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piece2 歪んだ友情

フォトブック

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カンナが悠里の方に向けて開いたのは、膨大な写真が収録されたフォトブック。

その全てが、聖マリアンヌ女学院と勇誠学園バスケ部の交流を記録したものだった。

こうしてみると、まるで同じ学校の生徒のように、仲が良い。
男子と女子が入り混じって談笑している写真。
お弁当を食べている写真、遠征に行くバスの中など。
和気藹々とした、オフショットが並んでいた。


「あ、ほら。剛士くんだよ?」
写真の中央をカンナが示す。

両校合同で撮られた集合写真。
4列に並んだ最後方で、両校の境目に位置する場所に剛士はいた。

集合写真なので、顔はそこまで鮮明には見えないが、確かに彼だ。
今よりも少し髪が短く、少年ぽさの残る無邪気な笑い方をしていた。

悠里はその隣り、マリアンヌ女学院側の端にいる生徒にも気がついた。
パーマがかかったショートヘアの似合う、華やかな生徒。そう、エリカだ。


「……2人さあ。さりげなーく隣り同士になるように、ここにポジショニングしてんの」
カンナが、トントン、と写真の中の2人を指で示した。

「パッと見、後ろの列だから見えないけどさあ。こんとき、手ぇ繋いでんだよ。可愛くない?」
悠里はじっと、写真の2人――剛士と、エリカを見つめた。

カンナの言う通り、パッと見は、普通の写真だ。
けれどよく見れば、2人の肩は触れ合うほど近く、頭を寄せ合っているように感じる。
前列の生徒の身体で見えない2人の手が、固く繋がれているだろうことも、容易に想像できた。

悠里はテーブルの下、膝の上に置いている両手を、きゅっと握りしめる。


それからカンナは、次々と解説つきで写真を見せつけていった。
集団で写っているもの。
4、5人の少人数で写っているもの。
体育館、バスの中、外、会議室。

たくさんの写真、たくさんの思い出――

剛士とエリカは、いつでも隣同士で、楽しそうに笑っていた。


「活動中はさ、皆に配慮して堂々とイチャついてたりはしないんだけどさ、」

懐かしそうにカンナは言う。
「ふとしたときに、感じるんだよね。2人の絆。アイコンしてたり、さり気なく隣にいたりね」


パラパラと、思い出の2人が、悠里の目の前を通り過ぎていく。

カンナがまた、ひとつの写真を指した。
「あ、これはねえ、いつかの打ち上げの写真! いつのだったかなあ。何回も行ってるからさ、正直どれかわかんないや。ごめんね?」
「い、いいえ」

見せられたのは、カラオケボックスで歌う剛士の姿だった。
最中にカメラを向けられたのだろう。
マイクを持って歌いながら、こちらに笑顔を見せている。

「剛士くん、歌上手いよね! 知ってる?」
「……はい」
最低限の返事をするのが精一杯の悠里に構うことなく、カンナは話し続ける。

「リクにも、何でも応えてくれるんだよ? あ、でも1番歌ってたのは、エリカが好きなアーティストだね」
そう言ってカンナは、ある曲のサビを歌う。

その歌は、悠里の記憶を呼び覚ました。


エリカと出会った日の、カラオケボックス。
彼女と話をした後、戻って来た剛士が、自分で選曲して歌った曲だった――


憂いを帯びた、剛士の甘い歌声。
初めて聴いた、彼の歌の上手さに驚いて、湧き立った悠里たち。
けれど剛士は、サビの途中で唐突に歌いやめ、慌てて曲を終了させた。

『いや。この曲、歌いたくなくて……』
剛士はそう言って、困ったようにマイクを置いた。

いつもの剛士とは違う、迷いに満ちた行動。
悲しく沈んだ瞳――


「悠里ちゃん! 剛士くんがこの歌を歌うの、聴いたことある?」
「えっ?は、はい」
カンナの明るい声に、無理やり現実に引き戻され、悠里は急いで頷いてみせる。

カンナは悠里の表情を見て楽しげに笑うと、言葉を続けた。
「この曲ね、エリカが1番好きな曲だからって。剛士くん、めちゃめちゃ練習してたんだよ!」
上手だったでしょ?と、カンナが得意げに微笑んだ。

適当な相槌を打つこともできず、悠里はただ曖昧に微笑んだ。
「ねえねえ。剛士くん、最近はどんな歌を歌うの?」
「え? その……」
悠里は瞳を揺らめかせ、しどろもどろに答える。

「……わかりません。あの、まだ、一度しか行ったことがなくて」
「あっ、そっかあ!」
カンナが笑い飛ばした。
「悠里ちゃん、剛士くんとは、ただの知り合いだし! そりゃそうだよねえ。何も知らないかあ」

ごめんごめん、とカンナの目線はアルバムに戻る。
悠里は唇を噛み、そっと顔を俯けた。
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