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―― 本編 ――

【015】結婚クエスト(★)

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 静森が訪れる朝が訪れた。本日もおはようの手紙に返事をした砂月は、それから慧山からの手紙を見た。

『ローブ返ってきた、ありがとう! 手を回してくれたんだろ!? さすが!』

 その文面に、砂月は微笑した。

『どうかな。よかったね。また何かあったら教えてね』

 実際、直接的に行動を起こしたわけではないので、曖昧にそれだけ簡潔に返した。それから悠迅から来ていた手紙を改めてみる。そこには、お見合い話はなくなりローブの返却も約束し――その上で、連合とまではいかないが【Lark】と協力関係になったという文面が広がっている。

「【エクエス】と【Lark】は穏便にすんだって事だと思うけど、きっかけはなんだったんだろ?」

 今度時間がある時に、それとなく聞いてみようと砂月は思った。
 今日は静森が来るのだから、静森と一緒にいる以外の時間はない。

「もうすぐだ」

 時計を見て、砂月は頬が緩むのを止められなかった。今日も掃除には気合いを入れたし、肉じゃがの用意は万端である。現在は朝の八時。今日も気合いを入れて早く起きた結果だ。

 今日の待ち合わせは十一時で、肉じゃがを食べてから結婚クエストをしようかと手紙で話した。それから砂月はそわそわしっぱないしで、十一時にできたてが完成したらもっと美味しいかも知れないと判断し、途中からストック品でなく進行形で料理を作る事にした。

 包丁を手に持ち、じゃがいもに当てて調理スキルを発動させると、くるくると皮がむけていく。人参も同様にし、玉ねぎを切って、と、着実に準備を整えていく。

 そうしていたら少し早く、十時半にドアがノックされた。

「っ、はーい!」

 キッチンから声をかけると、扉が開いて静森が入ってきた。

「あ、ごめん。今肉じゃがを作っていて」

 きんぴらゴボウも作ろうとしていた砂月が、包丁を持ったままで振り返ると、入ってきた静森が微笑した。

「そうか」

 綺麗な笑顔に見惚れそうになりつつ砂月が頷くと、歩みよってきた静森が隣に立った。

「良い匂いだな」
「うん。作りたての方が美味しいって噂を聞いてさ」
「そうらしいな。ありがとう。そのエプロン、よく似合ってるな」
「そ?」
「ああ。扉を開けるとお前がいて、それも俺を待っていてくれて、料理までしてくれているというのが幸せでたまらない」

 静森の声に、砂月はあからさまに赤面した。静森は本当に甘い言葉が多いと思う。
 その後料理を完成させて器に盛り付けた。
 運ぶのは静森も手伝ってくれた。
 そして対面する席に座り、お互いに箸を前にする。

「いただきます」
「いただきます」

 二人の声が重なる。その後箸を手に、静森が綺麗な唇に肉じゃがを運ぶのを、砂月はドキドキしながら見ていた。

「味はどう?」
「最高に美味い」
「よかったぁ」

 静森の声にへにゃりと笑った砂月は、自分でも肉じゃがを味わう。

「今日はどの結婚クエストをする?」

 砂月が問いかけると綺麗に箸を使いながら、静森が小首を傾げた。

「初級のものから一つ一つスキルを取って、それぞれのレベルを上げていくのがいいと俺は思う。そうすると伴侶レベルも上がるらしいな。尤も、レベルは全てじゃない。俺は砂月がいてくれたらレベルなど低くても構わない」
「それは俺も同じ気持ちだけど、そうだね。じゃあ一個ずつ地道に行こうか」

 照れくさくなりつつ頷いた砂月は、それから調べておいたNPCから受諾するクエストについて思い出した。

「確か愛恋都市キューピットの教会庭の噴水そばのNPCから受けるんだよね?」
「そう聞いている」
「楽しみだね」

 そんなやりとりをしながら、二人は食事を終えた。
 こうして、目的の愛恋都市へと向かうと、そこにはちらほらと人がいた。多くの通行人の指には、ペアリングが嵌まっている。あまりここを拠点にしている者はいない様子で、皆スキルクエストに訪れている様子だ。

 砂月は歩きながら、自分より少し背の高い静森が、自分のペースにあわせて歩いてくれているようだと理解し、そういう些細な気遣いが嬉しくなった。広場前の道を抜けて教会の門から中に入る。そして中庭にまわると、なるほど噴水があって、その前にNPCが立っていた。これはログアウト不可になる前には、見た事が無いように砂月は思った。

 現在の状況になってからNPCは、大抵が彫像の姿をしている。リアリティある肉体を伴ったNPCにはまだ砂月は遭遇していない。まばらにいる人々の間を抜けて、砂月は静森と共にNPCの前へと立った。

「見てみよう!」
「そうだな」

 こうして二人でNPCを視覚操作で選択して、クエストを開いた。
 砂月が一番上を見ると、【伴侶スキルLv.1】という記載があり、それをまずは開いてみる。

『三十分間恋人繋ぎで街を散策すること』

 とあった。意外と容易であるが、改めて手を繋いで歩くと考えると気恥ずかしくもある。ついでにLv.2も見ると、『唇と唇でキスをすること』と書かれている。こういったシナリオに関係ない都度生成されるクエストは、同時に三つまで受諾可能なので、砂月はさらにLv.3も見た。『宿屋で伴侶1が伴侶2を後ろから抱きしめて十五分間話をすること』と書かれている。想像しただけで砂月は照れてしまった。

「砂月、Lv.1からLv.3まで見たんだが」
「お、俺も見たよ」
「同時進行で3つクリアしないか?」
「う、うん!」

 反射的に砂月が答えると、静森が嬉しそうに頷いた。こうして二人でクエストを三つ受諾して、そしてすぐに静森が砂月の左手を右手で恋人繋ぎで握った。

「まずは街を歩こう」
「そうだね」
「行こう」

 こうして二人で教会の敷地から外へと出て、ゆったりと手を繋いで歩いた。
 石畳の綺麗な街をしていて、各地に噴水がある。時々シャボン玉が飛んでいるのは仕様だ。空の色は穏やかな水色をしている。季節はマップ事に固定だが、天候はその時々によって変化するため、晴れていてよかったなと砂月は思った。

 二人で雑談をしながら歩いていると三十分などあっという間で、気づいた時には【クエストクリア】という表示が、クエスト一覧の場所に出ていた。

「早かったね」

 砂月が言うと、静森がきゅっと手に力を込めた。

「ああ。このまま手を繋いで、宿屋に行くか」
「う、うん……」
「少しハードルが高いクエストにも思えるが」
「え? どうして? 抱きしめるのとキスが? もしかして、嫌?」

 不安になって砂月が尋ねると、静森が微苦笑して首を振った。

「それだけでは足りなくなりそうで怖いからだ」
「っ」
「さて、行くか」

 こうして二人で宿屋へと入った。受付で鍵を受け取り二階の部屋へと入る。大きめのベッドが一つと、床にラグが敷かれていてそばにローテーブルがある。

「砂月」
「ん? っ!」

 名前を呼ばれた砂月が振り返ると、ドアが閉まってすぐ、静森が掠め取るように砂月の唇を奪った。あまりにも早かったものだから砂月が瞠目していると、【クエストクリア】となった。砂月は真っ赤になる。そして照れているかを見られないようにと、静森に抱きついて、静森の胸板に額を押しつけた。

「不意打ちすぎるよ」
「嫌だったか?」
「そんなわけないじゃん」

 砂月がそう言ってなんとか顔を上げると、静森が砂月の顎を持ち上げた。そして顔を傾けて、再度唇を奪う。その後角度を変えて何度か口づけを交わした後、二人はラグの上に座ることにした。静森が砂月を後ろから抱きしめる形だ。

 無性にドキドキしてしまって、砂月は自分の心臓の音が静森に聞こえたらどうしようかと怖くなる。静森の腕にぎゅっと優しく力が入ると、なおさら静森のことを意識してしまう。

「れ、Lv.1がヒール量upで……Lv.2が攻撃力upで、Lv.3が素早さupのバフって書いてあったよね」
「そうだな。単独でいる時も使用可能と書いてある。ただし自分自身か伴侶にのみ使用可能なようだな」

 気を紛らわせようとスキルの話をするのだが、意識しすぎてしまってドキドキが止まらない。時間が経つのが奇妙なほど長く感じる。後ろからなので、赤面していても気づかれないのがよかったと砂月は思った。

 こうしてなんとか十五分間経過し、無事に【クエストクリア】となった。
 クリアしてスキルを得ると、自動的に一覧からクエスト名が消える。

 砂月がそれを確認していたら、静森が親指で砂月の唇を後ろから撫でた。

「!」

 あからさまに砂月がビクリとすると、静森がくすくすと笑った。

「本当に砂月は、まだ緊張するんだな」
「す、するよ! 好きな相手とこんな風にしてたらする!」
「砂月に好きだと言われると嬉しくてたまらない」
「ン」

 静森が後ろから、砂月の肩口に唇を落とす。ツキンと疼いたので、砂月はキスマークをつけられたのだと判断した。

「今日は、ハイネックじゃないよ!」
「この街にいる多くは相手がいるのだし、今日は俺がずっとお前の手を繋いでいるから、見せつけて歩いても良いだろう」
「うっ……」

 頬が熱くなってきた砂月は、首だけで振り返り、チラリと静森を見上げる。

「好きだよ」
「俺も砂月を愛してる」

 それから二人は、再び唇を重ねた。最初は触れあうだけだったが、次第にキスが深くなる。その間、静森がさらさらと砂月の和服を乱した。気づけば脱がされていた砂月は、それが決して嫌ではないため、静森に抱きつきつつ幸せに浸る。

 その後二人はベッドへと移動した。

 じっくりと砂月の後孔を解してから、静森が挿入する。挿入の衝撃には、まだ砂月は慣れなくて、思わず静森の首に両腕を回す。そんな砂月の左足を持ち上げて、静森は斜めに貫いた。

「ぁ、ァ……あっ!」

 そうされると感じる場所へとダイレクトに刺激がとんでくるものだから、砂月は声を堪えられなくなる。静森が抽挿する度に、砂月の体の奥が熱くなっていく。

「ぁ、ヤっ、出る……出ちゃう、っ」
「一度出せ」
「ンあ――!」

 静森に強く貫かれた時、砂月は中だけの刺激で放った。白濁とした液が、静真の引き締まった腹筋を濡らす。砂月が必死で息をしていると、静森が動かず呼吸が落ち着くのを待ってくれた。

「大丈夫か?」
「う、ん……ぁァ」

 砂月が頷くと、再び静森が動き始める。ゆっくりと中の奥深くへと陰茎を進めては、次に腰を引き、それから再び奥を貫く。次第にその動作が速くなっていく。

「あ、あ、あ」

 静森が動く度に、砂月の口からは、甘い嬌声が零れる。

「んぅッ、あァ!!」

 感じる場所をぐりと刺激された頃には、再び砂月の陰茎からは先走りの液が垂れていた。

「だ、だめ、また……ぁア! ああっ!! ンあ!」

 思わず砂月がギュッと締め上げると、静森が息を詰めた。そしてより動きが激しくなる。

「俺も出す」

 宣言した静森が、一際激しく砂月の中を打ち付けた。その衝撃で砂月は果てる。静森は陰茎を引き抜くと、ぐったりとした砂月の腹部に射精した。熱い白液が肌を濡らす感覚に砂月は恥ずかしさと幸福感を同時に感じつつ、大きく吐息する。

 その後は体を清めてから、二人で暫しの間、宿屋で寝転がって談笑していた。
 優しい静森の瞳を見ているだけで、砂月の気持ちは満ちあふれたものに変わる。

「そろそろ行くか。ずっとこうしていたいが」
「うん、行こう。その……いつだってまた、一緒にいたいと思ったらいられるんだからね」
「ああ。その特権を俺は手に入れた」

 こうして二人は服を着てから再び恋人繋ぎをして、宿屋を出た。
 この日はその街の【転送鏡】の前で、二人は最後にまたキスをしてから、別々の帰路についた。



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