上 下
22 / 159
第1章 幼少期編

第14話 報告

しおりを挟む
 森を出ると、母親は本気で心配だったらしく、家の裏手でずっと待ってくれていた。コッソリ付いて来なかっただけ、母も成長したのかな!?

 待ってくれていた母にお礼を言って、お昼を食べてから冒険者ギルドへ行く事にした。

 今回は特にチンピライベントもなく無事にギルドまで到着した。昼と言う事もあり、冒険者はみんな冒険に出ているのか、人影は少ない。

 少し昼を過ぎたけど、他にあの依頼を受けられる人は、ほぼいないとの事だったから問題はないだろう。

 ・・・そう思っていた時期が俺にもありました。

「ええ!? 他の人が受けちゃったんですか!?」

「はい、ちょっと前に他の支部の特例で冒険者になった子が来て、あの依頼を受けてしまったの」

 ギルドに着いて、犬耳の受付嬢マリーナさんのところに行くと、そんな事を言われた。

「ギルドとして依頼の内容に助言する事はできても、条件さえ満たしていたら依頼を受ける事を拒否する事は出来ないのよ。ごめんなさいね」

 あれ? どこかでそんなフラグ立てたっけ? ・・・ま、まあ予想の範囲内だし? 全然問題ないし? あ、マリーナさんの犬耳かわいいな。

 俺が現実逃避していると、マリーナさんがおいでおいでするので近づく。受付嬢をやっているだけあって、マリーナさんはかなり美人だ。ちょっと照れるな。

「でも大丈夫よ。巫女様はリョーマさん以外の人が受けても、面接で断るって言われていたし、貴方も依頼を受けて神殿に行けばいいの。本来なら依頼を受けた子が帰ってきてから、募集し直しになるけど、今回は結果が分かってるしね?」

 そんな事を小声で俺に教えてくれた。ああ、そう言えばそうだった。それじゃあ実質、指名依頼と変わらないなぁ。何事にも抜け道はあるって事なのかな?

「そうですね! じゃあ、常設依頼の報告だけしたら依頼を受けて神殿に向かいますね」

「あら、もう森に行って来たのね? 薬草かしら? どこに持ってるの?」

 あっ、カバンか何かに入れて来た方が良かったかな? 【収納】から出したら、騒ぎになるかな? 俺が迷っているとマリーナさんがまた小声で話しかけてきた。

「あ、そう言えばリョーマさんは【収納】スキル持ちだったわね? 支部長から聞いているわ。
 ここだと少し目立つかも知れないから、奥に行きましょうか。昼だから人は少ないけど、敢えて悪目立ちする必要もないからね」

 そう言うと、マリーナさんは受付のカウンターを休憩していた別の子に託して、俺を奥の部屋に連れて行くのだった。

 ☆

「これで全部になります」

「・・・」

 通された部屋の机の上に、採取と言う名の【収納】をした薬草類を積み上げる。傷薬草と呼ばれる一般的な薬草に始まり、少しレアな薬草まで、所狭しと机からはみ出さんばかりに乗っている。

 マリーナさんは途中までニコニコと見ていたけど、段々と顔が引きつって来て、今はただ呆然としている。

「おーい、マリーナさーん?」

「はっ! ああ、ごめんね。あまりに大量の薬草だったので驚いて・・・。
 これを午前中だけで集めたの? しかも、物凄く状態が良くない!?」

 何本か薬草を持ち上げつつ、マリーナさんがそう言った。まあ、傷付かないように【収納】しただけだからね。ほぼ生えていた状態のまま、根までキレイに採れている。

「この根の部分なんて、上手く採れる人が少なくてとても貴重なのよ! どんな採り方をしたらこんなにキレイに採取できるの!?」

 マリーナさん呆然からの大興奮だ。シッポが千切れるんじゃないかと、心配になるほど揺れている。

「え、えっと、【収納】で、パパッと・・・」

「そうよねー。そう簡単に教えてくれないわよねー・・・。
 えっ? 言っちゃうの!? しかも【収納】!? そんな話聞いたことないわ!」

 あ、簡単に教えちゃダメなのかな? 冒険者それぞれのノウハウみたいな? それよりそろそろマリーナさんのシッポが本当に切れそうだ。

「は、はい。薬草に触れて、根まで一緒に【収納】するイメージをしたら、こうなりました・・・」

「そ、そうなのね・・・。【収納】を持つ冒険者は多くないから、知られていないだけかも知れないけど、あまり他言しない方が良いかもね?
 もしかしたらリョーマさんにしか出来ない事かも。私は口が硬いから大丈夫だけど、誰にでも言っちゃダメよ?」

 自分で口が硬いって言う人ほど、口が軽いような気もするけど、マリーナさんなら大丈夫かな? 何となくそんな気がする。

「分かりました。今後は気を付けます。
 後、魔石も有るんですけど・・・」

「あら? 魔石も取って来たのね? ゴブリンかしら?」

 俺は【収納】から魔石を取り出して、マリーナさんに見せる。

「あれ? ゴブリンにしては大きくない? ゴブリンの魔石って豆粒程度よ?」

 俺の取り出した魔石は豆粒ではなく、クルミくらいはある。

「えっと、ゴブリンはゴブリンなんですけど・・・」

「けど?」

「ゴブリンジェネラルだそうです」

「・・・」

 あ、マリーナさんまた固まった。とりあえず再起動するのを待とう。

「ゴブリンジェネラルですって!? どこで出会ったの!?」

 あ、再起動した。

「あ、いや、ちょっと待ってて下さい!」

 そう言うと、凄い勢いでトビラを開けて走って行くマリーナさん。と言うか、よっぽど焦ってたのか、俺に対して丁寧な言葉になってたよ。

「支部長ー! 支部長ーー!」

 あ、支部長を呼びに行ったのか。俺はマリーナさんが開けっ放しにしていったトビラをそっと閉めて、しばらく待つ事にした。

 と思ったけど、30秒も経たない内に支部長を連れたマリーナさんが帰ってきた。

「なんだなんだ? 急に引っ張って来て。
 って何だこの薬草の山は!」

「あ、いえ、それはそれで問題ですが、それよりも今はあちらです」

 そう言ってマリーナさんは俺の持っていた魔石を指差す。

「ん? 魔石か? ・・・っ!? ゴブリンジェネラルだと!」

 あ、今少し間が合ったのは魔石を【鑑定】したのかな? 

「確かに、ゴブリンジェネラルの魔石なんですけど、お二人がそんなに狼狽するほどヤバいものなんですか?」

「あ、ああ、ちょっとヤバいかもな。ゴブリンがゴブリンジェネラルに進化してるって事は、結構大きなゴブリンの集落があるって事なんだ。
 ここ数年は発生の報告は無かったはずだが、コイツはどこで倒したんだ?」

 そう言いながら、アルフさんは森の地図を机に広げようとして・・・。置く場所がないですね。ごめんなさい。

 一度、薬草は【収納】して、再度地図を広げる。

「えっと、森に入ってこっちの方向に5km程行ったところですね」

「なるほどな。こっちの方は草が結構茂ってるから、あまり行く奴が居ないんだ。5kmとなると、サーシャ殿の監視網の外になるしな。そこでゴブリンが増えているとしたら、有り得ない話でもないな。
 領主に報告して、ギルドで調査団を送るしかないか。・・・面倒臭えな」

 そう言いながら、アルフさんは頭を掻き毟る。スキンヘッドだけど。面倒事を持ち込んですみません。

「それにしても、リョーマさん。いきなりゴブリンジェネラルを倒して来るなんて、やっぱり凄いんですね! 魔物ランクはC、冒険者ランクCのが、何とか討伐できるレベルの魔物ですよ」

 ギルドでは、【鑑定】で見える魔物のランクに合わせて、冒険者ランクを設定しているらしい。自分のランクと同じランクの魔物を4人前後のパーティーで討伐できるくらいの戦闘力を求められるらしい。

 と言う事は、昨日ギルドの入口で俺に絡んできた人(名前は忘れた)が、もうすぐBのCランクって事だったから、あの人が4人居て何とか倒せるのがゴブリンジェネラルって事だ。あれ? それって凄いのかな? 凄くないのかな? あの人基準だと分からないや。

「とにかく、この件はギルドで預からせてもらう。危険な魔物の発見報告と討伐も依頼達成の中に入れておいてやろう。さっきの薬草と合わせてな」

「薬草と魔石は私が責任持って査定に回すから、夕方くらいにまた来てくれるかな? 全部買取でいいのよね?」

 とりあえず、そんな感じで話は収まりそうだったので、俺は薬草を査定に回して、依頼を受けて神殿に向かう事にしたのだった。
しおりを挟む
感想 112

あなたにおすすめの小説

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん
ファンタジー
捨て子のアコルは、元Aランク冒険者の両親にスパルタ式で育てられ、少しばかり常識外れに育ってしまった。9歳で父を亡くし商団で働くことになり、早く商売を覚えて一人前になろうと頑張る。母親の言い付けで、自分の本当の力を隠し、別人格のキャラで地味に生きていく。が、しかし、何故かぽろぽろと地が出てしまい苦労する。天才的頭脳と魔法の力で、こっそりのはずが大胆に、アコルは成り上がっていく。そして王立高学院で、運命の出会いをしてしまう。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

処理中です...