【思案中】物見の塔の小少女パテマ 〜魔道具師パティのギルド生活〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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得たものと失ったもの

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「パティ! 僕、遂にやったよ!」
 物見部屋の扉がカチャリと音をたて、勢いよく開かれる。
 ちょうど魔道具作りの釜をぐるぐると混ぜていたパティも、その一瞬だけ手を止めていた。
 だが、無言のままパティは作業を再開する。
「あ、ごめん……作業中だったね」
 振り返りもしてくれないパティを見て、少し残念そうにするシン。
 実際には素材などなにも入れておらず、入ってくることを想像したパティが慌てて釜の前に立っただけなのだ。
 だから当然マナなど感じるはずもない。
「なに作ってるのかなぁ?
 んー……あはは、全然わかんないや。
 僕もまだまだだよなぁ」
「……」
 一度黙ってしまったものだから、パティもなんと返していいのか悩んでしまう。
 気持ちはこれ以上ないほどに嬉しかったのだ。
 それと同時に2日も寂しい思いをさせたシンに腹が立つ。
 文句を言ってやるにも、理由が無い。
 喜んで出迎えるなんて自分らしくない。
 通常なら1時間も回していれば次の行程に移るのだが、何も入っていないのだから工程もへったくれもない。
 2時間が過ぎ、まだシンは帰らない。
 パティはもう我慢の限界だった。

「あ……」
「あのっ!」
 と、まさか口を開いたタイミングでシンから話しかけてくるとは思いもよらなかった。
「作業中にごめん。
 パティに渡したいものがあって、ここに置いておくからよかったら受け取ってよ。
 あの時はごめん……たしかに少しだけ疑ってたと思う。
 でも、これまでのことも全部おかしいところなんて何一つなかったのに。
 何も知らない僕がパティの言葉を疑うなんて生意気だったと思う……」
 渡したいもの?
 疑い?
 なんのことだ、突然怒ったりして謝りたいのはこっちの方だというのに。
 振り返って早くモノを見てみたい。
 ピアラビットを捕まえたことを褒めてやりたい。
 そんな想いを抑えて、パティは静かに口を開いた。
「あ……あの……
 私の方こそ変なことばかり言ったと思う……
 シンに期待しすぎたんだとか、私のことなんて誰も信用してないんだとか思ってた……」
「パティ……」
 後ろ姿だけでも、涙を流しているのがシンには伝わってくる。
 いつも1人で魔道具に向き合い、寂しくはないと自分に言い聞かせてきた。
 そんなパティだからこそ、ふと自分の環境を顧みたときに、どうにも堪らない想いになってしまったのだ。
「こっ……ちの世界に来て……
 剣を……持った人たちに追いかけられて……」
 釜を回す手は完全に止まり、パティは俯いてしまう。
 泣いても叫んでも誰も助けてはくれなかった。
 魔界から逃げて地球に来たが、何人かの子供たちは魔物と間違われて殺されてしまった。
 フィリアが崖から落ちた自分とヴァリルを発見し、なんとか生き延びることができ。

 そんな信じる者などいなくて当然のような話がポロポロと、パティの口からは止めどなく溢れ出てしまった。
 いつの間にかパティはシンの胸に抱かれ、涙で服を濡らしてしまってもなお喋り続けていた。
 フィリアが助けてくれた後、ずっと隠れて生活をしていたこと。
 マナが薄く息苦しく感じても、いつもフィリアに助けられたこと。
 だから今でもフィリアのことが好きなのだとパティは言った。
 少しづつ落ち着いて、パティはスッと前を見据える。
「そうだ、渡したいものって何?」
「え? あ、それだったらコレだよ。
 ほら、一緒に綿毛をいっぱい集めたじゃん」
 シンの手には小さなぬいぐるみが一つ。
 パティに似せた手のひらサイズのもので、デフォルメされたそのぬいぐるみは元気一杯の表情で、手には魔道具作りに欠かせないかき混ぜ棒を持っていた。
「下から聞こえてた『買いたいもの』って?」
「あ……聞こえてた?
 この棒の先につける結晶石がなかなか見つからなくてさ。
 小さなやつでいいからって闇市のあの人に頼んでおいたんだよ」
「ばっ……馬鹿、これはめちゃくちゃ希少なアイテムなんだぞ⁈」
 爪の先ほどもない結晶は、一眼見て砕かれたものだとわかってしまう。
 その中から形の良いやつを選りすぐって付けたのだろう。
 ガラスでも良かったのだが、シンはパティが結晶を持つ姿を見て以来、この棒の先にはガラスではなくちゃんとした結晶をつけなくてはいけないと思ってしまった。
 それがシンの思うパティであり、それを伝えられたパティは赤面してしまった。
「わ、私はそんなにか??」
 今日1日で恥ずかしいことばかりが続いてしまう。
 地球に来て失ったものは非常に多いが、パティは今新しい物を手に入れた。
 それは何物にも変え難い物であり、生涯大事にしたいと思えるようなものだった……
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