【思案中】物見の塔の小少女パテマ 〜魔道具師パティのギルド生活〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

文字の大きさ
36 / 90

【第7話】地球に来て

しおりを挟む
『パルティナ! ヴァリル!』
 息が絶え絶えな二人の魔族の子供たち。
 背丈は中学~高校生ぐらいにも見えるのだが、まだまだ魔族の中では少女と言って過言ではない。
 そんな倒れた二人の少女を崖下で見つけ、声をかけるフィリアはこれまたボロボロの姿であった。
『う……ん……』
『良かった! 気づいたのねパルティナ!』
 パルティナは目を覚ますも、身体は重く動けそうにはない。
 魔界から持ち込んだ魔道具を使い、傷を洗浄してポーションを振りかける。
 マナが薄くとも、多少の効果はあった。
 やがて山狩りをしていた男たちの声も遠ざかり、しばらくは崖下の洞窟で隠れ住むことになるとフィリアは言う。
 魔族は見た目が人とはかけ離れており、胸に命とも言える核を持つ。
 それゆえに世界で暴走を始めたUMと一緒にされ刃が向けられてしまうのだと嘆いていた。
 数日してようやく起き上がれるようになったパルティナが見たのは、わずかに盛り上がった土の山。
 数は4つで、フィリアの手を見たパルティナはその全てを悟ってしまった。
 当然仲の良い者もいた。
 ヴァリルと共に助けられ、この場にいない人数と合致してしまう。
『う……そだ……』
 フィリアは泣いてなどいなかった。
 だが、ボロボロの手は4人に対する贖罪の気持ちの表れにも感じてしまう。
 だからこそパルティナは責めることはしなかった。

 数日してヴァリルもようやく目を覚ました。
 運動神経が良いヴァリルは、崖から落ちる際にパティを庇っていたのだ。
 そんなヴァリルも、土の山を見てから無言でフィリアを見ていたのをパルティナは知っていた。

 心の中では殺したいほど憎かった。
 やはり一筋の涙も見せず、亡くなった者のことなど忘れたように振る舞うフィリアに対して怒りが沸いてきたのだ
 きっと地球人なら誰でもよく、しかしそれを成し遂げたところで気持ちが晴れることがないことも理解していたのだ。
 ヴァリルはどう思ったのだろう?
 聞いてみたいとは何度も思ったが、きっと同じことを考えているに違いない。
 共感などされでもしたら、それこそ身近にいる者から手をかけてしまいそうで怖い。
 マナさえ満ちていれば魔族は力が使える。
 それはフィリアが魔法と呼んでいたもので、体内に蓄えたマナを使い引き起こすもの。
 魔法は人によって使えるものが異なるため、それを道具化したものが魔道具だ。
 研究を共にしていただけあって、理屈も理解していたパルティナはさまざまな魔法を行使できる。
 今でも少し力を使えば、きっと目の前にいるそれは黒く焼け焦げ動きを止めるのだろう……
 心が闇に堕ちそうになる。
 そんな日々が続く中、夜に蝋燭の灯りで何かを読むフィリアの姿を見てしまった。

 暗闇の中見ている小さな手帳は、どうやら一つの上着に入っていたもののようだった。
『アビゲイルは……に誘い……こととなった……』
 ぶつぶつと呟くフィリアを表情を見て、パルティナは誤解していたことを知る。
 この場にいる誰よりも、フィリアは怒っていた。
 ほとんど睡眠もとらず、日に日に目の下のクマが酷くなっていくフィリア。
 アビゲイルとルマンドの名を時々呟いていて、食料とするための魔物を捕まえた時の表情は、まるで自身に向けられたものとも思えて仕方がなかった。
 竹を斜めに切り、先の尖ったそれを魔物の核に突く。
 パルティナは恐ろしくさえ思えて、それ以来は殺意など微塵も沸くことは無くなってしまったのだ。

 そして数年が経過した……
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...