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帰り道
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振り向くと、そこに立っていたのはショートカットの女性だった。小動物を思わせる不安げな顔で、私とらろあとを見比べている。
「……友紀奈」
らろあは彼女の名前を呼んで、自分の方へと引き寄せる。友紀奈と呼ばれた女性は、わけもわからずに彼の背後へと回った。
「はあ? なに? 彼女ができたから配信も通話もできませんでしたってわけ?」
私がそう言ったのに否定もしないらろあの姿を見て、私の中の何かがぷつんと切れた。
なんだ、らろあも普通の人間だった。画面の向こうに普通の生活があって、「山本信也」の人間関係があって、普通に彼女なんか作っちゃってる。
自分が哀れで笑えてきた。配信者なんかにガチ恋して、通話してくれない、配信が減ったなんて嘆いて彼の住む場所までやってくるなんて、とても健気で可愛そう。彼にとって私は特別でも何でもなかった。ただ私と同じように、彼も私を画面の向こうの人間として見ていただけだ。
らろあは彼女を守るようにかばいながら、じっと私を睨みつけてる。まるで雛を守るカラスみたいだった。そんなことしなくても、もうあなたに危害は加えない。
「そうだよ、大事な人ができたからお前と通話しなくなったし、配信も減らした。こんなことになるなら、お前にDMなんか送らなきゃよかったよ」
なんだかどうでもいい気分になっていたのに、らろあから今までのことも否定されて胸がチクリと痛んだ。私が勘違い女なのはもうわかっていたから別にいい。でも、らろあと過ごした時間さえ否定されてしまったことと、そんな言葉を引き出した自分の行動に今さら後悔がおとずれた。
「……うん、そうだね。私もそう思うよ」
そう言ったのは、最後の意地だった。もう戻れない私の、張る必要もない虚勢だ。
「帰る。ごめんね、彼女さんとお幸せに。もう二度と来ないから」
らろあの返事も待たずに、帰り道を走った。知らずのうちに涙がこぼれている。らろあに彼女がいたことが悲しいのか、もう二度と彼と関わることができないのが苦しいのか、自分でもわからなかった。
ひとしきり泣いたからか、駅に着いた頃にはなんだか気持ちがすっきりしていた。私はすっきりしたけれど、彼は今頃彼女に愚痴をこぼしているのかもしれない。そう思うと、なんの関係もない彼女に少し申し訳なさがあった。
電車を待ちながら、帰りの新幹線を探す。終電ギリギリだったこともあってか、席はだいぶ埋まっていた。何とか見つけた席のチケットを取り、丁度駅に入ってきた電車に乗り込んだ。
電車を降りてからバタバタと新幹線のホームへ走り、慌てて指定の車両へ乗り込む。行きとは違い、人がひしめき合っていた。
体から煙草の匂いのするサラリーマンの隣へ腰かける。窓の外はブラインドが下ろされていて見えない。列を挟んだ隣の席の、訳ありそうな親子の赤ちゃんが泣いていた。
発車のベルが鳴り、ゆっくりと列車が動き出す。昨日来た道を戻っていく。反対側の窓からは、真っ暗な街並みが見えた。
せめて紬と茉優にお土産くらい買って帰ればよかった。広島に来たのに何にもしていない。そもそも広島に来ること自体は目的じゃないから当たり前だけれど。
そんなどうでもいい後悔で心を誤魔化しながら目を瞑る。横浜に着くまで目は開かなかった。
新幹線を降りてから最寄り駅までの終電に乗り、家に着くころには日付が変わっていた。部屋の中は家に出たときから何も変わっていない。
なんだかひどく時間が立ったような気がしたけれど、たった2日の出来事だった。カバンと上着を放り投げ、ベッドに横たわる。メイクも落としてないし、風呂にも入っていないけれど、もう疲れた。眠りたい。明日は1限から授業があるけれど、そんなのもうどうでもいい。
それから次の日の昼過ぎまで眠り続けた。ここ数カ月で1番深い眠りだった。
「……友紀奈」
らろあは彼女の名前を呼んで、自分の方へと引き寄せる。友紀奈と呼ばれた女性は、わけもわからずに彼の背後へと回った。
「はあ? なに? 彼女ができたから配信も通話もできませんでしたってわけ?」
私がそう言ったのに否定もしないらろあの姿を見て、私の中の何かがぷつんと切れた。
なんだ、らろあも普通の人間だった。画面の向こうに普通の生活があって、「山本信也」の人間関係があって、普通に彼女なんか作っちゃってる。
自分が哀れで笑えてきた。配信者なんかにガチ恋して、通話してくれない、配信が減ったなんて嘆いて彼の住む場所までやってくるなんて、とても健気で可愛そう。彼にとって私は特別でも何でもなかった。ただ私と同じように、彼も私を画面の向こうの人間として見ていただけだ。
らろあは彼女を守るようにかばいながら、じっと私を睨みつけてる。まるで雛を守るカラスみたいだった。そんなことしなくても、もうあなたに危害は加えない。
「そうだよ、大事な人ができたからお前と通話しなくなったし、配信も減らした。こんなことになるなら、お前にDMなんか送らなきゃよかったよ」
なんだかどうでもいい気分になっていたのに、らろあから今までのことも否定されて胸がチクリと痛んだ。私が勘違い女なのはもうわかっていたから別にいい。でも、らろあと過ごした時間さえ否定されてしまったことと、そんな言葉を引き出した自分の行動に今さら後悔がおとずれた。
「……うん、そうだね。私もそう思うよ」
そう言ったのは、最後の意地だった。もう戻れない私の、張る必要もない虚勢だ。
「帰る。ごめんね、彼女さんとお幸せに。もう二度と来ないから」
らろあの返事も待たずに、帰り道を走った。知らずのうちに涙がこぼれている。らろあに彼女がいたことが悲しいのか、もう二度と彼と関わることができないのが苦しいのか、自分でもわからなかった。
ひとしきり泣いたからか、駅に着いた頃にはなんだか気持ちがすっきりしていた。私はすっきりしたけれど、彼は今頃彼女に愚痴をこぼしているのかもしれない。そう思うと、なんの関係もない彼女に少し申し訳なさがあった。
電車を待ちながら、帰りの新幹線を探す。終電ギリギリだったこともあってか、席はだいぶ埋まっていた。何とか見つけた席のチケットを取り、丁度駅に入ってきた電車に乗り込んだ。
電車を降りてからバタバタと新幹線のホームへ走り、慌てて指定の車両へ乗り込む。行きとは違い、人がひしめき合っていた。
体から煙草の匂いのするサラリーマンの隣へ腰かける。窓の外はブラインドが下ろされていて見えない。列を挟んだ隣の席の、訳ありそうな親子の赤ちゃんが泣いていた。
発車のベルが鳴り、ゆっくりと列車が動き出す。昨日来た道を戻っていく。反対側の窓からは、真っ暗な街並みが見えた。
せめて紬と茉優にお土産くらい買って帰ればよかった。広島に来たのに何にもしていない。そもそも広島に来ること自体は目的じゃないから当たり前だけれど。
そんなどうでもいい後悔で心を誤魔化しながら目を瞑る。横浜に着くまで目は開かなかった。
新幹線を降りてから最寄り駅までの終電に乗り、家に着くころには日付が変わっていた。部屋の中は家に出たときから何も変わっていない。
なんだかひどく時間が立ったような気がしたけれど、たった2日の出来事だった。カバンと上着を放り投げ、ベッドに横たわる。メイクも落としてないし、風呂にも入っていないけれど、もう疲れた。眠りたい。明日は1限から授業があるけれど、そんなのもうどうでもいい。
それから次の日の昼過ぎまで眠り続けた。ここ数カ月で1番深い眠りだった。
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