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―― 本編 ――

【011】初めて(★)

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 寝室へと入り、砂月は顔には出さないもののド緊張しながらクローゼットの扉を開け放った。すると静森が、ひょいと隣から中を覗き混んだ。

「どれも趣味が良いな」
「そ? お気に入りをここに置いてるんだよね」
「ああ。似合いそうだ。俺はこちらのハイネックの品を勧める」
「いいかも! 着てみる。着替えるね!」
「何故ハイネックがいいか分かるか?」
「? 好きなのかなって思った。デザインいいよね」
「キスマークをつけた時に、他に見えないからという趣旨だ。寝室に来て、俺の前で着替えるというのは、そういう意味だぞ。その気が無いなら、俺を追い出してから着替えるといい。それは砂月も理解していると思っているが」
「っ」

 静森のどこか笑みを含んだような声音に、見透かされていたようだと気がついて、瞬時に砂月は赤面した。そしてぎこちなく振り返ると、正面から抱きすくめられた。その温もりに、緊張がピークに達する。

「……理解、してる」
「押し倒してもいいか?」
「……うん。これからは聞かなくていいよ。嫌な時は嫌っていう!」
「そうか」

 静森は腕の力を少し緩めると、砂月の唇に触れるだけのキスをした。反射的に砂月がきゅっと目を閉じる。長い睫毛が震えている。静森は砂月の頬に手で触れてから、砂月の服を見だした。

 こうして二人は寝台へと移動した。

 静森が砂月の上へとのしかかる。それを見上げた砂月は、緊張でどうにかなりそうだった。小さく震えてしまう。だが、拒絶する気にはならない。どちらが上なのか下なのかなどもぐるぐると悩んだが、悩んでいる内にも静森が手際よく砂月の体に触れ始めた。

「ぁ……」

 左の中指と人差し指の間に静森が砂月の胸の突起を挟み、右胸の乳首には唇で吸い付く。そうして愛撫されると、普段意識したことのない乳首が奇妙なほど存在を主張する気になった。すぐに砂月の乳首は朱く尖り、白い体の中でよく映えた。

 シンっと気持ちの良い感覚が、胸から全身へと広がり始めると、幾ばくか緊張が解け始める。静森は砂月の両胸を丹念に愛撫してから、左手で脇腹をなぞり、砂月の陰茎を緩く握り込んだ。そして上下に擦る。

「ンっ」

 すぐに砂月の陰茎は反応を見せた。胸と陰茎への刺激に震えていると、静森が少しして、右手の指を二本、端正な唇へと含んだ。

 VRMMRORPGと同じ仕様ならば、同性同士でも特にローション類などを用いなくても性行為は容易だという知識が砂月にはある。

 どうやらそうだった様子で、静森が右手の人差し指の尖端を、砂月の後孔にゆっくりと差し入れた時には、特に痛みなども無かった。

「ぁ、ァ……」

 ただ切ない感覚があり、指が進んでくる度にそれが大きくなっていく。
 人差し指が根元まで入りきり、抜き差しをされ、かき混ぜるように動かされる頃には、砂月の陰茎からは先走りの液が垂れ始めていた。次第に指は二本へと増えた。

「んぅッ!」

 砂月の前立腺を、静森が見つけ出す。

「ここか?」
「あ、そこ変……っ」

 砂月が体を跳ねさせると、そこばかりを静森が刺激し始めた。体の奥深くから快楽がこみ上げ始めた砂月は、それが怖くなって静森へと腕を伸ばす。そして首に両腕を回すと、静森が指を引き抜いた。

「悪い、抑制が効かない。挿れるぞ」
「う、うん……あァ! ぁああ!!」

 静森が砂月の中へと押し入ってきた。指とは全く異なる硬い質量が、砂月の内壁を押し広げるように進んでくる。雁首まで挿いったところで、一度静森が動きを止めた。

「辛いか?」
「平気、ぁ……熱いっ……ンん」
「動くぞ」
「あ、ああっ、ぁア!!」

 静森が腰をゆっくりと揺さぶるように動かし始める。次第にその動きは速くなり、同時により深く静森の陰茎が進み始める。その後抽挿が始まった。満杯になってしまった中で動かれると、前立腺へと刺激がとんできて、砂月の息がどんどん上がる。

 砂月の太股を持ち上げた静森が、より深く陰茎を進めた。
 肌と肌がぶつかる音が響く。

「砂月」
「ぁ……っ、ん」
「好きだ」
「俺も――あっ! あぁ!! あっ、ぁ……!!」

 感極まって砂月が静森により強く抱きつくと、静森の動きがより一層早く変わった。

「あぁ、やっ、ン――!! イきそ、っ、ぁァ!!」

 砂月がそういった直後、静森が少し深めに貫いた。その衝撃で砂月は果てた。砂月の中が収縮した時、静森もまた放ったのだった。

 眦を涙で濡らし、砂月が必死で息をしている間、静森は動きを止めていた。
 それから陰茎を引き抜いた静森は、砂月の隣に寝転んで、砂月を両腕で抱き寄せる。

 腕枕をされた砂月は、額を静森の体に当てる。

 ――気持ちが良かった。
 最初は離婚したくないという打算があったはずだったのだが、初めてのSEXは何も考えられないほど濃密だった。余裕なんて消えてしまって、何も出来なかったのが悔やまれる。

「静森くん……」
「ん?」
「静森くんも気持ちよかった?」
「ああ。『も』ということは、砂月はよかったか?」
「う、うん……うん……は、恥ずかしい……」
「可愛いな」

 静森が砂月の髪に触れる。

「気持ちよかったが、もっともっと砂月が欲しい」
「静森くん……」
「もう一度シたい」
「……静森くんがシたいなら、いいよ」

 こうして、二回戦が始まった。
 そして次こそ、砂月は散々キスマークをつけられた。

 事後、気怠い体でシャワーを浴びた時に、砂月はそれに気がついた。鏡を見る度にいちいち真っ赤になってしまった。

 入浴を終えてリビングへと戻ると、先に入って出ていた静森が、レモン入りの水を砂月に差しだした。

「ありがとう。あ、美味しい」
「よかった。体は大丈夫か?」
「っく、う、うん!」

 吹き出しかけたが、なんとか砂月は飲み込んだ。

「ハイネックにして正解だし、ハイネックは偉大だと気がついたよ!」
「別に周囲に見せつけるのでも俺は嬉しいが、どちらかというと砂月の場合、色気が増しすぎて、目の毒だから、誰にも見せない方がいいようにも感じてな」
「……、……え、えっと……その……色気……」
「ああ、砂月は色っぽい」

 砂月がグラスを置くと、静森が後ろから砂月を抱きしめた。

「今日はそろそろ帰られなければならないから名残惜しいが、時間が合ったら今夜中押し倒していたかった。ずっとそばにいたい。まだまだ足りない」
「俺は静森くんが絶倫だって覚えたよ」
「そうか?」
「そ、そうだよ! 俺、そんなに何回も出来ない!」
「では次はもっとゆっくりとするか。俺も今回は余裕が無かった」
「余裕が無かったのは俺の方なんだけど?」
「可愛かった。いつも余裕そうなお前の表情を変えるのは楽しいな」
「なっ、からかって……」
「本心だ」

 くすくすと静森が笑う。その腕の中で、終始砂月は真っ赤になっていた。

「次は三日後に来られる。砂月の予定は?」
「……空ける。いつだって空ける!」
「そうか。ではまた明後日」

 静森はそう言うと、砂月の体を反転させて、唇を深く深く貪った。舌を追い詰められて絡め取られた砂月は、それだけでも反応してしまいそうになり、キスが終わった頃には、ぐったりと静森の胸板に倒れ込んでいた。

「愛している。では、また」

 こうして静森は帰っていった。
 その夜は、砂月はベッドでずっと羞恥から悶えていたのだった。



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