ガチ恋オタクの厄介ちゃん

阿良々木与太

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自覚

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 そんな生活を送っているうちに春休みの終わりが近づいてきた。そろそろ生活リズムを整えなきゃな、とかでもそんなに夜更かししているわけじゃないし、と思いながら配信を見ていると、スマホが震えてメッセージがきたことを伝える。大学の友人からだ。


『渚元気? 春休み終わる前に飲みに行こ~』


 彼女は田中紬。浪人生で1歳年上だけれど、同学年だからと普通の友達のように接している。だからといって未成年を飲み会に誘うのはどうなんだと思いつつ、いいよと返信を送る。送ってからすぐにまた返信が送られてきた。


『やった! 茉優もくるよ』


 そのメッセージの後ろには飛び跳ねる猫のスタンプが添えられていた。茉由も大学の友人で、彼女は私と同じく未成年だ。

 全員暇だったらしく、次の日の夜に集まることが決まった。春休みに入ってから自堕落な生活を送っていたせいで友人に会うのは久しぶりな気がする。待ち合わせは19時になった。もしかしたら明日はらろあの配信に間に合わないかもしれない。

 そう思うと少し断りたい気がしたけれど、配信を見るためだけに友人からの誘いを断るなんてと自制する。せめて今日のらろあの姿を目に焼き付けようと、いつもより配信に集中した。


「あ、渚きた! こっちだよ」


 3月の夜は肌寒い。上着を間違えたな、と思いながら歩いていると、居酒屋の前で手を振る紬と茉優の姿を見つけた。小走りで駆け寄ると、紬が居酒屋の引き戸を開けてくれた。


「遅れてごめんね」


「いや、うちらも今きたとこ」


 トレンチコートを着ている紬は、黒のショートカットと相まってなんだかイケメンに見える。一方茉優はふわふわの白いカーディガンとピンクのスカートで、なんだか2人はカップルのようだった。

 居酒屋は仕事終わりのサラリーマンや騒がしい大学生のグループで賑わっている。運よく空いていたテーブル席に案内されるや否や、紬はビールを注文した。私と茉優はそれぞれウーロン茶とオレンジジュースを注文する。


「お酒くらい飲めばいいのに」


「あ、ダメな大人だあ」


 紬の冗談に茉優はけらけらと笑っている。飲み物が届いて、とりあえずと乾杯をした。紬は幸せそうにビールを煽る。彼女は飲み会が好きなわけではなく単純に酒が好きなタイプだ。一人で飲むのは寂しいからとこうして時々私や茉優を誘う。


「最近2人とも何してた? 元気?」

 茉優が注文したサラダを取り分けながらそうたずねる。紬は片手で持っていたグラスとテーブルに置くと、


「バイトばっか」


 と言い捨ててまたビールを煽った。


「渚は?」


 このままだと紬の愚痴大会が始まると察したらしい茉優は、私の方へと視線を向ける。えっと、と一瞬考えるふりをするが、最近の出来事なんてらろあの配信を見始めたことくらいしかない。

 二人は私がオタク気質なのを知っているし、バレても問題ないのだけれど、らろあのことだけはなぜか言うのがためらわれた。けれどこのままだと紬のバイトの愚痴か茉優の最近付き合った男の話を聞く羽目になる。それなら推しのことを話したいという気持ちがあった。


「最近、は、あの……配信者にはまってて」


 ぼそぼそとそう言えば、二人とも聞きなじみのない単語のようで首をかしげていた。顔出しながらゲームしてる人、と言うとなんとなく納得してもらえたようだ。


「へえー、イケメン?」


 紬が枝豆をつまみながらそう聞く。私はスマホに保存してある彼の配信画面のスクショを二人に見せた。


「……なんかあ、普通って感じだね」


 スマホを覗き込みながらそう言ったのは茉優だった。推しを馬鹿にされて普通は傷つくのかもしれないけれど、茉優はこういう子だし、私も別にかっこいいと思っていたわけではないので何も言わない。紬は髪色が良いね、なんて頓珍漢な感想を述べている。


「面白いの? その人」


 紬にそう聞かれて、一瞬口が止まった。面白さで見ているわけではないような気がしたからだ。


「おもしろいっていうか……なんか、見てると安心するっていうか」


 説明しているうちに段々恥ずかしくなってきて、ごまかすようにウーロン茶を口に含んだ。隣に座っている茉優は私の顔を見ながらにこにこ笑っている。


「渚ちゃん恋した女の子みたい」


 茉優の言葉に、今度は思考が止まった。恋なんて言えるのだろうか、こんなものが。第一向こうは配信者で、こっちはただのリスナーだ。恋愛なんて成立するはずがない。

 私をこんなに悩ませたくせに、当の本人は呑気にから揚げなどつついている。その後は自然と紬のバイト先の話や茉優の男の話になったけれど、茉優の発言は度々私の考えを鈍らせた。
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