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あーあ、やっぱりダメだった。
あの人から離れて、先生の家で安心して眠れるようになって。ちゃんと恋愛できるって思ったのがバカだった。布団の上の下着姿の先輩を見ただけでもう、無理だった。
『大丈夫だから』
『お姉さんが教えてあげる』
興奮と、恐怖と、焦燥感。体は反応しているのに情緒はずっとジェットコースターみたいにおかしくて。それが涙という形で現れたのは不幸中の幸いだったのだと思う。もしも吐いてたりしたら悲惨だったろうし。
脱いだスーツを着て1人、家を出る。先輩は追いかけて来なかった。
いつもは外でご飯を食べていた。今日は初めて、家で。料理が趣味ってことを覚えていたらしく、俺の料理が食べたいからって呼ばれたはずだ。なのに、食事を終えた後、急に服を脱ぎ出して、俺のワイシャツのボタンも外し始めて。正直な体は反応していたのに、どうしても、はだけた体で思い出してしまって。あの人みたいに皺の入っていない、ツヤツヤの肌。割れていない爪、花の匂いのするカールがかった髪。人形みたいに綺麗なはずなのに、どうしても生々しくて、気持ち悪くて。怖くて泣いて喚いたら先輩は諦めてくれた。
一人暮らしの女の家に行くっていうことは、そういうことなのよ、とも言った。
「童貞くん」である俺は、もっと可愛く頬を赤らめて、されるがままにするべきだったらしい。所詮俺は遊ばれていただけ。でも今はそれで良かった、そう思う。だって、もし本気だったら、そう思うともっと自分が嫌いになりそうだったから。どうせ一線を越えてても遊びだったんだから結果は同じ、結ばれない。そう思わないとやってられない。
それでもやっぱり落ち込んだ。俺は一生、引きずって行くんだろうなって。今資格を取ろうと頑張っているのも、恋愛が上手くできない劣等感でヤケクソになっているだけ。こんなのが自信になるはずがない。もっともっと、いっぱい勉強するしかないのだろうか。もっと難しい資格を取って、仕事に打ち込んで、恋なんてしなくても楽しいって思えるようになれば良いのだろうか。
泣きながら着たシャツは一個ボタンを付け違えている。乗せられた太ももの感触がまだ、残っている。
「っ、~、」
ああもう嫌だ。別の人間に生まれたい。俺、本当にダメな奴。そんなことを考えているとまた、鼻水が垂れた。
(…ぁ…)
こんなに感傷的になっているのに、下腹部がじんわりと重い。そりゃそうだ。何となく女の人の家だから緊張して、いっぱいお茶を飲んだくせに一度も行かなかったんだから。
何となく気づいた違和感は今はしっかりと質量を孕んで苦しい。
(…………おしっこ…)
肌寒い外は、さらに膀胱を縮める。ここから駅は歩いて30分以上かかるし、近くのコンビニがどこにあるのかもわからない。もう一回先輩の家に戻ってトイレを借りるか?いや、俺はそんなに図太くない。
おしっこ。おしっこおしっこおしっこ。
とりあえず帰るための駅に向かって歩く。住宅街ばっかりで、こんな時間だから店も閉まっていて。この時間帯のこの道は、トイレに行きたい人間が歩いているってことを想定していない。
何時間分、溜まっているんだろう。あ、会社、出る前だ。
さぁーっと背筋が冷える。今はもう11時になろうとしていて、約5時間分溜まっているって自覚して。漏れそう、今すぐ駆け込みたいぐらいに。自覚なく背中が丸まって、お腹、痛い。
何でもっと早く借りなかったんだ、何で4杯もお茶飲んだんだ。知らない土地すぎて、不安しかない。下腹は限界近いよってヒクヒクきゅんきゅんしている。早く出してって暴れている。
(あっといれっ、)
チカチカと光る青い光は見慣れたコンビニ。でも切羽詰まりすぎて、トイレにしか見えない。あそこに走って中に入ればトイレ。トイレできる。おしっこいっぱい出せる、お腹、すっきりできる。
「いらっしゃいませー」
「っ、ぁ、あのっ、!!ぁ…」
声をかけようとして気づく。
『トイレの貸し出しはしていません』
デカデカと目につく張り紙の前でトイレ貸してくださいは間抜けすぎる。
「っ、ぃえ、なんでもないです…」
最悪最悪最悪。わざわざ信号を渡って、駅への方向を5分も逆走したのに。便器に思いっきり叩きつける妄想を少しでもしてしまった自分の脳が憎い。スッキリ出来ると勘違いしたままの出口はもう、括約筋でどうにかなる範疇を超えている。
「っはぁっ、んぁっ、っぁっ、」
耐えきれなくて走る。タプタプと揺れる下腹を摩って、前を何度も擦り上げて、握りしめて。信号が変わらない。じっとしてるの、辛い。その場で足踏みして、ズボンもありったけ引き上げて。
「ぁっ、」
ちょっと出た。しぃぃっ、て。下腹を押さえていた手を反射的に出口に持っていき、足をクロスさせてぎゅううううと握りしめる。じわ…じわ、と広がり続ける温かい感触は気のせいだろうか、汗だろうか。
さすがに外で、この歳ではヤバい。まだ秋の、肌寒い程度なのにめちゃくちゃ寒い。
(も…うごけない…)
あの人から離れて、先生の家で安心して眠れるようになって。ちゃんと恋愛できるって思ったのがバカだった。布団の上の下着姿の先輩を見ただけでもう、無理だった。
『大丈夫だから』
『お姉さんが教えてあげる』
興奮と、恐怖と、焦燥感。体は反応しているのに情緒はずっとジェットコースターみたいにおかしくて。それが涙という形で現れたのは不幸中の幸いだったのだと思う。もしも吐いてたりしたら悲惨だったろうし。
脱いだスーツを着て1人、家を出る。先輩は追いかけて来なかった。
いつもは外でご飯を食べていた。今日は初めて、家で。料理が趣味ってことを覚えていたらしく、俺の料理が食べたいからって呼ばれたはずだ。なのに、食事を終えた後、急に服を脱ぎ出して、俺のワイシャツのボタンも外し始めて。正直な体は反応していたのに、どうしても、はだけた体で思い出してしまって。あの人みたいに皺の入っていない、ツヤツヤの肌。割れていない爪、花の匂いのするカールがかった髪。人形みたいに綺麗なはずなのに、どうしても生々しくて、気持ち悪くて。怖くて泣いて喚いたら先輩は諦めてくれた。
一人暮らしの女の家に行くっていうことは、そういうことなのよ、とも言った。
「童貞くん」である俺は、もっと可愛く頬を赤らめて、されるがままにするべきだったらしい。所詮俺は遊ばれていただけ。でも今はそれで良かった、そう思う。だって、もし本気だったら、そう思うともっと自分が嫌いになりそうだったから。どうせ一線を越えてても遊びだったんだから結果は同じ、結ばれない。そう思わないとやってられない。
それでもやっぱり落ち込んだ。俺は一生、引きずって行くんだろうなって。今資格を取ろうと頑張っているのも、恋愛が上手くできない劣等感でヤケクソになっているだけ。こんなのが自信になるはずがない。もっともっと、いっぱい勉強するしかないのだろうか。もっと難しい資格を取って、仕事に打ち込んで、恋なんてしなくても楽しいって思えるようになれば良いのだろうか。
泣きながら着たシャツは一個ボタンを付け違えている。乗せられた太ももの感触がまだ、残っている。
「っ、~、」
ああもう嫌だ。別の人間に生まれたい。俺、本当にダメな奴。そんなことを考えているとまた、鼻水が垂れた。
(…ぁ…)
こんなに感傷的になっているのに、下腹部がじんわりと重い。そりゃそうだ。何となく女の人の家だから緊張して、いっぱいお茶を飲んだくせに一度も行かなかったんだから。
何となく気づいた違和感は今はしっかりと質量を孕んで苦しい。
(…………おしっこ…)
肌寒い外は、さらに膀胱を縮める。ここから駅は歩いて30分以上かかるし、近くのコンビニがどこにあるのかもわからない。もう一回先輩の家に戻ってトイレを借りるか?いや、俺はそんなに図太くない。
おしっこ。おしっこおしっこおしっこ。
とりあえず帰るための駅に向かって歩く。住宅街ばっかりで、こんな時間だから店も閉まっていて。この時間帯のこの道は、トイレに行きたい人間が歩いているってことを想定していない。
何時間分、溜まっているんだろう。あ、会社、出る前だ。
さぁーっと背筋が冷える。今はもう11時になろうとしていて、約5時間分溜まっているって自覚して。漏れそう、今すぐ駆け込みたいぐらいに。自覚なく背中が丸まって、お腹、痛い。
何でもっと早く借りなかったんだ、何で4杯もお茶飲んだんだ。知らない土地すぎて、不安しかない。下腹は限界近いよってヒクヒクきゅんきゅんしている。早く出してって暴れている。
(あっといれっ、)
チカチカと光る青い光は見慣れたコンビニ。でも切羽詰まりすぎて、トイレにしか見えない。あそこに走って中に入ればトイレ。トイレできる。おしっこいっぱい出せる、お腹、すっきりできる。
「いらっしゃいませー」
「っ、ぁ、あのっ、!!ぁ…」
声をかけようとして気づく。
『トイレの貸し出しはしていません』
デカデカと目につく張り紙の前でトイレ貸してくださいは間抜けすぎる。
「っ、ぃえ、なんでもないです…」
最悪最悪最悪。わざわざ信号を渡って、駅への方向を5分も逆走したのに。便器に思いっきり叩きつける妄想を少しでもしてしまった自分の脳が憎い。スッキリ出来ると勘違いしたままの出口はもう、括約筋でどうにかなる範疇を超えている。
「っはぁっ、んぁっ、っぁっ、」
耐えきれなくて走る。タプタプと揺れる下腹を摩って、前を何度も擦り上げて、握りしめて。信号が変わらない。じっとしてるの、辛い。その場で足踏みして、ズボンもありったけ引き上げて。
「ぁっ、」
ちょっと出た。しぃぃっ、て。下腹を押さえていた手を反射的に出口に持っていき、足をクロスさせてぎゅううううと握りしめる。じわ…じわ、と広がり続ける温かい感触は気のせいだろうか、汗だろうか。
さすがに外で、この歳ではヤバい。まだ秋の、肌寒い程度なのにめちゃくちゃ寒い。
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