あなたが私を望まないのなら。

ねむたん

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エドガーは、薄暗い屋敷の窓辺に腰掛け、荒れた庭をぼんやりと眺めていた。そこには、何も生えず、草も刈られないまま放置された土地が広がっているだけだったが、彼の目にはそこがかつての王宮の庭に重なって見えていた。

風に揺れる草木の影を眺めながら、エドガーの心は遠い記憶の中へと引き込まれていった。彼の頭に浮かぶのは、いつも笑顔を浮かべて彼を見上げていた、かつてのクレアの姿だった。王宮の広い廊下を歩きながら彼の手を取る、無邪気な彼女の笑顔――エドガーにとってそれは、自分が愛した「理想の婚約者」の姿だった。

彼女がまだ妃教育を受ける前の、自由奔放で天真爛漫だった頃――それこそが、エドガーが一番好きだった彼女の姿だった。あの頃のクレアは、彼を褒め称え、彼の期待に応えるように無邪気な愛情を見せてくれていた。だが、それは遠い過去であり、今では手の届かない記憶でしかなかった。

「クレア……」エドガーは静かにその名を呟いた。その声は、セリーナに聞かれないようにと低く抑えられていたが、彼自身にとっては耳を切るような苦い響きだった。

セリーナが去った後、クレアが徐々に変わっていったことをエドガーは思い出す。妃教育が始まり、彼の「理想」から遠ざかるようになった彼女は、次第に彼にとって「窮屈な存在」となっていった。結局、彼はその変化を受け入れることができず、クレアを手放す選択をした。そしてその結果、彼はセリーナを選び、全てを失った。

「もし、あの頃のクレアが隣にいたら……」エドガーは遠い夢を見るように呟いた。彼が愛したのは、クレアそのものではなく、自分の思い描いた理想の彼女だった。それに気づいたのは、すべてを失ってからだった。

現実のクレアがどのように生きているのか、エドガーには知る術がなかった。しかし、噂で耳にするクレアの活躍は、彼にとってどこか不快であり、同時に誇らしくもあった。彼女が今も自分の心の中にいることを感じるたび、エドガーの胸には苦しいほどの後悔が押し寄せてきた。

一方で、セリーナとの生活は完全に冷え切っていた。彼女の怒声や苛立ちは日々エドガーに降り注ぎ、それを耐え忍ぶだけの彼の心は、現実から逃れるために過去の幻想にすがりつくようになっていた。

「クレア……」再びその名を口にする。彼にとってそれは現実逃避の呪文のようなものだった。かつての婚約者が見せた笑顔、明るい声、彼の隣で愛らしく立つ姿。どれも現実には存在しない幻影だと知りながらも、彼はそれに浸ることでしか、荒んだ日々を乗り越えられなかった。

夜、セリーナが眠りについた後、エドガーは薄暗い屋敷の中を歩き、空の広がる庭を見上げながら静かに呟いた。

「僕は……間違っていたのか?」

だが、その問いに答える者は誰もいない。答えを知っているのは、今や彼の手の届かない遠い地で新しい人生を歩むクレアだけだった。
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