氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん

文字の大きさ
上 下
39 / 62

ゼン①

しおりを挟む
翌日。

お父さんとの話は、朝食を食べてからの午前中に─と言う事になった。

「ハル、おはよう。」

「お兄さん、おはようございます。」

「ハル、今日の父との話には、私も同席する事になったから。」

「そうなんですか?」

てっきり、私とお父さんの2人かと思ってたけど…ロンさんも─と言う事は…。








*ゼンの執務室*


「ハル、記憶が戻ってから…体調は大丈夫か?」

「はい、体調は問題ありません。」


朝食を食べて暫くした後、お父さんが私を迎えに来て、そのままお父さんの執務室迄やって来た。そして、そこには既にお兄さんが居た。
今、この部屋に居るのは3人だけだ。


「さて…どこから話そうか……」

と、お父さんが思案していると

「ところで、私にはよく分からないんだけど…これは、何の話し合いなんですか?」

「えっと……」

ー何て説明すれば良い?“お父さんの様子が変だったから”何て言える?ー

と、うーんうーんと考えていると

「ロンにも…話していなかった事だったから、丁度良いかと思ってな。ロン───お前の……母親の事だ。」

“母親?”

ーえ?そんな…話だったの?え?それ、逆に私が居て良いの!?ー

分からない事だらけのまま、お父さんはゆっくりと語り出した。





俺の家系は代々グレン様の生家である伯爵家に仕える者であり、幼少の頃よりグレン様付きとして文武共に厳しく育てられた。グレン様は武に長けた人だった為、それよりも強く─と、更に厳しく鍛えられた。

そして、俺が16歳になった時に婚約者ができた。 
政略的な婚約だったが、彼女─名前は…クラリス…だったか?は、可愛らしい女性だった。
ただ、その父親が厳格な父親で、婚前交渉は勿論の事、2人で出掛ける事でさえ咎めるような親だった。

「あれ?婚約者なのに、デートさえ駄目なのか?」

とも思ったが、将来の義父に言われれば仕方無い─それに、武術の訓練などでも忙しかった為、取り敢えず手紙やプレゼンでもしておけば問題無いか─と、俺からも積極的に会いに行く事はしなかった。

そんな日々を過ごして2年経った頃、クラリスから“会って話がしたい”と手紙が来た。





「子供ができたの」

「─────は?」

ー“子供”とは何だ?ー

いや、子供の意味は分かっている。ただ、できるような事をした覚えが全く無い──と言う事は…。

クラリスが言うには、俺に会えなくて寂しかったと。その寂しい時にいつも側に居た…居てくれた幼馴染とやらと関係を持ってしまったと。それで、烈火の如く父親に叱られたと、俺の目の前で泣きながら語られた。どうしたものか…と思っていたところに、その幼馴染とやらが来て、目の前で愛情劇を繰り広げられ、最後には2人手を取って出て行った。

「何だコレ?」

と口から出たのは許して欲しい。

当たり前だが、クラリスの親からはひたすら謝られたが、慰謝料等は断って、すぐに婚約解消と言う事になった。





「────え?まさか、そのクラリスと言う人が私の母親なんですか!?」

「違う。そのクラリスとは、それきり会ってもいない。」

「それなら良かったです。」

お兄さんは、ホッとしたように息を吐き、お父さんは一息つくように紅茶を口にした後、また話し出した。





そんな憐れ?な俺を慰める─と言う名目で、仲間内で飲みに行った店で彼女に会った。

彼女は、女友達と一緒に食事をしに来ていた。
一目惚れだった。

「それが…その彼女がロン、お前の母さんだった。」




その日は彼女を見るだけ、時々耳に入る声を聞くだけで終わった。
それでも、どうしても彼女が気になって、それからはよくその店に行くようになった。どうやら彼女はそこの店の常連のようで、よく同じ女友達と来ていると言う事が分かった。

そこからは─攻めに攻めまくった。
クラリスの時のように、他の誰かに奪われたら─と思うといても立ってもいられなくなった。
偶然を装って声を掛け、それ以降は会うたびに話をした。
彼女と話せば話す程惹かれていった。
彼女に秋波を送る男には、牽制を掛けた。

そんな日々を過ごして彼女との距離を詰めて──1年程経ってからプロポーズをして受け入れてくれて、そこから半年後には結婚した。それからは、本当に毎日が楽しくて幸せで…。


「その1年後に、ロンが生まれたんだ。見て分かるだろうが、お前は生まれた時から俺に似ていた。だから、母さんは喜んでいたよ。」

ロンが生まれてからも、3人で穏やかな日々を過ごしていた。

それが…ロンが1歳になるかならないか─の時だった。
母さんの母親─ロンのお祖母さんが亡くなったと知らせがあった。もともと両親が早くに亡くなっていた為、母さんの身内はそのお祖母さんだけだった。その為、葬儀の為に生家に帰る事になったのだが、運悪く俺はその時魔獣の討伐に出掛けていて、一緒には行けなかった。

「葬儀が終われば、すぐに戻って来るわ。ロンをお願いね。」

と、母さんは、まだ小さかったお前をシルヴィア様に預けて、一人生家へと向かった。


そして、それが──



彼女の最後の姿となった。





しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

【完結】裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!

綺咲 潔
恋愛
クリスタ・ウィルキンスは魔導士として、魔塔で働いている。そんなある日、彼女は8000年前に聖女・オフィーリア様のみが成功した、生贄の試練を受けないかと打診される。 本来なら受けようと思わない。しかし、クリスタは身分差を理由に反対されていた魔導士であり婚約者のレアードとの結婚を認めてもらうため、試練を受けることを決意する。 しかし、この試練の裏で、レアードはクリスタの血の繋がっていない妹のアイラととんでもないことを画策していて……。 試練に出発する直前、クリスタは見送りに来てくれた騎士団長の1人から、とあるお守りをもらう。そして、このお守りと試練が後のクリスタの運命を大きく変えることになる。 ◇   ◇   ◇ 「ずっとお慕いしておりました。どうか私と結婚してください」 「お断りいたします」 恋愛なんてもう懲り懲り……! そう思っている私が、なぜプロポーズされているの!? 果たして、クリスタの恋の行方は……!?

王太子殿下から逃げようとしたら、もふもふ誘拐罪で逮捕されて軟禁されました!!

屋月 トム伽
恋愛
ルティナス王国の王太子殿下ヴォルフラム・ルティナス王子。銀髪に、王族には珍しい緋色の瞳を持つ彼は、容姿端麗、魔法も使える誰もが結婚したいと思える殿下。 そのヴォルフラム殿下の婚約者は、聖女と決まっていた。そして、聖女であったセリア・ブランディア伯爵令嬢が、婚約者と決められた。 それなのに、数ヶ月前から、セリアの聖女の力が不安定になっていった。そして、妹のルチアに聖女の力が顕現し始めた。 その頃から、ヴォルフラム殿下がルチアに近づき始めた。そんなある日、セリアはルチアにバルコニーから突き落とされた。 突き落とされて目覚めた時には、セリアの身体に小さな狼がいた。毛並みの良さから、逃走資金に銀色の毛を売ろうと考えていると、ヴォルフラム殿下に見つかってしまい、もふもふ誘拐罪で捕まってしまった。 その時から、ヴォルフラム殿下の離宮に軟禁されて、もふもふ誘拐罪の償いとして、聖獣様のお世話をすることになるが……。

このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。 嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。 イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。 娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。

「ババアはいらねぇんだよ」と婚約破棄されたアラサー聖女はイケメン王子に溺愛されます

平山和人
恋愛
聖女のロザリーは年齢を理由に婚約者であった侯爵から婚約破棄を言い渡される。ショックのあまりヤケ酒をしていると、ガラの悪い男どもに絡まれてしまう。だが、彼らに絡まれたところをある青年に助けられる。その青年こそがアルカディア王国の王子であるアルヴィンだった。 アルヴィンはロザリーに一目惚れしたと告げ、俺のものになれ!」と命令口調で強引に迫ってくるのだった。婚約破棄されたばかりで傷心していたロザリーは、アルヴィンの強引さに心が揺れてしまい、申し出を承諾してしまった。そして二人は幸せな未来を築くのであった。

冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました

富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。 転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。 でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。 別にそんな事望んでなかったんだけど……。 「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」 「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」 強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

処理中です...