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22巻
22-1
しおりを挟む第一章―――― 人竜会談
私――古神竜ドラゴンことドラン・ベルレストを含む始原の七竜にとって最大の恥にして、最悪の汚点とも言うべき存在、終焉竜を完全に消滅させてからしばしの事。
終焉竜に操られたディファラクシー聖法王国の侵略行為によってアークレスト王国と周辺諸国にもたらされた混乱は、ようやく収まりつつあった。
彼らが用いた洗脳による支配は解除されたものの、民衆が正気に戻った反動によって新たな混乱が引き起こされるなどの二次被害が発生した国もある。そんな中、我が母国アークレストは安定を見せており、一国民としては誇らしい限りである。
全ての竜種の祖である始祖竜と同等の力を持つ終焉竜との戦いには、竜種のみならず、あらゆる神々も参加した。その為、この決戦に全精力を傾注した神々が地上の人々の祈りに応えられなくなるという非常事態が発生していたのだが、既にそれも乗り越えている。
ベルン男爵領の領主補佐官である私としては、領内の混乱はないと断言出来る。
今後の発展の為に優秀な人材をかき集めたのと、私が不在だった期間が短かったお蔭で、すぐに解決可能な程度の小さな問題くらいしか起きなかったのは、まことに幸いだった。
神々の奇跡が失われたかもしれないというとんでもない事態に直面し、どの勢力にもベルンにちょっかいを出す余裕がなかったのは想像に難くない。
実のところ、世界に害をもたらす邪神の類も終焉竜対策で必死だったので、この〝不在期間〟に神関係の脅威はなかった。
しかし、そうとは知らぬ国家や、善なる神々の側の教団関係者はさぞや肝を冷やしていたに違いない。
神々は力を使い果たして寝込んでいるだけだから、回復すれば元通りになる。今は戦場に行かずに残った下級神や天使達が必死に頑張っているので、神聖魔法とも呼ばれる〝神の奇跡〟は、おおむね平時の水準に戻りつつある。
この異常事態を解決する糸口すら見つけられずにいた者達は、ほっと安堵の息を吐いて復調した神々に感謝の祈りを捧げているだろう。
真摯な祈りは神々にとってはちょっとした糧になるので、たとえ奇跡が起きなくても祈るという行為そのものは無駄ではない。
もっとも、復調した神々からの見返りを期待する下心が混じって、祈りが不純なものになるのはよろしくないので、この事実を公にするつもりはないが。
さて、終焉竜との決戦後に体調を崩したのは神々ばかりでない。
あやつに止めを刺した私達始原の七竜は、始祖竜への再融合――さらにその上の超新竜形態に至り、勝利の代償として経験のない疲労に追い込まれている。
融合した私達が無事に分離出来たのは幸いだったが、まさかベッドの上から身を起こすのも難儀するほどの状態になるとは思わなかった。
とはいえ、肉体的な疲労に関しては、ひたすら安静に務めたお蔭で、今は出歩くくらいは問題ない程度に回復している。
「ふむ、自分の足で歩いて回れるというのはいいものだ」
我ながら本当にしみじみと呟いたのは、ベッドの上の住人を卒業し、鈍った体を回復させる為に屋敷の中庭を一周した後での事だった。
既に春は過ぎ去り、何もしていなくてもじわりと汗が粒になる季節。
青い空から降り注ぐ陽光はいとも簡単に肌を黒く焼いてしまう。
私は時折吹く風の涼しさに目を細める。
息こそ上がっていないものの、動き回るにはどうにもまだ不安が残る体調だ。
魔力の生成量も、肉体の方は変わっていないのだが、魂の方は不安定化していて、狙った量の魔力を作り出せずにいる。
「これはまずいな」
蠟燭に火を灯そうとしたら、火山を爆発させてしまう、などという失態を高い確率で犯してしまいかねない状態になっている。
このまま安静にしていれば、元の調子に戻ると思いたいが……
「悩ましいものだな、ドランよ」
私同様にベッドの上の住人となっていた始原の七竜のうちの一柱――バハムートが顔を見せ、中庭にある長椅子に腰掛けた。
今の彼は本来の古神竜ではなく、知的な――何故か不必要な眼鏡を掛けた――竜人の姿を取っている。もちろん、彼だけでなくリヴァイアサンやアレキサンダーら、他の兄弟姉妹も同様だ。
私は彼の方へと歩み寄り、互いの状態を確認しようと言葉を交わす。
「バハムート。もう歩き回っていいのか?」
「我を含めて皆が歩ける程度には回復した。力の出力と調整が不安定な状態に陥っているのも、汝と同様だ。汝の場合は火の粉を払うつもりが星を吹き飛ばした、などとならぬように気を遣わなければならんな」
「終焉竜と聖法王国の件は片付いたが、周辺の状況が穏やかではなくてね。私自身が戦場に立つ機会はそうそうないとは思うが、厄介な問題が残ってしまったよ」
「終焉竜のような災害の再来はまずないとしても、汝の場合はこの地上世界で……そうさな、三竜帝三龍皇と同程度の力は保持しておきたいところだな」
「うーむ、竜界の同胞達ならば私よりも回復が早いだろうから、後で私が力を出しすぎないように、枷でも嵌めてもらうか」
「喜々として悪戯を仕込む者が多いだろうな」
バハムートの指摘に、思わず苦笑が漏れる。
「竜界の同胞は、地上の同胞と違って私達に遠慮しないからなあ。その分、気が楽なのはよいのだが」
「万が一に備えて、三竜帝三龍皇に話を通しておいた方がよかろう。この星で最も強大なのは彼らであり、また個としてだけでなく勢力としても最強なのだからな」
「ふむ、余計な苦労を彼らに掛けるのは心苦しいが、必要とあれば頭を下げる他ないな」
「頭を下げたら下げたで、あちらが恐縮して余計な手間が掛かるのが目に浮かぶようだな。時にドランよ、我々も介助の手を必要としない程度には回復した。しばし汝のこの第二の故郷を見て回りたく思う」
「ほう、いいのではないかな。私にとっても、君ら兄弟姉妹にこのベルンの大地を自慢するまたとない機会だ。必要な費用などは私の財布から出すので、好きに見て回ってもらって構わんよ。もちろん、この地の法に従ってもらうのが大前提だ」
「それは承知の上だ。我を含めて他の同胞、特にアレキサンダーもそこは弁えておろうよ。ところでドラン、我から二つ、頼みたい事がある」
「なんだね?」
「一つはアレキサンダーを特に慰労してやってほしい。終焉竜との戦いで汝の次に奮起していたからな。もう一つは汝とその恋人達との結婚式の日取りが決まったなら、知らせてほしい。我ら兄弟姉妹、皆が心から寿ぎたいと願っている」
兄からのこれ以上なく嬉しい言葉に、私は自然と笑みが浮かび上がるのを感じた。
「頼まれるまでもなく、喜んで引き受けよう。私は幸せ者だ。竜と人と、双方の家族から祝福されるのだから」
「そうだな。汝はとても幸せ者だとも」
バハムートやアレキサンダーら我が同胞達が、竜界からの迎えに連れられてベルンを後にしたのは、それからしばらくしてからの事である。
†
ベルン男爵クリスティーナの下で、庭師として仕えているベネスという男がいる。
五十代後半の短く太い体躯と白髪交じりの赤い髪をしたこの男は、実のところ、クリスティーナの父であるアルマディア侯爵から派遣された影の護衛とでも言うべき存在だった。
ベネス以外にも、クリスティーナと彼女の治める男爵領に害をなさんとする者達の動きを阻むよう命じられた護衛達はいる。
新しくやってきた移住者の一家や、商人、傭兵などに扮して、それなりの数が男爵領で活動中だ。
途方もない親馬鹿の発露と言えよう。
同時に、こうした影の護衛よりも多く、他の領主の手の者や異国の間者、世界の闇で蠢く秘密結社の手の者達が男爵領に入り込んでいるのが現状だ。
統治者であるドラン達は、その常識外れの能力によって、非合法な活動を行なっている者達全てを当然の如く把握し、監視している。その上で、表向き普通に働いている分には監視に留めて、領内の経済活動の一助として役立ってもらう方針をとっていた。
たかが辺境の地、しかも若年の新興貴族相手に過剰な人員を割いている――と、各勢力を非難するには、この地を治める者達の能力と治めるに到った経緯が特異すぎた。
領主クリスティーナと補佐官ドランの戦闘能力が、大国の最強格の魔法使いや魔法戦士に匹敵するという情報は、既に近隣諸国に知れ渡っている。
実際の能力はその程度では済まないと知っている者がいないとはいえ、まさしく一騎当千、大規模な軍団に相当する規格外の怪物達だ。
しかも彼らは、長らく人類国家と交流がなかった水龍皇龍吉の治める龍宮国や、エンテの森のユグドラシルに率いられた諸種族の重鎮達からの信頼も厚い。
これらの勢力とアークレスト王国が関係を結ぶきっかけを作ったのもまた、ドラン達だった。
となれば、否が応でも注目せざるを得ないというものだ。
目を背け、耳を塞いでも、僅かに瞼の隙間から入り込んでくる光のように、あるいは耳にするりするりと忍び入る音のように、膨大な情報が半強制的に流れ込んでくる。
無自覚なのか意図的なのか、ベルン男爵領はそうした〝馬鹿げた情報〟を次から次へと発してくるのだ。
各勢力の裏仕事を担う者達の間では、今のところ水面下での暗闘は生じていない。少人数での小競り合い程度が関の山といったところ。
刻々と人が増え、田畑が広がり、情報と資金と物品が大河から分かれる支流の如く複雑化している男爵領の情報収集に、奔走させられているのが現状だ。
ただ、ベネス一個人としての感想で語るなら、自分を含めた影の者達の動きを全て見透かされているのではないかと疑問を抱く瞬間が時たま存在する。
特に、一時期、補佐官ドランの使い魔を務めていた美貌のバンパイアで、今はクリスティーナの秘書として働いているドラミナという女性は油断ならない。
彼女には、スペリオン王子がロマル帝国を弔問した際に、王子を含む近衛の精鋭達をまとめて相手にして稽古をつけたという眉唾ものの噂がある。
そして、まるで老練な政治家のようにクリスティーナを指導し、その領主としての采配と成長を見守る姿から、ベネス以外の密偵達も彼女の素性をただならぬものだと疑っていた。
ベルン男爵領の上層部は、多種族国家であるアークレスト王国でも珍しいくらいに、多様な種族で構成されている。しかも、その一人ひとりが個として突出した力と非凡なる素性ないしは人脈の主というキワモノ揃いだった。
クリスティーナの近くにいるラミアの少女セリナや、黒薔薇の精ディアドラなどがその一例だ。
先日も、モレス山脈に住まうラミアの集団を領内に引き入れるという出来事があり、ベネス他密偵達は、それぞれの主人に鮮度の失われないうちに情報を送ったばかりだ。
そう、送ったばかりなのだが……ベネスは屋敷の中庭から空を見上げたまま、思わず呟いていた。
「御屋形様、どうやら貴方様のご息女はとんでもないお方のようですぞ」
彼の立場からすると口にするべきでない言葉だったが、幸い、それを耳にした者はいなかった。
そして、上空を見つめるベネスの視線の先では今、知恵を持ち、竜語魔法を操る本物の竜種達が何体も舞っている。
事前に知らされてはいたものの、実際に初めて〝それら〟を見た衝撃は途方もないものだった。
しかも、〝彼ら〟はこれからこのベルンと正式に友好関係を結び、定期的な会合を開いていくというのだ!
ベルン村やその周辺に身を潜めていた密偵達は皆、自分達の主人に伝えなければならない情報が飛び込んできた事に、大慌てで対処しはじめていた。
ただその心情は立場によって大きく異なる。
ベネスのようにアルマディア侯爵家や、アークレスト王国に属する密偵とその主人達にとって、幸いにもベルン男爵領は敵ではない。だが、それ以外の者達にとっては脅威以外の何ものでもないからだ。
ベルン男爵領を敵に回した時、モレス山脈の竜種とエンテの森の諸種族がベルンの味方になるのならば、大国がまるまるベルンの側につくに等しい。
もし龍宮国までもがベルンについたなら、ディファラクシー聖法王国が崩壊した以上、もう地上で勝てる国家は存在しないも同然である。
それは、敵対者としては悪夢のような事実だった。
†
大地の上に立つ者達が空を占める巨大な竜達に思いを馳せている一方で、その空を舞っている竜達にも、それぞれ今日に至るまでの経緯について思うところはあった。
基本的に、竜種が他の種族と恒常的な協力・共生関係を構築するというのは、そうそうある事ではない。
ワイバーンをはじめ、一部の亜竜や劣竜と呼ばれる者達が他種族に使役されている例はある。しかし、今ベルン村の上空を舞っている知恵ある竜種達に言わせれば、それらは退化しすぎた竜種。同列に扱う事は到底出来ない。
三竜帝三龍皇や龍王、竜王ともなると、その強大な力の庇護に与るべく、他の種族が同じ棲息圏内で暮らしているが、あくまでこれは極端な例の一つだ。
モレス山脈では、水竜ウェドロが人魚のウアラの民との間に共生関係を築いているものの、他の竜達は自らの近しい家族と暮らすか、個としての生活を営んでいる。
モレス山脈が広大な事もあって、お互いの住み分けはきっちり出来ており、これまで問題なく暮らしてきた。
その為多くの竜達が、人類社会の一部を構成する者達と接触し、正式に関係を持つ事に対して大なり小なりの疑問があったはずだ。
しかし、ベルン側からもたらされた一つの情報が、これまで通りであってはならないという危機感と使命感を彼らに抱かせた。
暗黒の荒野を本拠地とする魔族の軍勢に、竜種の最大の敵とも言える自分達の紛いもの――『偽竜』が複数存在しているという情報である。
強大すぎる竜種達を模倣し、邪神達が生み出した偽竜は、竜種の殲滅をその存在意義としており、お互いに顔を合わせたら即座に容赦のない殺し合いが勃発する関係にある。
そんな偽竜達が軍勢の一端をなし、近く侵略者となって襲来すると聞いてなお、傍観に徹していられる竜種はまずいない。
また、竜種の魂を持つドランと、以前からガロアに入り浸り、人間との交流を重ねていた深紅竜ヴァジェの存在も、彼らが人間種との関係構築に一歩を踏み出す役に立った。
ただし、ヴァジェ以外の竜達は、ドランが人間に生まれ変わった高位の竜であるという点までしか知らない。
それでも、龍宮国と関係を持たせたという実績などから、ドランに対するある種の信頼と敬意は深まっている。
もっともドランからは、彼らに対して自らの素性を明らかにする予定は、今後も全くなかった。
竜種にとって絶対の存在である古神竜としての立場を明かしてしまえば、ウェドロ達はドランからのあらゆる願いに従わざるを得なくなる。
そうなってしまう未来をドランは誰よりも望んでおらず、彼らと築いた現在の友好関係が崩れるのを嫌っていた。
故郷であるベルン村の為ならばあらゆる手段を講じるべきと考えるのならば、このドランの対応は合理的ではないだろう。
だがこれもまた、彼が古神竜ではなく人間として生きようとしているからこその判断だった。
それが正しいか、間違っているか、善か、悪かの判断は人による。
もしドランが古神竜としての霊格も記憶も失っていたなら、このような選択肢そのものが存在しなかっただろうが……
会合の回数を重ねるにつれて参加する竜の数は増えて、今やモレス山脈に住むほぼ全ての竜達が、ベルンとの共闘ならびに今後の協力関係の構築を認め、前向きになっている。
これは彼らにとっての絶対者である古神竜ドラゴンが人間に友好的だった為、地上の竜種達もまた人間を相手にする時には概ね穏やかな対応を心掛けているのも一助となった。
ドランにとっては、前世の自分の行いが思いがけず功を奏した形となったと言える。
モレス山脈住まいの竜の中でも古老格の地竜ジオルダは、重力操作によって空を飛んでベルン男爵領に向かいながら、初めてかの地の領主達と顔を合わせた時の事を回想していた。
ヴァジェの仲立ちにより、初めてベルン男爵領を訪れたあの日、ジオルダを含む八体の竜達は、眼下で自分達を待つクリスティーナ達を興味深そうに観察していた。
指定されていた降下場所で待っていたのは、クリスティーナやドラン、ドラミナ、その他ベルン男爵領の一団と、立会人を務めるドラグサキュバスのリリことリリエルティエル達。
並べられた椅子に腰掛ける彼らを見下ろしながら、風竜のウィンシャンテが最初に口を開いた。
彼はドランと面識のある風竜オキシスの甥にあたる個体で、人間に換算すれば二十代半ばほどの若者だ。
彼はオキシスの紹介で白竜に変身したドランと知り合った。ウィンシャンテ以外にも、ウェドロやヴァジェ経由で顔馴染みになった者がいる。
「これだけの同胞と約定を交わそうとは、あの人間達は肝が太いと言うべきなのでしょうかね、伯父上?」
生物として圧倒的に格下の人間相手だからと侮った響きは特になく、本気で感心している様子のウィンシャンテに、伯父であるオキシスはうむ、と一つ頷き返した。
オキシスはオキシスで、自分達を待っている者達が尋常ではない実力者ばかりと漠然と感じ取り、舌を巻いていたのだが年若い甥は伯父の様子からそこまでは察せられなかったようだ。
オキシスはウェドロと一緒にドランとよく話をしていたが、モレス山脈に住む同胞がこれだけ集まって顔を合わせるのは稀な事態である。
「魂が竜であるドランは別として、クリスティーナという男爵や、傍らのラミア達にも、我らに怯えた様子一つないな。それに、感じ取れる力も生半可ではない。胆力ばかりではなく、普通の人類種やラミア達でないのは確かだ」
この時、クリスティーナやドラミナをはじめとしたドランと霊的な繋がりを持ち、古神竜の加護を受けている面々は、他者が感じられない状態に加護を抑えていた。
これは、ドランが自粛しているのに合わせての事だ。
その為、ウィンシャンテやオキシスの評価は、古神竜云々を抜きにしたものである。
「それにしても、こういう話で一番ごねそうな深紅竜が最も積極的というのは、一体何があったのか。そこのところが気になるな。なあ、ジオルダ」
この時、オキシスが話を振ったのは、この場にいる竜達の中で最高齢の地竜ジオルダだった。
退化した翼は他の竜種達に比べて小さく、四足をだらんと垂らした体勢で滞空している巨体は、さながら亀か岩の塊のようだ。
地竜には温厚な性質の者が多いが、このジオルダはとりわけ穏やかな性格をしており、モレス山脈でも顔が広く、竜種同士の横の繋がりの中心に位置している顔役である。
ヴァジェの家族が巣立つ娘に、いざとなったら彼を頼るようにと伝えた事からも、その人脈の広さが窺い知れる。
「ドラン殿に一番懐いていたのもヴァジェであるからな。かの御仁からの頼みとあれば従うであろう。ただ……いつからか、ヴァジェのドラン殿への態度が一変したな。あれ以来、随分と大人しゅうなりおったわ。そこに理由があろうよ」
老いたジオルダからすれば、孫娘と言っても差し支えのない深紅竜の態度の変化に、微笑ましいものを感じているようだ。
ジオルダが話したのは、ちょうどヴァジェがドランの魂の素性を知った時期の事だ。
その頃のヴァジェは巣立ったばかりで神経を尖らせていた上に、元々気性の激しい傾向のある火竜の上位種だけあって、同胞相手でもキャンキャンと吠え立てていた。
しかしある時から突然、ドランばかりでなく他の竜達に対しても態度を軟化させており、ジオルダやオキシス達の目を丸くさせた。
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