脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

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メリーちゃんの冒険

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それは、リディアがポーション作りに集中しているある日の朝だった。

ふわふわの毛布の中から起き出したメリーちゃんは、いつもと違う空気を感じ取った。リディアは前の晩からずっとテーブルに向かい、ポーションの材料を調合している。

「メェ?」と軽く鳴いてリディアに声をかけてみるが、彼女は集中を切らしたくないのか、ほんの少し振り返って「ごめんね、今日は一日ポーション作りに没頭するの」と申し訳なさそうに苦笑いを見せただけだった。

そこでメリーちゃんは、そっとリディアの横に歩み寄り、鼻先でテーブルの上の薬草をクンクン嗅いでから、うんと頷くように「メェ!」と鳴いた。
どうやら今日は、リディアの邪魔をしないように自分でお散歩に出かけることに決めたらしい。

ふわふわのピンク毛から荷物を取り出す必要もないし、今は手ぶらでOK。そう考えたメリーちゃんは、秘密基地のドアを開けるとふわりとした足取りで外に出た。


秘密基地から続くダンジョンの通路をしばらく進むと、メリーちゃんは森の入り口へとやってきた。

いつもならリディアが一緒にいてくれる場所だが、今日は一人での冒険(?)。少しだけ耳をぴんと立て、周囲の気配を探ったあと、「メェ!」と小さく鳴いて一歩を踏み出す。

森の中は相変わらずしんと静まりかえっているけれど、メリーちゃんは怖がる様子もなく、得意げにあちこちを眺める。
小鳥が枝から枝へ飛び移ると、そちらを見上げて「メェ?」と小さく問いかけるように鳴いた。鳥はメリーちゃんを見つけて、軽く羽ばたきながら更に奥へ飛んで行く。


森を抜け、今度は街へと続く道へ向かったメリーちゃん。

門の前で衛兵が目を丸くしている。「あれ、リディアの羊じゃないか?一匹で出歩いてるのか?」という声を聞いても、メリーちゃんは意に介さず、マイペースに街へ進み入る。

街の大通りは賑やか。
人々が行き交い、あちこちから呼び込みの声が聞こえてくる。メリーちゃんのふわふわな毛に気づく人がいれば、「わあ、可愛い!」と子どもたちが近寄ってきたり、商人が「君は迷子かな?」と声をかけてきたりする。

メリーちゃんは、そんな人々の反応を楽しむかのように尻尾を振り、おとなしく触れられるままになった。

なでてもらったり、飴をおすそ分けしてくれたりする人々に、メリーちゃんは「メェ、メェ!」と嬉しそうに鳴いて感謝の気持ちを示す。


街をしばらく散歩しているうちに、メリーちゃんはアラニスの露店を見つけた。
そこにはカラフルな魔法のキャンディーが並び、甘い香りが漂っている。アラニスは一瞬「リディア?」と声をかけようとしたが、リディアは見当たらず、代わりにメリーちゃんだけがのそのそと近づいてきたので目を丸くした。

「え、メリーちゃん!?一人でお出かけ中なの?」アラニスは驚きつつも、すぐに柔らかな笑顔を見せる。「リディアはどうしたのかしら?」もちろんメリーちゃんは言葉を話せないが、「メェ」と鳴いて首を傾げることで、リディアが忙しいということを伝えようとしているようだ。

「そっか、リディアはポーション作りに夢中なのね。」アラニスは納得したように微笑み、魔法のキャンディーの小袋をひとつ取り出してメリーちゃんに手渡す。「これはリディアにお土産で持っていってあげて。ちょうど新作なのよ!」

メリーちゃんは「メェ!」と満面の笑み(?)を浮かべると、ふわふわのピンク毛を軽く揺らしてその小袋を収納。アラニスは「気をつけて帰ってね」と言いながら見送るが、メリーちゃんはまだもう少し街を散策するつもりらしい。


やがて日が傾き、夕暮れ時の街並みがオレンジ色に染まるころ、メリーちゃんはそろそろリディアの元に戻ろうと街の門を出た。行きと同じく森の道を通り、秘密基地へと戻る。

秘密基地へ帰り着くと、相変わらずリディアはテーブルに向かってポーションの調合をしていた。いっぱいになった試験管や瓶が並び、部屋には様々な香りが混じり合っている。

メリーちゃんは軽く鳴いてリディアに近づき、綿菓子毛からアラニスにもらったキャンディーの小袋を取り出して見せた。「メェ!」という鳴き声が「お土産だよ!」と言っているかのようだ。

「わあ、メリーちゃん、おかえりなさい!わざわざこれも持ってきてくれたの?」

リディアは思わず手を止め、メリーちゃんの綿菓子毛をなでながら嬉しそうに微笑んだ。「ありがとう!アラニス、優しいなぁ。」

そうして、メリーちゃんの小さな冒険の一日は終わった。
リディアはポーション作りの合間にキャンディーをひとつ口に含み、「あまーい!」と幸せそうに目を細める。

メリーちゃんは「メェ」と返事しながら、安心したようにその場に丸くなった。秘密基地の中はふわふわと温かく、いつもの穏やかな夜が訪れようとしているのだった。
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