隠しスキルを手に入れた俺のうぬ惚れ人生

紅柄ねこ(Bengara Neko)

文字の大きさ
83 / 87
第3章 消えた街

第17話 水の都アクアポート②

しおりを挟む
 アクアポートの街はとても静かだ。
 と言っても水の流れや人の動きは非常に多いのだが、魔物や冒険者の馬鹿騒ぎといった騒々しさがあまり感じられなかったのだ。

 街の中心には大きな建物があり、ほぼ全ての商いはここで執り行われているそうである。
 その建物を囲うようにいくつかの露店も出ているが、こちらは街の者が採取したものや工芸品などを販売している。

「俺たちも中に入っていいのかな?」
「どうぞどうぞ、中に入ると食料品や日用品もありますよ。
 お客さん方、外からお見えになったのかしら?」
 露店のお姉さんが優しく声をかけてくる。最近は海も荒れていてあまり魚も取れないので手芸品のアクセサリーを並べているようだ。

「ありがとうお姉さん、綺麗なアクセサリーだね、2人に似合うものを選んでもらってもいいかな?」
「おや、どちらかじゃないんだね?男はハッキリとしないとダメだよ?」
 お姉さんの一言で、レギが我慢ならなかったのか『一つは僕に選ばせてください』と言ってミドに手渡しをしていたのだけれど。

「ありがとうなぁ、無理言うて」
 宝石大好きなローズの為にわざわざルビーのルースを留め具を使って縫い付けてもらった。
 見事な手捌きで作り上げていくものだから、ローズも気に入ったのか、ルースを渡して『アクセサリーを作らないか?』と持ちかけていた。

「8割ウチらの取り分、この腕なら絶対上手いこといくさかい」
 そんな事を言って宝石を無理やり少し預けていたみたいだが、正直長く滞在するつもりも無いのにいいのか?なんて思っていたのだ。

 その商業区域を通り越し、俺たちは食事処に訪れる。
 漁に出られないせいだろうか?海の幸はほとんど品切れのようである。
「材料ならぎょうさんあるんやけどなぁ、作ってくれへんやろか?」
 ローズが口惜しそうに呟くと、店員がすぐに奥へ引っ込んでしまう。
 すぐに店主が出てきて『買い取らせてくれ』と言うのだ。

「もしかして、漁に出られないとか海が荒れているって、余程の事なのですか?」
 流石にこれほどに深刻だとは思っておらず、つい聞いてしまう。

「最近は毎日のように海上に渦が発生してまして……ここひと月で3日しか漁に出れていないそうです。
 それに、急に発生した渦に巻き込まれて重傷を負った者もおりまして」

 なので最近は穏やかな波でも漁に向かわずに、山の方へ行く者が多いのだそうだ。
 少し高値でも、魚介を仕入れたいと訴える主人に根負けし、俺たちは翌日からしばらく漁をする事になった。
 もちろん方法は内緒ではあるのだが。

「とりあえず今持ってる分は卸してもいいのだが、この店にだけと言うわけにもいくまい」
「大丈夫です。市場を通さずに仕入れたような事がバレればこの街では二度と商売ができなくなります。たとえ露天商といえど」

 その話を聞いて、突然ローズが外に出て行ってしまう。
 何かあったのか?と思っていたが、戻ってきたローズの手には宝石の入った麻袋が見える。
 聞けば、露店のお姉さんも少し困っていたようで、ローズもしっかり謝ってきたようである。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...