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1章 ダンジョンと少女

なんてことのない平凡な日常

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 朝はパン屋の店頭で売り子をし、日中はギルドで貼り出される依頼から簡単なものを選んでこなしていく。
 夕方前にはパン屋に戻ってまた売り子。
 それが終われば片付けと掃除をして1日が過ぎていく。

 寝床は天井の低いパン屋の屋根裏部屋で、おかげで余計な出費は控えることができていた。
 屋根裏では、カードに貯まった力とスキルの確認をすることがほとんど。
【スライム:消費マテリア10】
【ゼリー状の魔物で動きは遅い】

 スライムならば試しに出してみても良いだろうか?
 出した魔物は消せるのだろうか?
 そもそもマテリアというもカードに貯まっていくが、エーテルとは違うのか?
 10日ほど経ってようやくマテリアが10貯まったが、他の使い道があるのだろうか?
 もしそうなら、使わずに貯めておいた方が良いのか?

 疑問は溢れるばかりで、目を閉じてそうこう悩んでいるうちに眠り落ち朝を迎えていた。

 あくる日もまた、1日が忙しなく過ぎていく。
「いやぁ、しっかし本当にテバちゃんのお陰で助かったわー。
 前に手伝ってくれてた少年も急に冒険者になるって言い出したからさぁ。
 ま、男の子は夢に向かって挑戦してナンボだよね」
「いえ、私こそ生活に困ってましたし。
 ロゼッタさんのおかげで助かってますよ」
「そやな!
 めっちゃ神妙な顔しながら店頭のパンを見つめてたのを思い出すわ」

 ギルドで仕事は得られるものの、できる仕事はそう多くない。
 宿も探さなくてはいけないのだが、アレンとサラにはそこまでは頼れなかった。
 時折身体は拭きたいし、服も着替えたい。食事の心配に生活のための常識も必要。

『なんや、親とはぐれたんか? この辺じゃ見ない顔やね』
 そう言って声をかけてくれたのが、パン屋のロゼッタであった。
 後々知った話だが、一人で店番もしなくてはならないし焼いているパンの様子も見なくてはいけない。
 焼き窯から取り出したパンが少し焦げてしまい、どうしたものかと店頭でため息をついていたという。

『金無いんやったら、丁度良いもんがあるわ。
 ほら。ちょっと焦げとるけど、ウチのパンは美味しいって評判なんやで?』
 確かに無一文であり、これからどうしようかと悩んではいた。
 厚意に甘えて店頭でパンを食べていると、客が次々とパンを買いにやってくる。

 堅いパンというイメージが強かった凍花だが、美味しいと評判なのは嘘ではないようだと知った。
 それと同時に人手不足なのも見てとれる。
 焼き窯に向かったロゼッタはしばらく戻らず、その間は客を待たせてしまう。
 逆に客を待たせまいと対応すれば、慌てて焼き窯の様子を見に向かうこととなる。

「しっかし子供やのに、店の状況を冷静に判断できるんやから凄いわ」
「いやいや、あんなにバタバタしてたら何かあったんだってわかるでしょ。
 普段からあの状況だったら店が潰れてますよ」

 客の来るピーク時間だけ手伝うという条件で、簡素な宿と食事をゲットする凍花。
 とはいうものの、最初は売上金を持たせるのを躊躇していたロゼッタだったが、日本で着ていたカジュアルスーツが担保となり事はスムーズに決定してしまった。

 その日の食事は売れ残ったパンに野菜とキノコの汁物。
 椎茸やエリンギは食べ慣れていたが、茹でると赤紫色になるキノコは箸が進まない。
 とはいえ、健康にも良いちょっと高価な食材だと教えられれば、食べないわけにはいかないだろう。

 そして、多少のぬめりがあるを、意外にも美味しいと感じてしまう凍花であった。

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