35 / 38
対峙
しおりを挟む
どう声をかければいいかわからず、目の前に歩いてきたらろあの腕をとっさに掴んだ。らろあは派手に肩を揺らし、目を見開いてこちらを向く。その瞳が私をとらえると、表情は怯えたものに変わった。昨日見た怒りの感情は、どこかに鳴りを潜めている。
「お前、こんなとこで何してんの?」
「は、話、聞いてほしくて……」
らろあの腕は震えている。それとも私の手が震えているのか。ぐっと振り払おうとする彼の手を、私は両手でつかむ。
「お前とする話なんかねえよストーカー! さっさと帰れよ、てかなんでここ知ってるわけ?」
「それは……」
特定した、とは言えなくて押し黙る。らろあは私の手を振り払うのを諦め、ぐったりとうなだれた。通りすがったサラリーマンが何事かとこちらを見ている。
「……話って、なに」
一瞬流れた沈黙の後に、らろあがそう切り出した。話を聞いてくれるのかと嬉しくなって、らろあの手を離す。彼は逃げ出すこともなく、まだ怯えた表情のまま私を見つめている。
「通話してくれなくなったの、なんでかなって……。あと、配信が少なくなったのも、なんでか知りたくて」
そう言うと彼は、はあ?と声を荒げた。さっきまでしおらしかった彼の瞳が、途端に怒りを映し出す。突然の声の大きさに、思わず体が震えた。
「そんなことでわざわざ来たわけ? メッセージで送ればよくない?」
「だって、ブロックされちゃったし……」
「それはお前がわざわざ職場特定してきたからやろが!」
らろあは苛立って、私の背後にあった壁を殴った。ドンッという鈍い音に、私が泣きそうになる。わざわざ家を特定して押しかけたのは私なのに、傍から見ればらろあが加害者だ。
「マジで意味わからん……そんなことのために来たわけ? 迷惑すぎ、ていうかお前に関係ないし」
らろあは壁を殴った手で、ぐしゃぐしゃと頭を掻きまわした。そのまま両手で顔を覆い、絶望したように立ちすくんでいる。私はだらりと垂らした両手を握りしめ、じっと彼の顔を見つめていた。
「そんなこと、じゃない。私にとっては、そんなことじゃないの」
手が震えている。行動は間違っていたかもしれないけれど、それでも、私はただ知りたいだけだった。
「関係ないなんて、言わないでよ。毎晩毎晩あんたのゲームに付き合ってたのは誰なの。毎日毎日配信でギフト投げてやってたのは誰なの。後は何したら、あんたにとって関係あるのよ」
傲慢。自分で言葉を吐きながら、どんどん冷静になる自分がいる。私がらろあにとって、きっと特別だったと勘違いしただけのイタい女じゃないか。付き合ってあげてる、投げてやってる、なんて図々しい。どれもこれも全部私が選んでやったことだ。
「私は、あんたに人生めちゃくちゃにされたんだ! だから、だから、知る権利くらいあるでしょ……」
本当は、私は理由が知りたかったんじゃない。私が悪いんじゃないって、私がらろあにとって大切な人間なんだって言ってほしいだけだった。とんだわがままだ。彼女でもないくせに、お金と時間を使えばただのリスナーから特別な存在になれると思っている。せいぜい、お金と時間しか貢げないくせに。
「意味わかんねえ……人生めちゃくちゃにされたのは俺の方なんだけど……」
らろあは顔を覆ったまま、ぼそぼそとそんな風につぶやいた。言っている意味が分からずに、どういうこと、と問いかける。らろあがそっと、手を下ろした。
そのとき、背後から足音が聞こえた。
「信也くん? 何しとるん?」
「お前、こんなとこで何してんの?」
「は、話、聞いてほしくて……」
らろあの腕は震えている。それとも私の手が震えているのか。ぐっと振り払おうとする彼の手を、私は両手でつかむ。
「お前とする話なんかねえよストーカー! さっさと帰れよ、てかなんでここ知ってるわけ?」
「それは……」
特定した、とは言えなくて押し黙る。らろあは私の手を振り払うのを諦め、ぐったりとうなだれた。通りすがったサラリーマンが何事かとこちらを見ている。
「……話って、なに」
一瞬流れた沈黙の後に、らろあがそう切り出した。話を聞いてくれるのかと嬉しくなって、らろあの手を離す。彼は逃げ出すこともなく、まだ怯えた表情のまま私を見つめている。
「通話してくれなくなったの、なんでかなって……。あと、配信が少なくなったのも、なんでか知りたくて」
そう言うと彼は、はあ?と声を荒げた。さっきまでしおらしかった彼の瞳が、途端に怒りを映し出す。突然の声の大きさに、思わず体が震えた。
「そんなことでわざわざ来たわけ? メッセージで送ればよくない?」
「だって、ブロックされちゃったし……」
「それはお前がわざわざ職場特定してきたからやろが!」
らろあは苛立って、私の背後にあった壁を殴った。ドンッという鈍い音に、私が泣きそうになる。わざわざ家を特定して押しかけたのは私なのに、傍から見ればらろあが加害者だ。
「マジで意味わからん……そんなことのために来たわけ? 迷惑すぎ、ていうかお前に関係ないし」
らろあは壁を殴った手で、ぐしゃぐしゃと頭を掻きまわした。そのまま両手で顔を覆い、絶望したように立ちすくんでいる。私はだらりと垂らした両手を握りしめ、じっと彼の顔を見つめていた。
「そんなこと、じゃない。私にとっては、そんなことじゃないの」
手が震えている。行動は間違っていたかもしれないけれど、それでも、私はただ知りたいだけだった。
「関係ないなんて、言わないでよ。毎晩毎晩あんたのゲームに付き合ってたのは誰なの。毎日毎日配信でギフト投げてやってたのは誰なの。後は何したら、あんたにとって関係あるのよ」
傲慢。自分で言葉を吐きながら、どんどん冷静になる自分がいる。私がらろあにとって、きっと特別だったと勘違いしただけのイタい女じゃないか。付き合ってあげてる、投げてやってる、なんて図々しい。どれもこれも全部私が選んでやったことだ。
「私は、あんたに人生めちゃくちゃにされたんだ! だから、だから、知る権利くらいあるでしょ……」
本当は、私は理由が知りたかったんじゃない。私が悪いんじゃないって、私がらろあにとって大切な人間なんだって言ってほしいだけだった。とんだわがままだ。彼女でもないくせに、お金と時間を使えばただのリスナーから特別な存在になれると思っている。せいぜい、お金と時間しか貢げないくせに。
「意味わかんねえ……人生めちゃくちゃにされたのは俺の方なんだけど……」
らろあは顔を覆ったまま、ぼそぼそとそんな風につぶやいた。言っている意味が分からずに、どういうこと、と問いかける。らろあがそっと、手を下ろした。
そのとき、背後から足音が聞こえた。
「信也くん? 何しとるん?」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~
神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。
一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!?
美味しいご飯と家族と仕事と夢。
能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。
※注意※ 2020年執筆作品
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
仔猫のスープ
ましら佳
恋愛
繁華街の少しはずれにある小さな薬膳カフェ、金蘭軒。
今日も、美味しいお食事をご用意して、看板猫と共に店主がお待ちしております。
2匹の仔猫を拾った店主の恋愛事情や、周囲の人々やお客様達とのお話です。
お楽しみ頂けましたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる