【完結】彼此繋穴~ヒコンケイケツ。彼の世と此の世を繋ぐ穴~

月城 亜希人

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日記

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 十二日、好恵が山に胆試しに行った。そして、気が触れた。何が原因かは分からないが、ここは爺さんや地元の人が言う通り、山の神様の怒りに触れたという事にしておこう。

 その日の晩、あるいは翌朝、家族が好恵の変化に気づいて座敷牢を作ることにした。そして好恵をそこに閉じ込め、どうにか元に戻そうという計画を立てた。

 十三日、家族が母屋に座敷牢を拵えた。その間、好恵は身動きできないように、縄や何かで体の自由を奪われ、どこかに閉じ込められていた。布団に入れておけば、病に見せ掛けることもできたろう。

 俺が擦れ違った神主と巫女は、改築の地鎮祭に呼ばれたのではなく、好恵を元に戻すためのお祓いに呼ばれたと考えれば辻褄が合う。

 地鎮祭というものは、土地を利用することを神様にお願いして、土木工事の安全を祈願するものであって、建造物の新築時に行うのが基本だ。改築でそんな儀式をするなど聞いたことがないので不思議に思っていたが、やはり違っていたということだ。

 神主と巫女は、好恵を祓ったが効果がなかった。それで殺された。理由は口封じだ。

 好恵を座敷牢に閉じ込めていることが世間に知れたら、間違いなく警察が介入してくる。そうなれば好恵は病院に入れられ、家族は刑務所に行くことになる。

 隠すためには、家の状況を知った者の口封じをしないといけないから、家族の誰かが神主と巫女を殺して、遺体を蔵に隠した。親父の弟子も、同じ理由で殺されたんだろう。座敷牢の完成と共に、殺人が始まったということだ。

 十五日、俺は母屋で異変を感じている。お袋とイツ子さんが妙によそよそしく振舞うことと、唸り声と異臭、「犬でも飼ったのですか」と言った後に、お袋の態度が豹変したことが書いてある。

 お袋からすれば、何とかしたいと願っている娘のことを犬と呼ばれた訳だから、激怒して当然だろう。俺のことも守ろうとしていたと考えれば、尚のこと、腹が立ったろう。

 親の心子知らずとはよく言ったものだ。自分の馬鹿さ加減に愛想が尽きるが、泣き言は邪魔なだけなので、一旦措く。

 お袋の言っていた、「お客さん」というのは、あの乞食遍路のことだろう。神主が駄目だったから次は遍路。いや、装いがそうなだけで、実際は遍路ではなく、憑き物落としを生業としている者たちだったのではないだろうか。

 十八日の日記の前半に書いてある前日十七日の内容にも、派手な袈裟を着た中年の坊さんが母屋を訪ねる様子が書かれている。爺さんも親父も顔が広いし信心深いから、おそらく、人づてにそういうのを呼んでいたんだろう。

 いかがわしかろうが、胡散臭かろうが構わないという気持ちで、憑き物落としを生業にする者を呼び続けた。試さずにはいられなかったのだ。家族は皆、藁にもすがる思いで、好恵を救おうとしていたのだ。イツ子さんまで巻き込んで。

 だが、駄目だった。力が足りなかったのか、詐欺師だったのかは知らないが、連中に好恵は治せなかった。だから、神主同様、口外されないように殺さざるを得なかった。

 誰がどうやって殺したかについては、爺さんに訊くしかない。

 いや、それはどうでも良いことだ。そう、どうでも良い。

 しかし、あの遺体はどうしたものか。いつまでも蔵に隠しておく訳にもいかない。

 何なら、俺が山に捨てに行くのを爺さんに提案しようか。家族が協力して、俺を巻き込まないようにしてくれていたのだ。そのぐらいしても構わないだろう。

 馬鹿な。駄目だ。俺は何を書いている。事実を明らかにして、警察に届け出なくてはいけない。大勢が殺されたのだ。感傷的になることではない。

 また、かっとなった。良くない。

 だが、どうにか書けたので、一度、外で日に当たって気を落ち着ける。

 時刻は午後一時十五分過ぎ。

 そろそろ鳴神が帰ってくると思われる。続きは後にする。
 
 
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