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一ノ巻 誘う惑い路、地獄地蔵
一ノ巻エピローグ これからたとえ、どんなことがあったとしても
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「ふうむ……なるほどのう」
腕組みをして崇春はそう言っていた。少し離れた、かすみと百見の後ろから。
百見が声を上げる。
「……見ていたのか」
「うむ。なんと、怪仏の力を与えた者がおるとはのう」
「どこから見ていた」
「む? 広目天を喚び出したのが見えたんで、そこからじゃが」
「そうか」
百見は息をついた。心なしか安心したように。
思えばこのことは、まず崇春に話すべきこと――酔っ払っている渦生はともかくとして――だろう。それをかすみにだけ話したのは、何か訳があるのだろうか。
わずかに早口に百見は言う。
「いや、いいんだ。君や渦生さんにも見てもらうつもりだったが、盛り上がっているところを邪魔したくなくてね。今の渦生さんに見せても仕方がないし」
かすみは言う。
「そういえば、渦生さんは?」
賀来と斉藤の姿も見えない。
崇春が言う。
「酔い潰れちょったんで、斉藤が中に背負っていっての。賀来もついていって、水を飲ませると言うちょった」
ということは。パーティーの片付けは、渦生以外でやるということか。
「何やってるんですかね、あの人……」
肩を落とすかすみに、崇春が笑ってみせる。
「なあに、いつものことじゃい!」
「いつもそうなんですか……」
百見が咳払いをする。
「それより。今回の件は片付いた、君が標的にされていたことについては心配ないだろう。原因である賀来さんの呪いも、それを実行する閻摩天も無いのだからね。だが」
目を見据えて続ける。
「見てもらったとおりだ、怪仏の件はまだ終わってはいない。そしてこれは、僕らとしても残念なことだが……もう、かかわらないでくれ」
「へ?」
かすみは口を開けていた。
「これ以上僕らにかかわれば、君も危険なことに巻き込んでしまう。だからもう――」
百見がそう言う途中にも。かすみは息をこぼしていた。
「へ……。ふふ。はは、あはははは!」
一度手を叩いた後、片手で口元を隠し、片手で腹を押さえて笑う。身をよじって。
百見が目を瞬かせた。口元が軽く引きつっている。
「谷﨑、さん……? どうした、酔っているのか?」
「酔ってませんよ!」
「酔っ払いは皆そう言う」
「だから酔ってませんからーー!」
飲んだのは崇春酒だけだ。
息を整えた後、かすみは言う。
「あのですね。今さらそんなこと言ったって――」
――水くさいじゃ、冷たいじゃないですか。
「――遅いですよ。もう十分巻き込まれましたし。それに、何ていうか――」
――もう、友達じゃないですか。
「――とにかく! 私も手伝いますよ!」
言い放ったその勢いに押されるように、百見の眉がわずかに下がる。
「いや、しかし……」
崇春が音を立てて百見の背を叩く。
「がっはっは! どうした、何を迷うことがあるんじゃい! 谷﨑がそう言ってくれるんなら心強いし、それに――」
太い腕が百見と、かすみの肩に回される。
「――わしらぁもう、生涯の親友じゃけぇのう!」
その腕は強く、熱かった。
百見は肩を揺すり、息をこぼす。小さく笑った。
「分かったよ。谷﨑さん、これからもよろしくお願いするよ。ただ――」
崇春の腕をつかみ、肩の上から外す。
「――君とはただの知人だが」
「がっはっは、何を――」
笑う崇春の、もう片方の腕をかすみも外す。
「そうですね、よろしくです。知人の崇春さん」
「何いいいぃぃっ!?」
目を見開いた崇春から小走りに離れ、かすみは笑いかける。
「嘘です! 冗談ですよ、冗談!」
「な、おま、何じゃそりゃあああ!」
駆け寄る崇春に背を向けて走りながら、かすみは思った。
これからたとえ、どんなことがあったとしても。
この人といると、不安になれない。
(一ノ巻『誘う惑い路、地獄地蔵』 完)
腕組みをして崇春はそう言っていた。少し離れた、かすみと百見の後ろから。
百見が声を上げる。
「……見ていたのか」
「うむ。なんと、怪仏の力を与えた者がおるとはのう」
「どこから見ていた」
「む? 広目天を喚び出したのが見えたんで、そこからじゃが」
「そうか」
百見は息をついた。心なしか安心したように。
思えばこのことは、まず崇春に話すべきこと――酔っ払っている渦生はともかくとして――だろう。それをかすみにだけ話したのは、何か訳があるのだろうか。
わずかに早口に百見は言う。
「いや、いいんだ。君や渦生さんにも見てもらうつもりだったが、盛り上がっているところを邪魔したくなくてね。今の渦生さんに見せても仕方がないし」
かすみは言う。
「そういえば、渦生さんは?」
賀来と斉藤の姿も見えない。
崇春が言う。
「酔い潰れちょったんで、斉藤が中に背負っていっての。賀来もついていって、水を飲ませると言うちょった」
ということは。パーティーの片付けは、渦生以外でやるということか。
「何やってるんですかね、あの人……」
肩を落とすかすみに、崇春が笑ってみせる。
「なあに、いつものことじゃい!」
「いつもそうなんですか……」
百見が咳払いをする。
「それより。今回の件は片付いた、君が標的にされていたことについては心配ないだろう。原因である賀来さんの呪いも、それを実行する閻摩天も無いのだからね。だが」
目を見据えて続ける。
「見てもらったとおりだ、怪仏の件はまだ終わってはいない。そしてこれは、僕らとしても残念なことだが……もう、かかわらないでくれ」
「へ?」
かすみは口を開けていた。
「これ以上僕らにかかわれば、君も危険なことに巻き込んでしまう。だからもう――」
百見がそう言う途中にも。かすみは息をこぼしていた。
「へ……。ふふ。はは、あはははは!」
一度手を叩いた後、片手で口元を隠し、片手で腹を押さえて笑う。身をよじって。
百見が目を瞬かせた。口元が軽く引きつっている。
「谷﨑、さん……? どうした、酔っているのか?」
「酔ってませんよ!」
「酔っ払いは皆そう言う」
「だから酔ってませんからーー!」
飲んだのは崇春酒だけだ。
息を整えた後、かすみは言う。
「あのですね。今さらそんなこと言ったって――」
――水くさいじゃ、冷たいじゃないですか。
「――遅いですよ。もう十分巻き込まれましたし。それに、何ていうか――」
――もう、友達じゃないですか。
「――とにかく! 私も手伝いますよ!」
言い放ったその勢いに押されるように、百見の眉がわずかに下がる。
「いや、しかし……」
崇春が音を立てて百見の背を叩く。
「がっはっは! どうした、何を迷うことがあるんじゃい! 谷﨑がそう言ってくれるんなら心強いし、それに――」
太い腕が百見と、かすみの肩に回される。
「――わしらぁもう、生涯の親友じゃけぇのう!」
その腕は強く、熱かった。
百見は肩を揺すり、息をこぼす。小さく笑った。
「分かったよ。谷﨑さん、これからもよろしくお願いするよ。ただ――」
崇春の腕をつかみ、肩の上から外す。
「――君とはただの知人だが」
「がっはっは、何を――」
笑う崇春の、もう片方の腕をかすみも外す。
「そうですね、よろしくです。知人の崇春さん」
「何いいいぃぃっ!?」
目を見開いた崇春から小走りに離れ、かすみは笑いかける。
「嘘です! 冗談ですよ、冗談!」
「な、おま、何じゃそりゃあああ!」
駆け寄る崇春に背を向けて走りながら、かすみは思った。
これからたとえ、どんなことがあったとしても。
この人といると、不安になれない。
(一ノ巻『誘う惑い路、地獄地蔵』 完)
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