二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん

文字の大きさ
上 下
25 / 82
二度目の召喚

キッカ

しおりを挟む

「黒色の珍しい色をした使用人が、王都に行きたがっていた。」

嬉々として語ってくれたのは、街で屋台を出していた年配の女性だった。まさしく、今回の視察で探そうとしていた女の子の情報だった。ただ、違法に買ったであろう女の子を、そうやすやすと外へ出すものか?騙されているのか?と、逆に不安にもなったりしたが、兎に角──と、アレサンドルは予定通り、2日目はキルソリアン邸へとやって来た。

そしてその背後には──ニコリとも近衛騎士のルーファス=シーヴァーが控えていた。

キルソリアンの家令が部屋を出て行ってからは、王太子が何も喋らなくなり、ジェイミーはただひたすらその沈黙に耐えていた──その時。

「何があった!?」

アレサンドルが声を上げたのと同時に、ルーファスがアレサンドルを護るように背中に隠し、部屋の扉の方へと視線を向けた。扉の向こう側から、とてつもなく大きな魔力が溢れて来たのだ。その扉が開き入って来たのは─

「ケイ……ティ?」

ジェイミーが呆然としながらも、その名を口にすると、ケイティは目をスッと細めてジェイミーを見据えたまま口を開いた。

『その名前で呼ばないでくれる?私はね……その名が……大嫌いなのよ。』

ケイティが手を振ると、ジェイミーは一瞬にして炎に包まれて、そのまま気を失ってしまった。その場に倒れたジェイミーは……炎に包まれた筈だったが、火傷一つ負ってはいなかった。

その倒れたジェイミーを、ケイティは一瞥した後、アレサンドルへと視線を移した。

『お前が…王太子か?』

「あぁ……私は、この国の王太子アレサンドル……だ。」

『色々訊きたい事があるけど……先に…此奴等のをして良い?』

「処理…とは……」

ーその前に、今目の前に居る狐獣人?は一体何者なんだ?そして、処理とは何だ?ー

“ケイティ”と呼ばれた彼女には獣人特有のピンと立った耳があり尻尾もあるが、何故か尻尾は3本もあり、その溢れる魔力から、人間ひとでも獣人でも無い事が判る。内心アレサンドルが焦っていると「ケイティさん!」と、1人の女の子が部屋に入って来た。


その女の子は、黒い髪─漆黒を思わせる程の黒で、その瞳もまた、黒色だった。

「ウィステリア殿!?」

まっ先に反応したのは、ルーファス=シーヴァーだった。








「“処理”をするのは、尋問をした後にして欲しい」

と、何故かアレサンドル様がケイティさんに頭を下げてお願いをしていた。
ケイティさんは、渋々と言った感じで『分かったわ』と言った後、パチンッと指を弾き鳴らし、部屋全体に外部と一切の遮断をする結界を張り『話をしましょうか』と微笑んだ。





それからケイティさんから聞かされた話は、驚きの連続だった。

ケイティさん改め─キッカさんは、所謂3尾の狐─妖狐だった。キッカさんは、召喚者─愛し子を保護する為に、召喚者側の神様から遣わされていたそうだ。
そのキッカさんの仕事は三つある。



一つ、この世界に居る間、愛し子達を護るこ事

二つ、元の世界に還る者を無事に送り届けて、魔力持ちであった場合は、その魔力の跡を消して、異世界との繋がりを完全に断ち切る事

三つ、異世界に残った者の名を、元の世界から完全に消し去り、その存在をにして、異世界に残った者に名を返す事


これが、キッカさんの役目だったそうだけど─

『少しの気の緩みで……狐姿をした私を、狐獣人と思った奴に、この枷を嵌められて……一切の魔力が使えなくなったのよ。普通なら、あんな枷位チョロいのに─最悪な事に、枷との相性が最悪で、自力ではどうにもならなかったのよ…本当に……忌々しい─っ』

キッカさんは、それはそれは恐ろしい程の冷たい視線を、倒れているジェイミーに向けている。



それが、私が元の世界へ還る直前の事だったそうで、私は女神アイリーン様の力で日本には還れたけど、魔力の跡は残ってしまい、そのまま異世界と繋がったままの状態だったそうだ。
そして、何よりも……居残った3人の、日本での扱いが“行方不明”だったのも、そのせいだった。

「それ…アイリーン様が、何とかしてくれたり─とかはないの?」

ーキッカさんが動けなくなったまま放置とか…おかしくない?ー

『女神アイリーン様は、召喚する時や召喚者に加護を与える事、更には元の世界へ還す為に力を使うから、元の世界へ還る者を送り届けた後は、その力を取り戻す為に数年─最低でも5年は眠り続けるの。だから、そのアイリーン様の代わりに、私が事後処理?をすると言う感じなのよ…それなのに……』

「──だから、居残った3人は、未だに名前を思い出していないのか……。」

「え!?そうなんですか!?」

それにはビックリだ。

『そうよ。まだ、元の世界での3人の存在を無にしていないから、名を返せていないのよ。名を返せないと、これもまた、元の世界とは完全に断ち切る事ができないし、この世界に馴染む事もできず、不安定な存在になってしまうの。だから、早く向こうに渡って、仕事をしないといけないのだけど……』

と、キッカさんは一度口を閉じた後



『どうして、また、ウィステリアがこの世界に召喚されたのか、説明してくれるかしら?』


笑ってるのに笑っていない目をしたキッカさんが、そこに居た。



しおりを挟む
感想 223

あなたにおすすめの小説

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

王太子殿下から逃げようとしたら、もふもふ誘拐罪で逮捕されて軟禁されました!!

屋月 トム伽
恋愛
ルティナス王国の王太子殿下ヴォルフラム・ルティナス王子。銀髪に、王族には珍しい緋色の瞳を持つ彼は、容姿端麗、魔法も使える誰もが結婚したいと思える殿下。 そのヴォルフラム殿下の婚約者は、聖女と決まっていた。そして、聖女であったセリア・ブランディア伯爵令嬢が、婚約者と決められた。 それなのに、数ヶ月前から、セリアの聖女の力が不安定になっていった。そして、妹のルチアに聖女の力が顕現し始めた。 その頃から、ヴォルフラム殿下がルチアに近づき始めた。そんなある日、セリアはルチアにバルコニーから突き落とされた。 突き落とされて目覚めた時には、セリアの身体に小さな狼がいた。毛並みの良さから、逃走資金に銀色の毛を売ろうと考えていると、ヴォルフラム殿下に見つかってしまい、もふもふ誘拐罪で捕まってしまった。 その時から、ヴォルフラム殿下の離宮に軟禁されて、もふもふ誘拐罪の償いとして、聖獣様のお世話をすることになるが……。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

巻き込まれではなかった、その先で…

みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。 懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………?? ❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。 ❋主人公以外の他視点のお話もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。 ❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

処理中です...