形作った。過去の傷はもはや彼女の足枷ではなく、未来へ進む力となっていた。

彼女は今、このヴァルディールという新しい国で、自分らしい輝きを放ちながら、さらに遠くへ進んでいくのだった。
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