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piece3 明確な悪意
放課後、西門で
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昼休みまでは、穏やかに過ぎていった
空き時間の殆どを彩奈と一緒にいたおかげで、昨日の件はだいぶ、胸の奥に引いた。
このまま、何も起こらずに今日が過ぎてくれればいいと願った。
「悠里ー」
彩奈がトイレに行っているときだった。
クラスメートが、席に座っていた悠里の元にやってくる。
そして、小さく折り畳まれた紙を差し出してきた。
「ほい、お手紙」
「え?」
「なんか、背ぇ高い3年の人から」
言いながらクラスメートは、ドアの方を振り返った。
「あ、もういないや」
悠里に手紙を渡したクラスメートは、頼まれごとを果たしたことで、もう興味を失ったらしい。
笑顔で、悠里に向かって別の話を始めた。
「次の英語、小テストだってさー!ダルいよねえ」
「う、うん、そうだね」
クラスメートに笑みを返しながらも、悠里の心は既に、手紙の内容でいっぱいだった。
『放課後、西門で』
それだけだった。
黒髪のボブヘア、涼やかな瞳の彼女が、脳裏をよぎる。
自分を鋭く睨みつける、明確な、敵意が。
クラスメートに見られないように。
悠里は、手紙とも呼べない小さなメモ書きを、くしゃりと手のひらに握り込む。
授業の開始を告げるベルが鳴り、クラスメートは離れていく。
「悠里、じゃね!」
「うん!」
笑顔で彼女を見送った後、悠里は俯き、ぎゅっと唇を噛んだ。
放課後になった。
「悠里、帰ろ!」
笑顔で寄ってきた彩奈に、悠里はすまなそうに微笑み、両手を合わせて見せる。
「ごめん、彩奈! 私、係の仕事が残ってるの忘れてた。だから、先に帰って?」
「大丈夫?手伝おうか?」
「ううん!1人で平気」
そうして、綺麗に畳んだブランケットを差し出す。
「ありがとう。すごく暖かかったよ!」
彩奈が、少しだけ思案の色を浮かべ、それからブランケットを悠里の方に戻す。
「……彩奈?」
「仕事中、冷えるかも知れないし。使いなよ!」
悠里は、きゅっとブランケットを握った。
「……うん。ありがと、彩奈!」
悠里は、にっこりと微笑み、彩奈に手を振った。
「気をつけて帰ってね。また明日!」
悠里は教室の窓から、そっと彩奈の姿を確認する。
他の友だちと一緒に、楽しそうに帰っていく親友の後ろ姿を――
彩奈が特に疑問を持たず、帰ってくれたことにホッとした。
彩奈には、知られたくない。
自分がこれから、どこに行くのかを。
最後に、彩奈のブランケットをぎゅっと抱きしめて、温もりを分けてもらう。
――大丈夫。
明日のために、がんばれるよ。
悠里は重い鞄を手に取り、教室を後にした。
聖マリアンヌ女学院の西門は、今は殆ど使用されていない旧校舎のそば。
学祭や体育祭などの、来客を含む大規模なイベント時以外には開門されない。
日頃は、ほぼ存在を忘れられているような場所だ。
ひと気のない西門に呼び出されることについては、悪い予感しかなかった。
けれど、逃げても仕方ない。
悠里は深呼吸をし、目指す人物の名を呼んだ。
「安藤さん」
涼やかな瞳を持つカンナが悠里を認め、薄く微笑んだ。
「水くさいなあ、悠里ちゃん? カンナでいいよ?」
その言葉には応えず、悠里は西門を背に立つカンナを見上げた。
「昨日のようなご用件でしたら、お話しすることはありません」
カンナが、とぼけたように首を傾げる。
「安心して、悠里ちゃん? 今日は、良いお話だよ?」
そして、距離を取っていた悠里に腕を伸ばし、強い力で引き寄せる。
「やっ……!」
咄嗟に躱すことができず、悠里は鞄を取り落とした。
痛いほどに手首を掴まれ、引き摺られるようにして距離を詰められる。
「はい、みんなお待たせー!」
カンナが明るい声を上げ、誰かに話しかけた。
「えっ、めっちゃかわいいじゃん!」
「マジで!?」
その瞬間、西門の壁の影から、複数の男子生徒が現れた。
空き時間の殆どを彩奈と一緒にいたおかげで、昨日の件はだいぶ、胸の奥に引いた。
このまま、何も起こらずに今日が過ぎてくれればいいと願った。
「悠里ー」
彩奈がトイレに行っているときだった。
クラスメートが、席に座っていた悠里の元にやってくる。
そして、小さく折り畳まれた紙を差し出してきた。
「ほい、お手紙」
「え?」
「なんか、背ぇ高い3年の人から」
言いながらクラスメートは、ドアの方を振り返った。
「あ、もういないや」
悠里に手紙を渡したクラスメートは、頼まれごとを果たしたことで、もう興味を失ったらしい。
笑顔で、悠里に向かって別の話を始めた。
「次の英語、小テストだってさー!ダルいよねえ」
「う、うん、そうだね」
クラスメートに笑みを返しながらも、悠里の心は既に、手紙の内容でいっぱいだった。
『放課後、西門で』
それだけだった。
黒髪のボブヘア、涼やかな瞳の彼女が、脳裏をよぎる。
自分を鋭く睨みつける、明確な、敵意が。
クラスメートに見られないように。
悠里は、手紙とも呼べない小さなメモ書きを、くしゃりと手のひらに握り込む。
授業の開始を告げるベルが鳴り、クラスメートは離れていく。
「悠里、じゃね!」
「うん!」
笑顔で彼女を見送った後、悠里は俯き、ぎゅっと唇を噛んだ。
放課後になった。
「悠里、帰ろ!」
笑顔で寄ってきた彩奈に、悠里はすまなそうに微笑み、両手を合わせて見せる。
「ごめん、彩奈! 私、係の仕事が残ってるの忘れてた。だから、先に帰って?」
「大丈夫?手伝おうか?」
「ううん!1人で平気」
そうして、綺麗に畳んだブランケットを差し出す。
「ありがとう。すごく暖かかったよ!」
彩奈が、少しだけ思案の色を浮かべ、それからブランケットを悠里の方に戻す。
「……彩奈?」
「仕事中、冷えるかも知れないし。使いなよ!」
悠里は、きゅっとブランケットを握った。
「……うん。ありがと、彩奈!」
悠里は、にっこりと微笑み、彩奈に手を振った。
「気をつけて帰ってね。また明日!」
悠里は教室の窓から、そっと彩奈の姿を確認する。
他の友だちと一緒に、楽しそうに帰っていく親友の後ろ姿を――
彩奈が特に疑問を持たず、帰ってくれたことにホッとした。
彩奈には、知られたくない。
自分がこれから、どこに行くのかを。
最後に、彩奈のブランケットをぎゅっと抱きしめて、温もりを分けてもらう。
――大丈夫。
明日のために、がんばれるよ。
悠里は重い鞄を手に取り、教室を後にした。
聖マリアンヌ女学院の西門は、今は殆ど使用されていない旧校舎のそば。
学祭や体育祭などの、来客を含む大規模なイベント時以外には開門されない。
日頃は、ほぼ存在を忘れられているような場所だ。
ひと気のない西門に呼び出されることについては、悪い予感しかなかった。
けれど、逃げても仕方ない。
悠里は深呼吸をし、目指す人物の名を呼んだ。
「安藤さん」
涼やかな瞳を持つカンナが悠里を認め、薄く微笑んだ。
「水くさいなあ、悠里ちゃん? カンナでいいよ?」
その言葉には応えず、悠里は西門を背に立つカンナを見上げた。
「昨日のようなご用件でしたら、お話しすることはありません」
カンナが、とぼけたように首を傾げる。
「安心して、悠里ちゃん? 今日は、良いお話だよ?」
そして、距離を取っていた悠里に腕を伸ばし、強い力で引き寄せる。
「やっ……!」
咄嗟に躱すことができず、悠里は鞄を取り落とした。
痛いほどに手首を掴まれ、引き摺られるようにして距離を詰められる。
「はい、みんなお待たせー!」
カンナが明るい声を上げ、誰かに話しかけた。
「えっ、めっちゃかわいいじゃん!」
「マジで!?」
その瞬間、西門の壁の影から、複数の男子生徒が現れた。
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