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1章 ダンジョンと少女

採取クエストとスライム

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「なぁテバちゃんよぉ……
 よーく知ってるとは思うが、冒険者な、慣れてきた頃が一番命を落としやすいんだ。
 おめぇ、最近林の奥まで行ってるそうじゃねぇか」

 依頼書には簡単な薬草採取の内容と報酬額が書かれている。
 そんな一枚の依頼書を手にした、顔に傷のある強面の男性がヨモギ村のギルド長である。
「あ、いやそんな奥までは行ってないですよ……
 ちょっと手前の方に薬草が見えるなーなんて思って入った……かもしれないですけど」

 数ヶ月が経ち、凍花はいつものように依頼を受けていた。
 調子が良ければ銅貨5枚は稼げる日もあり、それだけで一般的な大人の日給程度にはなっていた。

「そうか、奥には行ってねぇんだな?
 じゃあサラのやつが見たってぇ報告は人違いだったんだろう。ほらよ」
 依頼書を凍花に渡すと、ギルド長は続けて言う。
「最近新しい冒険者も多くて、中には大怪我して帰ってくるやつもいる。
 まぁ帰ってくるだけマシなんだがよ。
 そういや情報の更新もしておきてぇし、ちょいとカードを出してくれや」
「あ、はは。ギルドも色々大変なんですね」
 愛想笑いを浮かべながら、凍花はステータスカードの提示を行う。
 レベルとスキルと、所持しているエーテルが記載されていて、それに名前や身体的特徴でギルドが個々を把握しているのである。

 手に持ったカードをギルド長に見せる凍花。
 そもそもなぜギルド長が?
 いつもであれば慌ただしそうにしている細身のお姉さんが申し訳なさそうに依頼の受理をしてくれていたというのに。
 更新は年に1、2回と聞いていたのでそれも理由の一つ。

 カードを見て書類らしき紙に何かを書いているギルド長は、ゆっくりと口を開く。
「テバちゃんよぉ……
 悪いんだが、しばらくは依頼は任せられねぇ。
 ロゼッタちゃんも心配してんだから、魔物と戦うのは程々にしてやってくれや」

 ペンを走らせるギルド長は、最後の備考欄に力強く文字を書き込んだ。
『ランク4』
 ご丁寧に下線まで付けてわかりやすく大きな文字で。

「えーっと……はい。ごめんなさい……」
 しっかりとカードにはレベル4と書かれており、それは魔物と戦った者がたどり着くステータス。
 少なくとも林の入り口程度の場所に、そこまで多くの魔物は現れない。それがこの村での常識だった。

ーー遡ること2週間。

「マテリアも100を超えたし、一回くらい試しても大丈夫だよね……
 やばかったら逃げればいいし」
 短い間だが、この世界で暮らして少しずつカードの仕組みがわかってきた凍花。

 基本的に冒険者は魔物から素材とエーテルを入手する。
 素材というのは、魔物が実体化したまま物質として残ったもの。
 実体化したままということが珍しく、肉は食料になり、骨や皮は武具や魔道具の素材になる。

 エーテルはカードに貯まっていき、これがいわゆる経験値であった。
 要は魔物が魔物たらしめるエネルギー源であり、人間はカードを通してその力を吸収しているようだ。
 なお、吸収しきれない力がカードに表記される数値で表され、それは魔法の行使や魔道具の使用時に用いることができるのだと凍花は解釈していた。

 そしてマテリアは物質を表すエネルギー源。
 ただ単純な物質ではないが、特殊な何かがマテリアとしてカードに蓄積されていったと考えていた。

 意を決して、実行に移してから十数秒。
 そしてスライムは、プルプルと目の前で揺れている。
 特に何か行動を起こすわけでもなく、小枝で突ついても反応は特にない。

「えーっと。パン……でも食べる?」
 そう言って顔の前に黒パンを近づけてみる凍花。
 スライムの顔がどこにあるのかはわからなかったが、パンに近付いたスライムはそのまま体内に取り込み消化してしまった。

 そして今に至るわけだが、実は魔物を倒しているのは凍花ではなくスライムである。
 マテリアで強化ができ、エーテルでスキルを習得することも可能。
 強化が一定値を超えると、もともと適正のある魔法も使えるようになるようである。
 所詮はスライムだったのだが、それまで溜め込んだ力をそこそこ注ぎ込まれたは、林にいた魔物くらいとは善戦できるくらいに強くなっていたのだった。

【召喚:出現した魔物は体力が0になると消滅する】

 なお、スライムの召喚に消費するマテリアは非常に少なく、質よりも量で攻めた方が効率は良いようである。
 それに加えて、召喚したスライムは新たなマテリアを獲得し、ステータスカードの数値は徐々に増えていく。
 楽しくなった凍花は、初めてこの世界に来た時にいた洞窟『始まりの洞窟』に、次々とスライムを送り込んでみたのであった。







 


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