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piece7 卒業式、前日
柴崎センパイ
しおりを挟む「柴崎センパイ、いいなあ!話したーい!」
「ねー! あ、でも柴崎センパイは、ダメだよ」
ね?と、2人は悪戯に微笑む。
それから、唇を噛んでいる悠里に対し、内緒話のように声を顰めた。
「勇誠の今のキャプテンさ。カンナ先輩の親友の元カレなんだって」
「だからまあ、その人がキャプテンやってるうちは、交流復活は無いよね」
「確かに! 交流断絶になっちゃった、諸悪の根源だしねー!」
2人はまた、ゲラゲラと手を叩いて笑った。
剛士のことを悪し様に言われ、悠里は顔を強張らせる。
顔を見合わせて笑う2人がまるで、剛士の心の傷を馬鹿にしたように見えた。
話を切り上げようと、悠里は口を開きかける。
しかし悠里が声を上げる前に、2人がまた話し始めた。
「あ、でもさあ。カンナ先輩が、エリカ先輩と柴崎センパイが元サヤになれば、交流復活できるって言ってたよー」
「うっそ、マジで?」
2人組が、きゃあっと色めき立つ。
「そうそう! だからカンナ先輩、2人が元サヤに戻れるように、がんばってるんだって!」
「マジか! それ、どこ情報?」
「知らなーい! 誰かが本人から聞いたんじゃん?」
悠里が眉を顰め、唇を噛み締めるのをよそに、2人は笑いながら言った。
「でもなんか、いま柴崎センパイにちょっかいかけてるオンナがいるらしくて!ソイツさえいなくなれば、元サヤはすぐだって!」
「マジか!誰だソイツ、早く消えろよー」
ズキリ、と悠里の胸が鋭く痛んだ。
カンナは後輩にまで、事実を捻じ曲げて話している。
いや。カンナにとっては、それが真実なのだろうか――
2人組は、まだ大声で話し続けている。
「カンナ先輩、がんばってほしー!協力するからー!」
「交流復活、マジで頼むー!」
もう、耐えられない。
このまま話を聞いていれば、発作的に2人に食ってかかりそうだった。
悠里は、必死に衝動を抑え込む。
この2人は、剛士のことを知らない。
エリカとも、きっと話したことはない。
何も知らないのだ。
2人はただ、カンナの言っていることを疑っていないだけなのだ――
悠里は無理やりに口元に笑みを浮かべ、2人に会釈をした。
「じゃあ、私はこれで」
「あ、じゃあねー!」
2人組は、屈託なく悠里に手を振った。
「橘さん! またカンナ会で一緒するときは、よろしくね!」
「みんなで、いいカレシ見つけよー!」
悠里は慌てて首を横に振ったが、2人はもう、悠里の方を見てはいなかった。
楽しげに、勇誠学園との交流についての夢を話し始めている。
悠里は苦しい息を吐き、とぼとぼと自分の教室に向かった。
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