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対峙
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どう声をかければいいかわからず、目の前に歩いてきたらろあの腕をとっさに掴んだ。らろあは派手に肩を揺らし、目を見開いてこちらを向く。その瞳が私をとらえると、表情は怯えたものに変わった。昨日見た怒りの感情は、どこかに鳴りを潜めている。
「お前、こんなとこで何してんの?」
「は、話、聞いてほしくて……」
らろあの腕は震えている。それとも私の手が震えているのか。ぐっと振り払おうとする彼の手を、私は両手でつかむ。
「お前とする話なんかねえよストーカー! さっさと帰れよ、てかなんでここ知ってるわけ?」
「それは……」
特定した、とは言えなくて押し黙る。らろあは私の手を振り払うのを諦め、ぐったりとうなだれた。通りすがったサラリーマンが何事かとこちらを見ている。
「……話って、なに」
一瞬流れた沈黙の後に、らろあがそう切り出した。話を聞いてくれるのかと嬉しくなって、らろあの手を離す。彼は逃げ出すこともなく、まだ怯えた表情のまま私を見つめている。
「通話してくれなくなったの、なんでかなって……。あと、配信が少なくなったのも、なんでか知りたくて」
そう言うと彼は、はあ?と声を荒げた。さっきまでしおらしかった彼の瞳が、途端に怒りを映し出す。突然の声の大きさに、思わず体が震えた。
「そんなことでわざわざ来たわけ? メッセージで送ればよくない?」
「だって、ブロックされちゃったし……」
「それはお前がわざわざ職場特定してきたからやろが!」
らろあは苛立って、私の背後にあった壁を殴った。ドンッという鈍い音に、私が泣きそうになる。わざわざ家を特定して押しかけたのは私なのに、傍から見ればらろあが加害者だ。
「マジで意味わからん……そんなことのために来たわけ? 迷惑すぎ、ていうかお前に関係ないし」
らろあは壁を殴った手で、ぐしゃぐしゃと頭を掻きまわした。そのまま両手で顔を覆い、絶望したように立ちすくんでいる。私はだらりと垂らした両手を握りしめ、じっと彼の顔を見つめていた。
「そんなこと、じゃない。私にとっては、そんなことじゃないの」
手が震えている。行動は間違っていたかもしれないけれど、それでも、私はただ知りたいだけだった。
「関係ないなんて、言わないでよ。毎晩毎晩あんたのゲームに付き合ってたのは誰なの。毎日毎日配信でギフト投げてやってたのは誰なの。後は何したら、あんたにとって関係あるのよ」
傲慢。自分で言葉を吐きながら、どんどん冷静になる自分がいる。私がらろあにとって、きっと特別だったと勘違いしただけのイタい女じゃないか。付き合ってあげてる、投げてやってる、なんて図々しい。どれもこれも全部私が選んでやったことだ。
「私は、あんたに人生めちゃくちゃにされたんだ! だから、だから、知る権利くらいあるでしょ……」
本当は、私は理由が知りたかったんじゃない。私が悪いんじゃないって、私がらろあにとって大切な人間なんだって言ってほしいだけだった。とんだわがままだ。彼女でもないくせに、お金と時間を使えばただのリスナーから特別な存在になれると思っている。せいぜい、お金と時間しか貢げないくせに。
「意味わかんねえ……人生めちゃくちゃにされたのは俺の方なんだけど……」
らろあは顔を覆ったまま、ぼそぼそとそんな風につぶやいた。言っている意味が分からずに、どういうこと、と問いかける。らろあがそっと、手を下ろした。
そのとき、背後から足音が聞こえた。
「信也くん? 何しとるん?」
「お前、こんなとこで何してんの?」
「は、話、聞いてほしくて……」
らろあの腕は震えている。それとも私の手が震えているのか。ぐっと振り払おうとする彼の手を、私は両手でつかむ。
「お前とする話なんかねえよストーカー! さっさと帰れよ、てかなんでここ知ってるわけ?」
「それは……」
特定した、とは言えなくて押し黙る。らろあは私の手を振り払うのを諦め、ぐったりとうなだれた。通りすがったサラリーマンが何事かとこちらを見ている。
「……話って、なに」
一瞬流れた沈黙の後に、らろあがそう切り出した。話を聞いてくれるのかと嬉しくなって、らろあの手を離す。彼は逃げ出すこともなく、まだ怯えた表情のまま私を見つめている。
「通話してくれなくなったの、なんでかなって……。あと、配信が少なくなったのも、なんでか知りたくて」
そう言うと彼は、はあ?と声を荒げた。さっきまでしおらしかった彼の瞳が、途端に怒りを映し出す。突然の声の大きさに、思わず体が震えた。
「そんなことでわざわざ来たわけ? メッセージで送ればよくない?」
「だって、ブロックされちゃったし……」
「それはお前がわざわざ職場特定してきたからやろが!」
らろあは苛立って、私の背後にあった壁を殴った。ドンッという鈍い音に、私が泣きそうになる。わざわざ家を特定して押しかけたのは私なのに、傍から見ればらろあが加害者だ。
「マジで意味わからん……そんなことのために来たわけ? 迷惑すぎ、ていうかお前に関係ないし」
らろあは壁を殴った手で、ぐしゃぐしゃと頭を掻きまわした。そのまま両手で顔を覆い、絶望したように立ちすくんでいる。私はだらりと垂らした両手を握りしめ、じっと彼の顔を見つめていた。
「そんなこと、じゃない。私にとっては、そんなことじゃないの」
手が震えている。行動は間違っていたかもしれないけれど、それでも、私はただ知りたいだけだった。
「関係ないなんて、言わないでよ。毎晩毎晩あんたのゲームに付き合ってたのは誰なの。毎日毎日配信でギフト投げてやってたのは誰なの。後は何したら、あんたにとって関係あるのよ」
傲慢。自分で言葉を吐きながら、どんどん冷静になる自分がいる。私がらろあにとって、きっと特別だったと勘違いしただけのイタい女じゃないか。付き合ってあげてる、投げてやってる、なんて図々しい。どれもこれも全部私が選んでやったことだ。
「私は、あんたに人生めちゃくちゃにされたんだ! だから、だから、知る権利くらいあるでしょ……」
本当は、私は理由が知りたかったんじゃない。私が悪いんじゃないって、私がらろあにとって大切な人間なんだって言ってほしいだけだった。とんだわがままだ。彼女でもないくせに、お金と時間を使えばただのリスナーから特別な存在になれると思っている。せいぜい、お金と時間しか貢げないくせに。
「意味わかんねえ……人生めちゃくちゃにされたのは俺の方なんだけど……」
らろあは顔を覆ったまま、ぼそぼそとそんな風につぶやいた。言っている意味が分からずに、どういうこと、と問いかける。らろあがそっと、手を下ろした。
そのとき、背後から足音が聞こえた。
「信也くん? 何しとるん?」
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