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二度目の召喚
兄妹のティータイム②
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「お前のその勘違いのせいで……お前は召喚された者の1人でもあるウィステリア殿を、蔑ろにするような態度を取っていたのか?」
「…そんな事───」
「“していない”とは言わせないぞ。お前の周りに居た脳筋馬鹿の騎士達が言っていたからな。“エメとルーはお似合いだ”“聖女ではない女性の召喚者は必要なのか?”と、言っていたそうだな?それは何故だ?何故ウィステリア殿を排除しようとしたんだ?」
「……」
肩をプルプルと震えさせ俯いたまま黙り込んでいる様は、傍から見れば私が妹を苛めていて、それに耐えている─と見えるだろう。現に、声が聞こえるかどうかの位置で控えている近衛騎士達は、妹に心配そうな視線を向けている。
ルーファスからは痛い程の殺気をこめられた視線を向けられているが──
「エメラルド殿とルーファスの仲を取り持つだけなら、ウィステリア殿を排除する必要はなかっただろう?お前は、ウィステリア殿の何が気に入らなかったんだ?」
「───何が……気に入らなかった?って……全て…です……」
ゆっくりと上げた顔は、王女の風格だけを纏った王女らしい凛とした顔だった。見た目だけなら満点王女だ。
「ルーは、誰にでも優しくて、誰にでも微笑むの。でも、誰もルーの目には……映っていない。私は、そのルーの目に映りたかった。私だけのモノにしたかったのに……」
そう言いながら、妹はルーファスをうっそりとした微笑みで見つめている。私からはルーファスの顔は見えないが、おそらく、ルーファスはそんな妹をピクリとも表情を変える事なく睨ん──見据えているだろう。
「それなら、何故お前がルーファスを得ようとするのではなく、エメラルド殿との仲を取り持とうとしたんだ?」
自分の好きな相手を、他の女と取り持とうとするなど、全く意味が分からない。
「それは、私がどれだけルーが欲しくても、ルーが伯爵家の嫡子である限り、結婚できないからです。」
ーは?ー
「私の結婚相手は侯爵以上ですからね?だから──エメの結婚相手にルーを──と思ったんです」
ーん?目の前の生命体?は、何を言っている?ー
「エメは私に従順だから、エメは私の側にずっと居るから、エメがルーと結婚すれば、ルーも私の側にずっと居る事ができるでしょう?喩え、私が降嫁しても、私とエメが聖女である限り…ずっと一緒で……そこにはルーが居るの。素敵な考えでしょう?ふふっ─」
「「…………」」
ー“ふふっ─”って…怖くないか?ー
妹は、私の想像以上の思考の持ち主だった。
単純に、自分とは結ばれる事はないから諦めて、聖女として頑張っているエメラルド殿との仲を取り持って─と言う理由であれば、まだ少しは救いがあったのかもしれないが……。
自分の側に居させる為にエメラルド殿を利用しようとしたとは…。
「それなのに……ルーがあの女─ウィステリアを目で追うようになって!“愛称で呼んでも良いか?”とか!“名前で呼んで欲しい”とか……ルーがあの女に希う声なんて、聞きたくもなかった!あの希う甘い声は、私に向けるべき声よ!あの優しい目も、私に向けるべきものよ!だから、あの女が元の世界に還ったと分かった時は、本当に嬉しかった。あんな、可愛くもない女魔導士だなんて、ルーにもこの世界にも必要なんてないもの!」
ーまさか、ここまでの思考だとは…思ってもみなかったなー
「邪魔者が居なくなってくれて喜んでいたのに……それなのに、ルーから笑顔も微笑みも…優しい瞳も失くなってしまって……」
それから聞こえて来たのが─
『シーヴァー様が本当に想っていたのは、ウィステリアさんだった?』
『彼女が還ってしまったから、シーヴァー様は笑わなくなった?』
「あの女は、この世界から居なくなったのに…それなのに、まだ、ルーは…あの女に囚われたままだった。それが……許せなかった。」
ギリッ─と、口を歪ませる妹の顔は、なんとも醜い顔をしている。
「1年経っても2年経っても、ルーは笑わないし微笑まない。それでも、ルーが私の側から離れる事はなかったでしょう?」
ルーファスが、直ぐに私の専属に戻らなかったのは、戻したくても戻せなかったから─だ。
浄化の旅が終わった後、怒りを通り越して呆れ果てたメイナードから受けた報告は、国王陛下を怒らせるには十分なモノだった。
助け合いながら行われるべき旅の筈が、偏った意識を持った騎士のせいで魔導士達を蔑ろにした事。聖女と言う理由だけで王女の思考に従い、召喚された者であるウィステリア殿を蔑ろにした事。
そもそも、その対応が旅の前からあり、特に騎士団の態度が酷く、各所属部署の長から注意を受けていた筈だったのに、改められる事は無く、寧ろ悪化していたのだ。
召喚される者が聖女1人だけでは駄目なのだ。異世界へと強制送還された者への負担は想像以上に過酷なモノだろう。その為に、必ず数名が選ばれる。聖女は特別な存在の為、2人以上にその能力を与える事はできない。その代わりに、魔導士や剣士の能力が与えられるのだ。
“聖女=愛し子”
ではなく
“能力が与えられている者=愛し子”
なのだ。
「…そんな事───」
「“していない”とは言わせないぞ。お前の周りに居た脳筋馬鹿の騎士達が言っていたからな。“エメとルーはお似合いだ”“聖女ではない女性の召喚者は必要なのか?”と、言っていたそうだな?それは何故だ?何故ウィステリア殿を排除しようとしたんだ?」
「……」
肩をプルプルと震えさせ俯いたまま黙り込んでいる様は、傍から見れば私が妹を苛めていて、それに耐えている─と見えるだろう。現に、声が聞こえるかどうかの位置で控えている近衛騎士達は、妹に心配そうな視線を向けている。
ルーファスからは痛い程の殺気をこめられた視線を向けられているが──
「エメラルド殿とルーファスの仲を取り持つだけなら、ウィステリア殿を排除する必要はなかっただろう?お前は、ウィステリア殿の何が気に入らなかったんだ?」
「───何が……気に入らなかった?って……全て…です……」
ゆっくりと上げた顔は、王女の風格だけを纏った王女らしい凛とした顔だった。見た目だけなら満点王女だ。
「ルーは、誰にでも優しくて、誰にでも微笑むの。でも、誰もルーの目には……映っていない。私は、そのルーの目に映りたかった。私だけのモノにしたかったのに……」
そう言いながら、妹はルーファスをうっそりとした微笑みで見つめている。私からはルーファスの顔は見えないが、おそらく、ルーファスはそんな妹をピクリとも表情を変える事なく睨ん──見据えているだろう。
「それなら、何故お前がルーファスを得ようとするのではなく、エメラルド殿との仲を取り持とうとしたんだ?」
自分の好きな相手を、他の女と取り持とうとするなど、全く意味が分からない。
「それは、私がどれだけルーが欲しくても、ルーが伯爵家の嫡子である限り、結婚できないからです。」
ーは?ー
「私の結婚相手は侯爵以上ですからね?だから──エメの結婚相手にルーを──と思ったんです」
ーん?目の前の生命体?は、何を言っている?ー
「エメは私に従順だから、エメは私の側にずっと居るから、エメがルーと結婚すれば、ルーも私の側にずっと居る事ができるでしょう?喩え、私が降嫁しても、私とエメが聖女である限り…ずっと一緒で……そこにはルーが居るの。素敵な考えでしょう?ふふっ─」
「「…………」」
ー“ふふっ─”って…怖くないか?ー
妹は、私の想像以上の思考の持ち主だった。
単純に、自分とは結ばれる事はないから諦めて、聖女として頑張っているエメラルド殿との仲を取り持って─と言う理由であれば、まだ少しは救いがあったのかもしれないが……。
自分の側に居させる為にエメラルド殿を利用しようとしたとは…。
「それなのに……ルーがあの女─ウィステリアを目で追うようになって!“愛称で呼んでも良いか?”とか!“名前で呼んで欲しい”とか……ルーがあの女に希う声なんて、聞きたくもなかった!あの希う甘い声は、私に向けるべき声よ!あの優しい目も、私に向けるべきものよ!だから、あの女が元の世界に還ったと分かった時は、本当に嬉しかった。あんな、可愛くもない女魔導士だなんて、ルーにもこの世界にも必要なんてないもの!」
ーまさか、ここまでの思考だとは…思ってもみなかったなー
「邪魔者が居なくなってくれて喜んでいたのに……それなのに、ルーから笑顔も微笑みも…優しい瞳も失くなってしまって……」
それから聞こえて来たのが─
『シーヴァー様が本当に想っていたのは、ウィステリアさんだった?』
『彼女が還ってしまったから、シーヴァー様は笑わなくなった?』
「あの女は、この世界から居なくなったのに…それなのに、まだ、ルーは…あの女に囚われたままだった。それが……許せなかった。」
ギリッ─と、口を歪ませる妹の顔は、なんとも醜い顔をしている。
「1年経っても2年経っても、ルーは笑わないし微笑まない。それでも、ルーが私の側から離れる事はなかったでしょう?」
ルーファスが、直ぐに私の専属に戻らなかったのは、戻したくても戻せなかったから─だ。
浄化の旅が終わった後、怒りを通り越して呆れ果てたメイナードから受けた報告は、国王陛下を怒らせるには十分なモノだった。
助け合いながら行われるべき旅の筈が、偏った意識を持った騎士のせいで魔導士達を蔑ろにした事。聖女と言う理由だけで王女の思考に従い、召喚された者であるウィステリア殿を蔑ろにした事。
そもそも、その対応が旅の前からあり、特に騎士団の態度が酷く、各所属部署の長から注意を受けていた筈だったのに、改められる事は無く、寧ろ悪化していたのだ。
召喚される者が聖女1人だけでは駄目なのだ。異世界へと強制送還された者への負担は想像以上に過酷なモノだろう。その為に、必ず数名が選ばれる。聖女は特別な存在の為、2人以上にその能力を与える事はできない。その代わりに、魔導士や剣士の能力が与えられるのだ。
“聖女=愛し子”
ではなく
“能力が与えられている者=愛し子”
なのだ。
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