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日記
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しおりを挟む外に出て間もなく、鳴神が帰ってきた。俺は先ほどと同じように、お帰りと言って迎えたが、鳴神は俺の側に来るなり怪訝な顔で、
「死臭がするぞ」
と言い、俺の鼓動を乱した。
「失礼なことを言うなよ。確かに臭いかもしれないが、死臭はないだろう」
苦笑して誤魔化し、鳴神と共に離れ屋に入ったが、部屋でくつろいでいる間も、
「僕の名前は」
とか、
「僕は男か、女か」
などと大量に質問されて、不安を煽られた。
質問の内容があまりにも分かりきったことばかりだったので、何かを確かめられているように感じた俺は素直に訊いてみた。
「そんな質問に答えられん訳がないだろう。一体、何の意図があるんだ」
すると、鳴神は、
「化け物の臭いがしたから、その確認をしてるんだよ」
と、真面目な顔で言った。
「何だいそりゃあ」
俺は笑って言ったが、顔が引き攣っているのが自分で分かるほど動揺していた。ああ、これは危ないな、と思った通り、鳴神は俺の心を見透かし、
「良さん、何をそんなに動揺しているんだ」
と、グサリ。
俺は咄嗟に、
「百さんが怖いことを言うからだ」
と言い逃れた。
これは上手かったと思う。機転が利いたことに自分が一番驚いた。自分だけのことなので、一番も何もないが、それはどうでも良いことなので捨て措く。
鳴神は質問を終えると、安心したように深く息を吐いて、
「ああ、良かった。何も憑いていないようだ」
と、言って、遅めの昼飯を食い始めた。体のことを考えれば、鳴神のように昼飯を食うべきなのだろうが、俺は、また頭の中で色んなことが繋がって、完全に食欲が失せていた。それで、何もいらないと言ったのだが、バナナの皮を剥いて渡された。
「無理にでも食わないと駄目だ。水で流し込むといいよ」
俺は言われた通りにした。バナナは甘かった。
飯を食い終えたら、鳴神がドロップ缶の蓋を開けて、横にしてカラカラ鳴らした。
やがて穴から出てきたドロップを、二つばかし手に取って口に放り込んだ。
それから俺にドロップ缶を差し出した。遠慮すると、無理やり頭を掴んで一つ口移しされた。
「糖分を取るといい。低血糖の症状が出ているんだろう。酷い顔色をしているよ」
鳴神は、そう微笑んで言い、部屋を出て行った。
俺は見送りには出なかった。ドロップはハッカ味だった。
「破廉恥な」という独り言が部屋の静けさにじわじわ溶けた。まるでドロップのように。
ああ、これだから比喩は嫌いだ。背中がむず痒い。少し中断する。
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