#秒恋2 2人の日常を積み重ねて。〜恋のトラウマ、ゆっくりと乗り越えよう〜

ReN

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piece6 未来への欠片

ネイビーのワンピース

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「あ、」
ある店の入り口にあるマネキンに、目を惹かれる。
鮮やかなネイビーのワンピースだった。

ふうん、と剛士が頷く。
「試着するか?」
「……いいの?」
待たせることに悠里が躊躇しているのを見てとり、剛士が笑った。

「別にいいよ。まあ、店に入るのは恥ずかしいから、ここにいるけどな」
つられて悠里も微笑む。
「じゃあ、試着したら手を振るね」

タイミング良く店員が近寄って来た。
悠里はもう一度、笑顔を向ける。
「ゴウさん、ありがとう! 」


なるべく剛士を待たせないように、急いで袖を通す。
悠里は、ワクワクして鏡と見つめあった。
ネイビーの色合いが美しく、ラインも綺麗なワンピースだ。
少しだけ、大人になれるような気がした。

今日、剛士が着ているヒヤシンスブルーのセーターとも、合うだろうか。
自然と考えてしまった甘い空想に、思わず悠里は顔を赤らめ、笑ってしまう。

このワンピースを着て、また、剛士と出かけたい。
幸せな未来の欠片を、思い描いた。

そっと試着室のカーテンを開け、入り口の剛士に手を振ってみる。
目が合うと、彼は照れ笑いを浮かべながらも、店内に入ってきた。

「どう、かな」
剛士を見上げると、切れ長の瞳が柔らかく微笑んだ。
「……いいと思います」

シンプルな返事に、悠里は頬が緩むのを抑えられなかった。
「ありがと。買っちゃおうかな」
剛士と一緒に選んだ服。
大切に着ようと、悠里は胸を高鳴らせた。

 
買い物を終えると、窓の外は既に、宵闇に包まれつつあった。
街のそこかしこで、色とりどりのイルミネーションが瞬くのが見える。

剛士は言った。
「弟も待ってるだろうし、そろそろ帰るか」
「……うん。あっという間だったなあ」
悠里の口から、時間を惜しむ言葉が漏れた。

「また、行こうな」
剛士の優しい声は、悠里の胸を柔らかく、くすぐった。
また、2人で出掛けられる。
軽い口約束が自然に思えて、かえって嬉しかった。
「うん!」
頬を染め、悠里は頷いた。

 
2人並んで、駅に続くフロアを歩く。
改札が見えるところまで来たとき、ふいに脇の通路から男の子が飛び出してきた。

「わ、」
ぶつかった衝撃と、衣服越しに熱を感じ、悠里は思わず声を上げる。
子どもが持っていたココアが零れ、悠里と子どもの手をベッタリと濡らしていた。

「だ、大丈夫?」
慌てて悠里はハンカチを取り出し、子どもの手を拭いてやる。
「熱かったね。ごめんね、ぶつかっちゃって」
悠里の腰ほどの背丈しかない、まだ幼い男の子だった。
悠里の白いニットワンピースがココア色に染まっているのに気づき、目に涙を浮かべる。

男の子の母親が駆け寄って来た。
「すみません!お洋服が……」
悠里は微笑む。
「大丈夫です。洗えば落ちますから」
そして、男の子にも微笑みかけた。
「大丈夫だよ。気にしないでね」

悠里は、母親がクリーニング代を渡そうとするのを固辞し、笑顔で2人を見送った。
何度も頭を下げながら、母親と男の子は遠ざかっていった。


「……大丈夫か?」
心配そうに剛士が悠里を覗き込む。
「うん」
頷いたものの、悠里は自分を見下ろし、苦笑いを浮かべた。

試着した直後で、まだコートを着ていなかった。
白いニットワンピースの脇腹の部分が、無残な茶色に変色している。

剛士との初デートに選んだ服。悠里の一番のお気に入りだった。
内心は落ち込んでいたが、あの母子や剛士にそんな顔を見せたくなかった。

「改札入ったところにトイレがあるから、着替えるか?」
剛士の言葉に頷く。
自分たちがいる地点からは、そこが最も近そうだった。
「うん。さっそく着られるなんて、ちょっと嬉しいかも」

買ったばかりのワンピースが入った袋を掲げ、冗談ぽく悠里は笑ってみせた。
剛士が静かに微笑み、彼女の頭を撫でる。
「お前、いいヤツだな」

そして剛士は、白のニットワンピースを見て、言った。
「それ、可愛かったから……綺麗になるといいな」

ふいに告げられた嬉しい言葉に、悠里の顔がほころぶ。
「うん!」
悠里の落ち込んだ気持ちは、剛士の優しさに触れ、甘く解けて消えていった。
 

「じゃあ、着替えてくるね」
改札に入り、悠里は手を振った。
「ゴウさん、先にホームに行ってて」
「階段を降りたとこのベンチにいるよ」
剛士は軽く悠里に手を振り返し、ホームに降りていった。

剛士はベンチに腰掛け、悠里に会ってからはじめて、スマートフォンを手に取る。
あらかじめ通知を切ってはいたが、確認した画面に心配していた人からの連絡を示すものはなく、ホッとする。

代わりに拓真からの通知が来ていた。

『楽しんでる?』

ひと言だけのメッセージだが、彼の嬉しそうな声と笑顔が、目に浮かぶようだ。
剛士は、ふっと微笑む。
帰ったら電話してやろうと思いながら、画面を閉じようとした瞬間だった。

画面が光り、剛士は反射的にタップしてしまう。
ハッとしたときには、もう遅かった。
通話が繋がってしまった。

向き合いたくなかった。
出会いたくなかった、その人と。
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