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芽生え~彼此繋穴シリーズ短編~

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 一歩、二歩。足を踏み出す度に、木の板が乾いたきしみを上げる。木が悲鳴を上げているように感じて、歩みを進めることに躊躇ためらいが出た。

 けれど、父が下りている。ついていかなくてはいけない。

 父に失望されたくなくて、僕はまた歩き始める。より慎重に、注意深く。階段が傷まないか、生き物がいないか。確認しながら階段を下りる。

 いつくしみやあわれみを感じる心が芽生えてまだ間もない。

 だけど、胸に根付いたそれは、もはや大樹になっていた。

 そしてまだ成長は続いている。僕にはそれがはっきりと感じられた。

 ふと、違和感に気づく。

 体の周囲を微風そよかぜが巡っていた。階段を下り始めたときから、ずっとまとわりついているように思う。父を見たが、風を受けているようには見えなかった。

 僕は気になり、父の背に向かって言った。

「あの、父さん」

「んー?」

「ここは、どこかと繋がっているんですか?」

「繋がっていると言うほどじゃないけど、通風孔はあるね。どうして?」

「風が、僕を撫でるんです。ずっと側にいます」

 父が立ち止まり、僕に顔を向ける。

「驚いたな」父が笑って言う。

「もう感じるのか。それは風海月カゼクラゲだよ」

「風海月って何ですか?」

「家で飼っているの生き物だよ」

「彼の世の生き物」僕は背筋が寒くなる。

「そ、それはどんなものですか?」

「百聞は一見にかず。明かりを消すよ。よく目を凝らしてごらん」

 父がランプの炎を吹き消す。辺りが闇に覆われる。

「何も見えません」僕は身震いする。

「父さん、怖いです」

「落ち着いて。感じているものを見るだけでいいんだよ。そこにいるんだから、見えない訳がない。そう思ってよく見るんだ」

 言われた通りに念じながら、数回静かに呼吸を繰り返す。すると周囲が青みがかった明かりに照らされた。それは宙に浮いた何匹もの小さな海月が放っている光だった。触手がほとんど見えず、傘の中央に四つ葉のクローバーのような模様が入っていた。
 
 
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