氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん

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ゼン②

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「谷底に落ちた馬車が見付かった。」

「……」

「御者は…遺体で発見されたが……」

彼女は見付からなかった。





彼女─母さんが馬車に乗り出発した日の夕方、天候が急に悪化し、嵐のような雨が降り出した。それでも、もう少しで生家に辿り着く─と言う所迄来ていたからだろう。そのまま馬車を走らせ──生家目前にある橋を渡っている時に、風に煽られてそのまま谷底へと転落してしまったそうだ。

それをたまたま目撃していた人が居た為、それはすぐに報告され、すぐに捜索隊が動いてくれたのだが──


「御者は見付かったが、既に息はしていなかったそうだ。」

「それで?お母さんは……」

「母さんは…見付からなかったんだ。見付かった御者は、倒れていた場所が川岸だったんだが…母さんは…多分川に落ちて流されたのではないかと。嵐のせいで、川の流れも速くなっていたそうだから…範囲も広げて探したけど…一週間経っても…一ヶ月経っても…見付からなかったんだ。それでも、その川沿いにある町や村に、時間を作っては母さんが居ないか探しに行った。でも…それでも…見付ける事ができなかった。」

「そう…なんだ。今迄誰も何も言わなかったから、何か訳ありかなとは…思ってたけど…。」

「まぁ…言い難かったと言う事もあるが、俺がな…まだ未だに受け入れられていないと言うか…まだどこかで生きているんじゃないかと──。」

それから、お父さんは軽く息を吐いた後                                                   

「ロンが俺似だったから、次は彼女似の女の子が欲しいな─と…話していたんだ。彼女は──緩く波打つ金髪で…瞳の色が水色だった。」

「───あ…」

お父さんは、ゆっくりと私の方へと視線を向ける。

「そう。ハルが変装した姿が…彼女にそっくりだったんだ。」

ーあぁ、だから、あの時、あの姿の私を見て固まっていたのかー

「つい…母さんが生きていて、娘が居たら…こんな子だったのか─と…思ってしまって。いや、ハルも俺の娘である事には変わりないんだがな。何と言うか…色んな事を考えてしまって…それでハルに心配を掛けてしまったんだ。ハルも記憶を失くして大変だっただろうに。すまなかったな。」

「それこそ謝らないで下さいね!何と言うか…その人に似ていると言われるのは…嬉しいですよ?」

「……そうか。」

お父さんはそう言って、目を細めて微笑んだ。




「ところで、父さんは、母さんの姿絵とかは持ってないんですか?」

「あ、そう言うのがあれば、私も見てみたいです!」

「1枚だけ…あるが……30年位前のモノだぞ?」

そう言って、お父さんがズボンのポケットからペンダントのようなモノを取り出し、ソレをお兄さんに手渡す。
そのペンダントトップを開けると、中に姿絵が入っているようだ。

「これが…母さん?本当に……変装したハルにそっくりだね。これは…確かに驚くね。ほら、ハルも見てみて?」

と、お兄さんに手渡されて、その姿絵を見ると──

「────え?」

ヒュッと息を呑んだ。

バクバクと音を立てて心臓が騒ぎ出して、そのまま手が震え出した。

「ハル?」

そんな私に、横に座っているお兄さんが心配そうに声を掛けて来る。

「あ…あの…少し…見てもらいたいモノがあるから…部屋に戻って取って来ても…良いですか?」

少し声が震えてしまったけど、許して欲しい。

お父さんとお兄さんは、そんな私の様子を気にしつつも「分かった。待ってるから。」と言ってくれたので、私は震える足に力を入れて執務室から出て自分の部屋へと向かった。




それから、何とか部屋に戻り、目的のを取り出し、もう一度執務室へと向かった。

「ハル、大丈夫か?」

「──あの…私…ちょっと混乱していて…あの…その…彼女の名前は…何と言うんですか?」

「彼女─あぁ、まだ言ってなかったか。彼女の名前は─“ユイ”だ。」





ーユイー





『私が覚えていたのは、名前はだけだったの。』





あれは、事故に遭う前─イギリスに行く前に初めて聞いた話で、本当に驚いた事を覚えている。






「あの…これは写真と言って、私の世界のモノで…対象のモノをそのまま写したモノなんですけど…これ……私の…父と母なんです。」

秘密のポーチに入っていた家族写真。そこに写っている父と母と私。



「────ユイ?」



そう。お父さんが持っていた姿絵の女性と、私が持っている写真に写っている母が……そっくりだったのだ。


「私も…両親が事故で亡くなる直前に教えてもらった事なんですけど…お母さんは…記憶を失った状態で…倒れていた所を…お祖母ちゃんに助けてもらったって…当時、お祖母ちゃんも旦那さんを亡くして一人になって…そこでお母さんを保護して一緒に過ごすうちに…娘のように思うようになって…養子縁組をしたって。そのお母さんが、唯一覚えていたのが自分の名前だけで───その名前が……“ユイ”だったって……。」

お父さん──ゼンさんは……大きく目を見開いた。



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