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第1章 幼少期編

第15話 先客

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 薬草と魔石を査定に回した俺は、そのままマリーナさんから神殿の依頼を受けて、神殿に向かった。

 因みに、改めてこの街の作りを説明すると・・・と言うか、詳しく説明するのは初めてかも知れないけど。

 まず街の東側には大きな森が広がっている。その森の遥か先には壮大な山々が南北に連なっている。詳しくは分からないけど、4~5000mはあるんじゃないだろうか? 少なくとも日本では見た事のない高さだ。良く晴れた日などはとても壮大な景色を眺める事が出来、雲の上に突き出した山頂は万年雪に覆われている。

 街の東側は高さ5m~10m程の城壁に囲まれていて、森からのスタンピード、つまり魔物の氾濫に備えている。その第一防壁、と言うか魔物の監視が母の主な仕事だ。日夜、森に潜る冒険者達と協力して森の監視を行なっている。

 一方、西側は結構大きな湖の畔に沿って街が作られている。こちらにはそこまで高い城壁はなく、漁業等も盛んなようだ。こちらは大雨の日の氾濫が心配されるが、湖から森にかけて、なだらかな斜面となっているので、水が溢れても被害は限定的らしい。そもそも【土魔法】や【水魔法】がある世界だから、何とでもなるのだろう。良く分からないけど。

 湖は結構大きいとは言ったが、向こう岸が見えないくらいなので、どこまで大きいのかはまだ分からない。海ではない事だけは確かである。

 また、我が家は森へ続く丘の上にあるので、この街から湖へと続く景色を堪能できる。湖に沈む夕日を初めて見た時にはとても感動したのを覚えている。前世では中々こう言う景色を楽しむ余裕も無かったなぁとシミジミ感じた。

 そして、街の南北には、主要な街道への出入口がある。北門と南門と呼ばれていて、街の正式な出入口でもある。南北は城壁も5m弱とそこまで高くない。因みに、東側は裏口であり、出入りするのは森に用事のある冒険者が大半なのだ。

 この南北の門から続く街道を北に向かうと王都があり、南に向かうと海がある。海の手前には大きな港町もあるらしい。俺はまだこの街から出た事はないけど、その内王都や海にも行ってみたいと思う。

 後、南北の門を抜けた先はほぼ平野となっていて、街道沿いに農作地や農業を担う小さな集落が広かっている。魔物は滅多に出ないらしいが、一応ギルドでは見回りの依頼などもあるようだ。

 そう言えば、まだ言ってなかったけど、この国の名前はデグモ王国、この街の名前はエナンである。王都は王都としか呼ばれてないので、正式な名前はまだ知らないけど、南にある港町はオーシャと言うらしい。

 エナンの街の真ん中には領主である公爵の屋敷(というかほぼ城)があり、その北側に神殿がある。神殿はこの国で結構大きな影響力を持っていて、どの街も領主の屋敷とセットで建っている事が多いらしい。

 長々と説明してしまったが、俺は街の東側にあるギルド支部から街の中心まで早足で移動して、神殿に到着した。

 大きな街なので、普通に歩いて移動したら日が暮れてしまうが、俺の早足ならそんなに時間はかからない。5歳児が目にも止まらぬ速さで歩いていたので、何人か目を見開いて、絵に描いたようなビックリ顔をしていた。ボクハワルクナイヨネ。

 さて、神殿とは言ってもギリシャ神話のような神殿がドーンと建っている訳ではなく、塀に囲まれた四角の土地の中に、教会を広くした様なイメージの建物をはじめ、複数の建物が立ち並んでいる。奥の方には如何にも神殿な建物も建っている。そして、教会部分は市民に解放されていて、誰でもお祈りとかが出来る様になっているそうだ。

 俺は何度か母と来た事があるので、迷わずその裏手の建物に進んでいく。

「おい、ボウズ! 止まれ! ここから先は関係者以外立ち入り禁止だぞ? 守衛で申請はしたのか? それとも迷子か?」

 少し進んだところで、神殿騎士さんに止められてしまった。

「あっ、すみません。前に来た時も特に手続きとかなく入れたので、そのまま入っちゃったんですが、どこかで手続きが必要だったんですね?」

「ああ、入口の門の横に小さな小屋が建ってただろ? あれが守衛になっていて、神殿内に用事がある場合はそこで手続きをして、許可書を携帯する必要があるんだ」

 なるほど、前は母が一緒だったから顔パスだったんだろう。

「そうだったんですね。教えて頂いてありがとうございます。早速手続きしてきますね」

「待ってくれ、その子はいいぞ、そのまま進んで貰え」

 俺が回れ右して、入口に戻ろうとしたら、奥から顔を出した騎士さんに止められた。この人は見覚えがあるな。昨日チンピラに絡まれた(俺から絡んだ?)後に、母とやり取りをしていた騎士さんだ。

「あ、隊長。見ず知らずの子供を入れて大丈夫ですか?」

 隊長さんだったらしい。

「大丈夫だ、問題ない。その子が今朝の定例報告にもあった例の子だ」

「この子が・・・。見た目は普通の子なんですね?」

「そう言う事だから、リョーマ君だったかな? 君はそのまま入ってくれて構わないよ?」

「ありがとうございます。それでは失礼します」

「ああ、気をつけてな」

 神殿の敷地内だから、特に気を付ける事もないけど、俺は騎士さん達に頭を下げると、そのまま先に進む。

 前に母と来た建物まで来ると、入口でいつもシーラ様に付き添っているシスターっぽい人が待っていた。何回も会ってるけど、自己紹介した事がないので名前は知らない。

 もしかして昼からずっと待っていてくれたんだろうか?

「お待ちしていました、リョーマ様。こちらへお越し下さい」

 そう言って俺を案内してくれたので、俺はその後ろをついて行く。

「只今シーラ様には別のお客様がお見えですので、こちらでお待ち下さい」

 応接間の様な部屋に通され、そこで待つ事となった。先客ってアレかな。護衛の依頼を俺の前に受けたと言う特例冒険者の人。

 そんな事を考えていたら、廊下から叫び声が聞こえてきた。

「ちょっと! この天才美少女魔道士のこの私が、依頼を受けに来たのに、断るなんて何事よ!」

 うわー。また色々とツッコミ甲斐のある言葉が聞こえてきた。自称天才美少女魔道士とか、往年の名作ラノベを彷彿とさせるフレーズだ。やっぱりドラゴンも跨いで通るんだろうか?

「きーっ! 折角ここまで来たのに、申し訳ありませんが今回はお断りさせて頂きますとか! 何様よ!」

 神殿の巫女様かと思われます。多分シーラ様にも聞こえてるよね? この子、不敬罪とかでしょっ引かれるんじゃなかろうか? とりあえず触らぬ神に祟りなしだな。放置に限る。

 コンコン

 そんなどうでもいい事を考えていたら、廊下と反対側のドアがノックされた。

「はい」

 ガチャ

「お待たせしてごめんなさい。ちょっと想定外の来客があってね。お断りするのに時間がかかってしまいました」

 俺が返事をすると、シーラ様がそう言いながら入って来た。お相手はまだ納得し切れてない様な気もしますけどね。

「いや、僕が少し遅くなってしまったのも問題だったと思いますし・・・」

「いえ、このタイミングで、あの子がこの街に来ていたのは完全に想定外でした。私の情報不足ですね」

 この口振りだと、さっき廊下で叫んでた子とシーラ様は顔見知りか、もしくはあの子は有名人って事なのかな?

「ともかく、細かい依頼の話に入りましょうか。レミもソロソロ来る頃かと思います」

 ガシャ!

「見つけたわよ、シーラ様! 私はまだこの依頼、諦めて無いからね!」

 そう言いながら、赤い髪の女の子が入ってきた。レミじゃないのが来ちゃったよ。

 もう120%トラブルの予感しかしない・・・。
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