脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

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気を利かせる地図

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リディアは秘密基地のテーブルに並べた数種類のチョコを、次々と嬉しそうに口に運んでいた。

ホワイトチョコにビターチョコ、ナッツ入りやフルーツ風味など、バリエーション豊富な甘い香りが部屋を満たしている。

「もぐもぐ…やっぱりチョコって幸せだよね」

リディアは頰をほころばせ、ひとくち食べるたびに目をキラキラさせていた。メリーちゃんは彼女の足元で、ふわふわな毛を揺らしながら「メェ」と相槌を打っているかのよう。

そんなとき、部屋の隅に広げておいた魔法の地図がかさかさと音を立てた。

チョコの甘い匂いに浸っていたリディアは、小さく「ん?」と声をあげて振り返る。地図は、まるで得意げに何かを示しているように光の紋様を描き、あらたな地点を指し示していた。

「これは…『チョコレートの森』?」

リディアは目をこするように地図を見つめる。地図の中央には「チョコレートの森」と書かれ、周囲を囲う線がくるくると回るように動いている。まるで地図の方が「早く行こうよ!」と誘っているみたいだ。

その文字を見た瞬間、リディアの口から思わずよだれが出そうになった。「ちょ、チョコレートの森?そんな夢みたいな場所があるの?」
恍惚の表情を浮かべながら両手を合わせると、メリーちゃんは呆れたように「メェ?」と問いかける。

「行くしかないよ、メリーちゃん!」
リディアは空のチョコの包みを綿菓子毛へ投げ込むと、早速荷物の準備に取りかかった。「だって、チョコレートの森だよ?絶対に面白いに決まってる!おいしそうな木とか、チョコが流れる川とか、想像するだけでワクワクするね!」

いつになく高揚感をみなぎらせ、リディアはメリーちゃんのふわふわ毛にアレコレと荷物をしまい込み、地図をバッグに入れる。「よし、準備完了!さあ、冒険だよ、メリーちゃん!」

メリーちゃんもつられて「メェ!」と勢いよく鳴く。チョコの甘い余韻を残したまま、リディアは秘密基地の扉を開けてダンジョンへ踏み出した。頭の中には、チョコレートだらけの幻想的な森の光景が溢れている。

「チョコレートの森かぁ…絶対すごい場所だよね!」
メリーちゃんの足音も軽快に響き、二人はまだ見ぬ甘い冒険に胸を躍らせながら進んでいくのだった。


地図が示す道をたどって進んでいくリディアとメリーちゃんは、いつの間にか険しい崖の麓にたどり着いていた。

上を見上げると、その岩壁はごつごつと突き出した出っ張りだらけで、普通ならとても登ろうとは思わない場所に見える。
けれどもリディアは、地図の矢印がまっすぐこの崖を指しているのを見て、ちょっとわくわくした表情を浮かべた。

「こんなところ、地図がなければ誰も登らないよね。でも、きっとここを越えた先にチョコレートの森があるんだよ、メリーちゃん!」
リディアは自分に言い聞かせるようにつぶやいてから、蔦が生い茂る岩肌に手をかけた。少し湿っているが、茎がしっかりしていてつかみやすい。

「よいしょ…よいしょ…」
慎重に蔦をたぐり寄せつつ足をかけると、ぐらつくことなく意外と登りやすいことに気づく。途中、小さな出っ張りを足場にして、一歩ずつ上へと進んでいく。

メリーちゃんはそんなリディアを横目に、まるで山羊のような身軽さを見せながら、ちょんちょんと崖の出っ張りを飛び移っていた。ふわふわの毛を揺らしながら、崖の側面を軽々と進んでいく姿は、見ていてなんとも頼もしい。

「うわ、メリーちゃん、すごい……!そんなにぴょんぴょん飛べるんだね。いいなあ、私ももうちょっと身軽になりたい!」
リディアは肩で息をしながらも、メリーちゃんの活躍に目を丸くして感嘆の声を上げる。

岩壁を半分ほど登ったあたりで、一瞬足が滑りそうになったリディアだが、なんとか踏みとどまって蔦を強く握りしめた。「あぶなっ……でも、大丈夫!」深呼吸をして気を取り直し、また一歩ずつ進んでいく。

ようやく崖の頂上が見えてくると、リディアの胸に達成感が湧き上がってきた。「もう少し…もう少しで登れる…!」
それを知ってか知らずか、メリーちゃんは先に頂上へ到着し、ふわふわの毛をゆらして「メェ!」と嬉しそうに鳴いている。まるで「こっちだよ!頑張って!」と励ましているみたいだ。

「待ってて、メリーちゃん!」
最後の力を振り絞り、リディアはゴツゴツした岩をよじ登ってついに崖の上へ這い上がった。そこには息を整えるリディアの頭を、やわらかい風がそっと撫でていく。

「ふう……やったぁ!登れたー!」
リディアは地面に座り込み、メリーちゃんの背中を撫でながら喜びを噛みしめた。崖の下からは、今まで歩いてきた道のりが小さく見える。

「やっぱり、地図がなかったらあんなところ絶対登らないよね。でも、この先にきっとチョコレートの森があるんだから……行くしかないよね!」
リディアはまたも頬をほころばせ、気持ちを新たに先へ進む決意を固める。メリーちゃんがその横で「メェ!」と応え、二人は夕日が差し込む崖の上を歩き出した。

地図が導いているのは、はたしてどんな甘くて夢のような場所なのだろう。リディアの胸は期待でいっぱいだった。
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