58 / 87
第2章 精霊王
24話 行商人
しおりを挟む
「もうじき着くはずじゃ、戻ったら銀狼亭でメシにするか」
あと半日も歩けば着くだろう。リキングバウトを出発した日に見た風景がそこにあった。
半日がもう少しかどうかはわからないが、ピルスル的にはもう少しなのだろう。
「あんなぎょうさん魔物おったのに、ほとんど出会わんかったなぁ」
そう、皆が同じ疑問を抱いていた。
やはり各地の魔素を奪っている者がいる、それはきっと少女の姿をしている大精霊に違いないだろう。
「せっかく狼退治もできるようになったのに暇ですわ」
そう言いながら右手で矢をフリフリとしてミドもぼやく。
このミドの弓術、俺では全く叶わなかった狼退治をものともしなかったのだ。
最初の数本を外したところで、ピルスルが俺に教えたように狼を相手にしたんだが。
『そっか、気配無くしちゃえばいいんだ』なんて言って、一本の矢を構えると
見えない速度で射ったのだ。
後で聞いたら本当に見えなくしたのだと、姿も気配も…。
流石にその矢を3本に、とはいかないようだったが。
『矢羽を捻って軌道を曲げたりできるよ』って言っていたのだから、このステルス矢は脅威である…。
「なんや誰かおんで?」
ローズが気付く、荷馬車なのではなく人が1、2…3人。
近付くと中年ほどの夫婦と青年の息子のようだった。
「あぁ、助かりました冒険者の方でしょうか?
実は盗賊に襲われてしまい、荷馬車ごと商品をごっそりと持っていかれてしまったのです」
聞けばこの商人たち、村で取れた新鮮な果物を城下町まで届ける最中に襲われて…。
金品ごと近くの洞窟へと持って行かれてしまったのだそうだ。
街まで送ってもらえたらいいのだけど、もし盗賊を倒してくれるのなら金品の方は好きなだけ持って行って構いません。果物を待つ者のために城下町まで届けたいのです、と。
俺だって、そこまで言われりゃ助けてやりたくなるもので。
『金はいらないから洞窟へと案内してくれるか?』と俺は聞いていた。
「私たちも出来る限りサポートさせていただきますので」
3人は回復が少し使える程度で、戦いにはあまり向いていないので…と俺たちの後ろから付いてきた。
洞窟が見えてきて、様子を伺いながら中へと進んでいく。
あちらこちらに食い散らかしたような跡も見受けられ、次第に緊張が高まる。
『だいぶ奥まで続いているのだな』と思ったものだ。そして次の瞬間、後ろの方では明かりが消え、金属のぶつかる音などが響く。
「なに?!奇襲か!」
俺は振り向き、明かりを掲げて後ろを確認する。
一瞬の間に商人たち3人が倒れている。
『どうしたっ!大丈夫か?』と俺の後ろを歩いていたミドとローズに確認するのだが。
「あんた…ほんま気付いとらんかったんか?」
「お人好しさんなんですね」
と二人とも何かがっかりした風に答えるのだった。
洞窟って知っていたのはなぜ?もしかしたら盗賊の誰かがそう言っていたのかもしれない。
護衛も付けずに街道に出るのか?魔物がいるのに。
もしかしたら盗賊の仲間だったのかもしれない。
それに果物を何日も運ぶ時は、傷まないような対策が必要だ。カードを使う手もあるが高価すぎる。
そもそも城下町はちょうど収穫期を迎えていて外からの食料は必要ないくらいなのだ、と。
残念すぎる商人設定にアレコレとダメ出しを続け、俺まで一緒になってダメ出しを受ける羽目になってしまった。
「カッコいい武器ですねって、あんさんの弓触れとったろ?
あん時に矢が打てんように細工しとったからな、間違いない思うたわ」
とローズの手厳しい追加ダメ出しまで…。
『この人たちはどうします?』ミドがワクワクしながら聞いてきた。
彼女はこいつらをどうしたいのだろうか…?
「水だけ残して放っておいたらええんちゃう?死なれても嫌やし、この辺ならリキングバウトに来るしかないやろ。
やって来たところをドルヴィンにちゃまえといてもろたらええやん」
みんなその提案に乗り、洞窟内のあらゆるものを俺のインベントリに突っ込んでいった。
本当にわずかな水だけを残し。
『今度から気をつけなきゃなー』俺は自信をなくしていた。
何一つ気付かなかった自分が情けない。言われてみれば不自然の塊だったというのに。
洞窟から出ると、また別の女性が立っていたのだ。
「はじめまして、剣士ピルスルとその仲間たちですね?」
『今度は騙されないぞ』と俺は注意深く女性の話に耳を傾ける。
彼女はソフィアと名乗った。
精霊王になる存在だと…。
あと半日も歩けば着くだろう。リキングバウトを出発した日に見た風景がそこにあった。
半日がもう少しかどうかはわからないが、ピルスル的にはもう少しなのだろう。
「あんなぎょうさん魔物おったのに、ほとんど出会わんかったなぁ」
そう、皆が同じ疑問を抱いていた。
やはり各地の魔素を奪っている者がいる、それはきっと少女の姿をしている大精霊に違いないだろう。
「せっかく狼退治もできるようになったのに暇ですわ」
そう言いながら右手で矢をフリフリとしてミドもぼやく。
このミドの弓術、俺では全く叶わなかった狼退治をものともしなかったのだ。
最初の数本を外したところで、ピルスルが俺に教えたように狼を相手にしたんだが。
『そっか、気配無くしちゃえばいいんだ』なんて言って、一本の矢を構えると
見えない速度で射ったのだ。
後で聞いたら本当に見えなくしたのだと、姿も気配も…。
流石にその矢を3本に、とはいかないようだったが。
『矢羽を捻って軌道を曲げたりできるよ』って言っていたのだから、このステルス矢は脅威である…。
「なんや誰かおんで?」
ローズが気付く、荷馬車なのではなく人が1、2…3人。
近付くと中年ほどの夫婦と青年の息子のようだった。
「あぁ、助かりました冒険者の方でしょうか?
実は盗賊に襲われてしまい、荷馬車ごと商品をごっそりと持っていかれてしまったのです」
聞けばこの商人たち、村で取れた新鮮な果物を城下町まで届ける最中に襲われて…。
金品ごと近くの洞窟へと持って行かれてしまったのだそうだ。
街まで送ってもらえたらいいのだけど、もし盗賊を倒してくれるのなら金品の方は好きなだけ持って行って構いません。果物を待つ者のために城下町まで届けたいのです、と。
俺だって、そこまで言われりゃ助けてやりたくなるもので。
『金はいらないから洞窟へと案内してくれるか?』と俺は聞いていた。
「私たちも出来る限りサポートさせていただきますので」
3人は回復が少し使える程度で、戦いにはあまり向いていないので…と俺たちの後ろから付いてきた。
洞窟が見えてきて、様子を伺いながら中へと進んでいく。
あちらこちらに食い散らかしたような跡も見受けられ、次第に緊張が高まる。
『だいぶ奥まで続いているのだな』と思ったものだ。そして次の瞬間、後ろの方では明かりが消え、金属のぶつかる音などが響く。
「なに?!奇襲か!」
俺は振り向き、明かりを掲げて後ろを確認する。
一瞬の間に商人たち3人が倒れている。
『どうしたっ!大丈夫か?』と俺の後ろを歩いていたミドとローズに確認するのだが。
「あんた…ほんま気付いとらんかったんか?」
「お人好しさんなんですね」
と二人とも何かがっかりした風に答えるのだった。
洞窟って知っていたのはなぜ?もしかしたら盗賊の誰かがそう言っていたのかもしれない。
護衛も付けずに街道に出るのか?魔物がいるのに。
もしかしたら盗賊の仲間だったのかもしれない。
それに果物を何日も運ぶ時は、傷まないような対策が必要だ。カードを使う手もあるが高価すぎる。
そもそも城下町はちょうど収穫期を迎えていて外からの食料は必要ないくらいなのだ、と。
残念すぎる商人設定にアレコレとダメ出しを続け、俺まで一緒になってダメ出しを受ける羽目になってしまった。
「カッコいい武器ですねって、あんさんの弓触れとったろ?
あん時に矢が打てんように細工しとったからな、間違いない思うたわ」
とローズの手厳しい追加ダメ出しまで…。
『この人たちはどうします?』ミドがワクワクしながら聞いてきた。
彼女はこいつらをどうしたいのだろうか…?
「水だけ残して放っておいたらええんちゃう?死なれても嫌やし、この辺ならリキングバウトに来るしかないやろ。
やって来たところをドルヴィンにちゃまえといてもろたらええやん」
みんなその提案に乗り、洞窟内のあらゆるものを俺のインベントリに突っ込んでいった。
本当にわずかな水だけを残し。
『今度から気をつけなきゃなー』俺は自信をなくしていた。
何一つ気付かなかった自分が情けない。言われてみれば不自然の塊だったというのに。
洞窟から出ると、また別の女性が立っていたのだ。
「はじめまして、剣士ピルスルとその仲間たちですね?」
『今度は騙されないぞ』と俺は注意深く女性の話に耳を傾ける。
彼女はソフィアと名乗った。
精霊王になる存在だと…。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる