26 / 44
第二章
第26話:託された夢、リゼルの魔法のペン
しおりを挟む
〈サウスラン〉を後にしてから、一日が経過した。
目覚めは最悪だ。
まだ、荒野地帯を抜けられていない。
空気はカサカサしているし、深呼吸をすると砂埃が口に入る。
だが、それでも獣車の中の空気よりは良い。
僕はのそのそと獣車を降り、外の砂っぽい空気を吸う。
まだ日は出ていない。
冷たい空気が心地いい。
でも砂埃がやっぱり最悪だ。
……布に、こう…………砂埃を防ぐ付呪をしてみようかな。
何か思っていたよりも良い案っぽいぞ。
では早速……あ、しまった。
魔法ペンはエメリアが持っているんだった。
……自分の魔法ペン、欲しいなぁ。
昨晩は地獄だった。
何せ、夜はルグリアもエメリアも、他の冒険者の獣車行ってしまったのだ。
何故かって?
理由は簡単だ。
僕が寝床とした獣車から、ぞろぞろと男たちが出てくる。
「お、先生早いな!」
「いやー、先生は凄いな。獣車の中で……何だあれ? 風の流れか?」
「涼しくて過ごしやすかったぜ先生、ありがとな!」
「今夜も世話んなるぜ先生! ウハハハ!」
単純な話だ。
女冒険者は女冒険者で、男冒険者は男冒険者で集まったのだ。
死ぬかと思った。
冒険者はあまり風呂に入らないと聞いたことはあるが……。
……ルグリアも臭いとは思いたくない。
それだけは、何か嫌だ……。
と、獣車から最後に彼らのリーダーが、先日僕をパーティに誘った板鎧の戦士が降り立つ。
「お前達、あまりリゼル殿に迷惑をかけるなよ」
そうだぞ、かけるなよ。
せめてちゃんとお風呂入って欲しい。
いや待てよ、
ここから一ヶ月……。
ぼ、僕も風呂に入れないのでは?
嘘だろ……。
どうしよう、どうにかできないだろうか。
どこかに良いヒントが無いかと周囲の様子を窺ってみる。
焚き火を使ってベヒーモスの干し肉を炙っている冒険者がいる。
魔法で苦労して周囲から水分を集めて、皆の分の飲水を作っている魔導師もいる。
魔獣使いたちは、獣車を引く自分の魔獣にブラシをかけたり、餌をやったりと忙しそうだ。
魔法で周囲の水を集めるのは基礎の基礎だ。
しかし、あくまでも空気中の水分を集めるだけなので、今僕がいる荒野地帯ではそもそもが厳しい。
高位の魔導師になれば、魔力で水を作り出すこともできるが……。
ちなみに僕は基礎すら無理だ。
世知辛いね。
うーん、同じ水を綺麗にしてから循環して、ならいけるか?
いやでも何か汚い……。
っと、これは失礼な考え方かもしれないな。
所詮僕は先生だなんだとちやほやされたところで、[魔法学校]のもやしっ子だ。
ついつい毎日のお風呂やトイレのことを気にしてしまうが、むしろここでは僕のほうが異端なのだ。
僕は今、冒険者。
考えを改めなければ。
でも本当は改めたくないなぁ……早く街に着きたいなぁ、お風呂入りたいなぁ。
「大規模遠征を見るのは、初めてかね?」
と、リーダーが言った。
「はい。参考になります」
僕は、魔導師に必要なものは観察力だと思っている。
日常にある不便こそが、今足らないもの、欲されているものなのだ。
だから、彼らの日常は、僕の今後にとって大きなヒントとなるはず。
「熱心なことだ。――だが、あまり参考にならんかもしれないぞ?」
「えっ?」
「本来の敗残兵とは、もっと陰鬱としたものだ」
街を放棄して撤退。
確かに、字面だけ見れば紛うことなき負けだ。
だが、獣車には高額素材がぎっしりと詰め込まれている。
どの獣車も、宝の山だろう。
でも僕は別にそういう意味で眺めていたわけでは無いのだが……。
リーダーは寂しげな顔になって言う。
「来た時は、この倍近い数の冒険者がいたのだ」
「それは――」
僕は、言葉をつまらせた。
先の防衛戦での死者は、八名。
……僕にとっては、ろくに顔も知らない僅かな犠牲。
数字でしか判断できない、命。
だけど、彼らにとっては皆苦楽を共にした仲間の命なのだ。
……いけないな。
ついつい、僕は先のことばかりを考えてしまっていた。
姉への仕送りだとか、街についたらとか……。
命に対しての敬意と配慮が、あまりにも足りていなかった。
駄目だな、本当に……。
僕と彼らでは、今、という時間の重さが違うのだ。
「それでも、キミのおかげで、希望を見いだせた」
「それは皆さんのお力があったからです。僕の力ではありません」
別に謙遜では無い。
僕ができるのは、道具を作ることまでだ。
そして道具は、使う人がいなければ意味がない。
……いやまあキングベヒーモスは確かに僕が頑張ったけどもね?
でも、それだけだ。
連発できない破壊力抜群の杖では、壁に群がる山のような魔獣の群れを相手にできない。
あっという間に数で押され、僕は死んでいただろう。
だから、僕はそこまで自惚れることはできない。
「いいや、キミの力だ」
持ち上げられすぎるのも、考えものだ。
悪い気分では無いが、モヤッとしてしまう。
ちょっと困る。
「私がいなくとも、先の戦いは勝てただろう」
ん?
それは……たぶん、そう、なのかな?
いや僕はこの人の力量とか知らないからわからないけども。
「だが、キミがいなければ、我々は全滅していた」
むむむ……。
そ、それも……そうかもしれない。
どうしよう、反論できなくなってしまった。
……ひょっとして僕は今、完全論破をされたのだろうか。
なんだろうこれは。
すっごい褒められてるけど負けた気分だ……。
「キミに、何か礼をしなければとずっと考えていた」
お、これは勝てる話題だ。
「お気持ちは受け取っておきます。でも僕は冒険者として参加していますので、報酬は皆さんと同じようにちゃんと[ギルド]から支払われますよ」
よし、勝った。
完膚無きまでの理論武装だ。
「それは建前だよ、リゼル君。冒険者たちは義理で動く」
……理論が通用しないタイプの返しをされてしまった。
ここで義理を出すのは卑怯だ。
というか呼び名がリゼル殿からリゼル君に変わったのだけど。
ひょっとして尊敬ポイント的なの下がった?
「これを、受け取って欲しい」
と、彼は一枚の綺羅びやかな羽ペンを差し出した。
これは結構な代物では?
でもペンか。
それくらいなら軽い気持ちで受け取れそうだ。
……いや待て。
この、魔力の煌めきは――。
「魔法ペン――」
思わず、驚きが声に出た。
これめっちゃ貴重品では?
一介の冒険者が持ってて良い物なの?
……って、これはだいぶ失礼な考えだな。
[白銀級]から[黄金級]でまとめられた冒険者たちを、一介と切り捨てて良いはずが無い。
というかルグリアも[白銀]なのだ。
彼の階級を笑うことはルグリアを笑うことにも繋がる。
それはいけない。
「私のパーティにも付呪師がいた。――だがもう、必要あるまい」
その言葉の意味は、流石に理解できる。
もう、この[魔法ペン]を使っていた人はいないのだ。
どこにも――。
とは言え、やったーラッキーいただきまーすというわけには行かない。
「受け取れません。これは、その方の家族に送り届けるべきです」
彼なのか彼女なのかはわからないが、形見なのだ。
それを横取りしたくは無い。
というか勝手に他人の遺品を贈り物にするってこの人おかしいのでは?
僕の中でこの人の評価はマイナスだ。
だいぶ下がった。
なんて自分勝手な人なのだ。
「もう残されている家族は私だけだ。――弟の遺品、キミの未来に役立ててはくれないだろうか」
あ、あわわわ……。
マイナスとか思ってすいませんでした……。
いやこれめっちゃ重いやつだ……。
過去最大級の重さだ……。
「勝手な言い分なのは理解している。だが弟の夢を、キミのそばに置いてやって欲しいのだ」
重すぎてちょっと足がすくむ。
見ず知らずの付呪師の形見。
――弟の、形見。
「もらってやってくれよ、先生」
冒険者の一人が、寂しげに言った。
すぐに仲間たちが続く。
「良いやつだったぜ、あいつはよ」
冒険者の様子から、本当に良い仲間だったのだとわかる。
「少し、先生に似てたかもしれないな」
う、贈り物の重さが増した気がする。
形見を誰かに託す人の、心情はわからない。
僕なら、例えば姉が亡くなったとして、その形見は誰にも渡したくない。
だけど……。
「弟さんの、夢って……?」
「付呪の力で、皆を豊かにしたいと言っていた」
思わず、僕は息を呑む。
弟さんは、そんなことを――。
リーダーが寂しそうに言う。
「……駄目かい?」
夢を、継ぐ――。
誰かの成し遂げたかったことを。
いなくなってしまった人の、思いを――。
わかった。
その重さも、夢も、全部ひっくるめて、僕が引き継ごう。
僕は、その資格があると見込まれたのだ。
これを無下にしたくない。
「……わかりました。貴方の、弟が辿りたかった道は、僕が貰い受けます」
僕は、[魔法ペン]を受け取る。
すると、ペンに残されていた前任者の魔力がぱちぱちと跳ね、輝きを放った。
魔力には、性格が出る。
それは僕の実感だ。
この[魔法ペン]の前の持ち主は、真っ直ぐで、穏やかな人だったように感じられる。
その暖かな輝きに触れ、僕は一つひらめいた。
「そうだ! 僕の……最後の杖があります!」
愛着はある。
何せ、[魔法学校]に入学した時から使っていたのだ。
思い出だって、たくさんある。
支給品のため、安物だが……。
しかし、この杖には対キングベヒーモスを想定した大火力の魔法を付呪してあるのだ。
それなりに価値はあるはずだ。
……流石に弟の形見には見劣りするだろうが。
「これを受け取ってください。せめてものお礼です」
だが、今出せる物はこれくらいしか無いのだ。
ここで、はいお金です、というのは違う気がする。
リーダーは少しばかり苦笑してから僕の杖を受け取った。
「ありがとう、リゼル君。――キミの旅が、報われることを祈っている」
こうして、僕は付呪師の必需品、[魔法ペン]を手に入れた。
いくつもの思いと、一緒に――。
そして僕たちは更に旅を続け、三日経つ頃にはようやく荒野を抜けようとしていた。
目覚めは最悪だ。
まだ、荒野地帯を抜けられていない。
空気はカサカサしているし、深呼吸をすると砂埃が口に入る。
だが、それでも獣車の中の空気よりは良い。
僕はのそのそと獣車を降り、外の砂っぽい空気を吸う。
まだ日は出ていない。
冷たい空気が心地いい。
でも砂埃がやっぱり最悪だ。
……布に、こう…………砂埃を防ぐ付呪をしてみようかな。
何か思っていたよりも良い案っぽいぞ。
では早速……あ、しまった。
魔法ペンはエメリアが持っているんだった。
……自分の魔法ペン、欲しいなぁ。
昨晩は地獄だった。
何せ、夜はルグリアもエメリアも、他の冒険者の獣車行ってしまったのだ。
何故かって?
理由は簡単だ。
僕が寝床とした獣車から、ぞろぞろと男たちが出てくる。
「お、先生早いな!」
「いやー、先生は凄いな。獣車の中で……何だあれ? 風の流れか?」
「涼しくて過ごしやすかったぜ先生、ありがとな!」
「今夜も世話んなるぜ先生! ウハハハ!」
単純な話だ。
女冒険者は女冒険者で、男冒険者は男冒険者で集まったのだ。
死ぬかと思った。
冒険者はあまり風呂に入らないと聞いたことはあるが……。
……ルグリアも臭いとは思いたくない。
それだけは、何か嫌だ……。
と、獣車から最後に彼らのリーダーが、先日僕をパーティに誘った板鎧の戦士が降り立つ。
「お前達、あまりリゼル殿に迷惑をかけるなよ」
そうだぞ、かけるなよ。
せめてちゃんとお風呂入って欲しい。
いや待てよ、
ここから一ヶ月……。
ぼ、僕も風呂に入れないのでは?
嘘だろ……。
どうしよう、どうにかできないだろうか。
どこかに良いヒントが無いかと周囲の様子を窺ってみる。
焚き火を使ってベヒーモスの干し肉を炙っている冒険者がいる。
魔法で苦労して周囲から水分を集めて、皆の分の飲水を作っている魔導師もいる。
魔獣使いたちは、獣車を引く自分の魔獣にブラシをかけたり、餌をやったりと忙しそうだ。
魔法で周囲の水を集めるのは基礎の基礎だ。
しかし、あくまでも空気中の水分を集めるだけなので、今僕がいる荒野地帯ではそもそもが厳しい。
高位の魔導師になれば、魔力で水を作り出すこともできるが……。
ちなみに僕は基礎すら無理だ。
世知辛いね。
うーん、同じ水を綺麗にしてから循環して、ならいけるか?
いやでも何か汚い……。
っと、これは失礼な考え方かもしれないな。
所詮僕は先生だなんだとちやほやされたところで、[魔法学校]のもやしっ子だ。
ついつい毎日のお風呂やトイレのことを気にしてしまうが、むしろここでは僕のほうが異端なのだ。
僕は今、冒険者。
考えを改めなければ。
でも本当は改めたくないなぁ……早く街に着きたいなぁ、お風呂入りたいなぁ。
「大規模遠征を見るのは、初めてかね?」
と、リーダーが言った。
「はい。参考になります」
僕は、魔導師に必要なものは観察力だと思っている。
日常にある不便こそが、今足らないもの、欲されているものなのだ。
だから、彼らの日常は、僕の今後にとって大きなヒントとなるはず。
「熱心なことだ。――だが、あまり参考にならんかもしれないぞ?」
「えっ?」
「本来の敗残兵とは、もっと陰鬱としたものだ」
街を放棄して撤退。
確かに、字面だけ見れば紛うことなき負けだ。
だが、獣車には高額素材がぎっしりと詰め込まれている。
どの獣車も、宝の山だろう。
でも僕は別にそういう意味で眺めていたわけでは無いのだが……。
リーダーは寂しげな顔になって言う。
「来た時は、この倍近い数の冒険者がいたのだ」
「それは――」
僕は、言葉をつまらせた。
先の防衛戦での死者は、八名。
……僕にとっては、ろくに顔も知らない僅かな犠牲。
数字でしか判断できない、命。
だけど、彼らにとっては皆苦楽を共にした仲間の命なのだ。
……いけないな。
ついつい、僕は先のことばかりを考えてしまっていた。
姉への仕送りだとか、街についたらとか……。
命に対しての敬意と配慮が、あまりにも足りていなかった。
駄目だな、本当に……。
僕と彼らでは、今、という時間の重さが違うのだ。
「それでも、キミのおかげで、希望を見いだせた」
「それは皆さんのお力があったからです。僕の力ではありません」
別に謙遜では無い。
僕ができるのは、道具を作ることまでだ。
そして道具は、使う人がいなければ意味がない。
……いやまあキングベヒーモスは確かに僕が頑張ったけどもね?
でも、それだけだ。
連発できない破壊力抜群の杖では、壁に群がる山のような魔獣の群れを相手にできない。
あっという間に数で押され、僕は死んでいただろう。
だから、僕はそこまで自惚れることはできない。
「いいや、キミの力だ」
持ち上げられすぎるのも、考えものだ。
悪い気分では無いが、モヤッとしてしまう。
ちょっと困る。
「私がいなくとも、先の戦いは勝てただろう」
ん?
それは……たぶん、そう、なのかな?
いや僕はこの人の力量とか知らないからわからないけども。
「だが、キミがいなければ、我々は全滅していた」
むむむ……。
そ、それも……そうかもしれない。
どうしよう、反論できなくなってしまった。
……ひょっとして僕は今、完全論破をされたのだろうか。
なんだろうこれは。
すっごい褒められてるけど負けた気分だ……。
「キミに、何か礼をしなければとずっと考えていた」
お、これは勝てる話題だ。
「お気持ちは受け取っておきます。でも僕は冒険者として参加していますので、報酬は皆さんと同じようにちゃんと[ギルド]から支払われますよ」
よし、勝った。
完膚無きまでの理論武装だ。
「それは建前だよ、リゼル君。冒険者たちは義理で動く」
……理論が通用しないタイプの返しをされてしまった。
ここで義理を出すのは卑怯だ。
というか呼び名がリゼル殿からリゼル君に変わったのだけど。
ひょっとして尊敬ポイント的なの下がった?
「これを、受け取って欲しい」
と、彼は一枚の綺羅びやかな羽ペンを差し出した。
これは結構な代物では?
でもペンか。
それくらいなら軽い気持ちで受け取れそうだ。
……いや待て。
この、魔力の煌めきは――。
「魔法ペン――」
思わず、驚きが声に出た。
これめっちゃ貴重品では?
一介の冒険者が持ってて良い物なの?
……って、これはだいぶ失礼な考えだな。
[白銀級]から[黄金級]でまとめられた冒険者たちを、一介と切り捨てて良いはずが無い。
というかルグリアも[白銀]なのだ。
彼の階級を笑うことはルグリアを笑うことにも繋がる。
それはいけない。
「私のパーティにも付呪師がいた。――だがもう、必要あるまい」
その言葉の意味は、流石に理解できる。
もう、この[魔法ペン]を使っていた人はいないのだ。
どこにも――。
とは言え、やったーラッキーいただきまーすというわけには行かない。
「受け取れません。これは、その方の家族に送り届けるべきです」
彼なのか彼女なのかはわからないが、形見なのだ。
それを横取りしたくは無い。
というか勝手に他人の遺品を贈り物にするってこの人おかしいのでは?
僕の中でこの人の評価はマイナスだ。
だいぶ下がった。
なんて自分勝手な人なのだ。
「もう残されている家族は私だけだ。――弟の遺品、キミの未来に役立ててはくれないだろうか」
あ、あわわわ……。
マイナスとか思ってすいませんでした……。
いやこれめっちゃ重いやつだ……。
過去最大級の重さだ……。
「勝手な言い分なのは理解している。だが弟の夢を、キミのそばに置いてやって欲しいのだ」
重すぎてちょっと足がすくむ。
見ず知らずの付呪師の形見。
――弟の、形見。
「もらってやってくれよ、先生」
冒険者の一人が、寂しげに言った。
すぐに仲間たちが続く。
「良いやつだったぜ、あいつはよ」
冒険者の様子から、本当に良い仲間だったのだとわかる。
「少し、先生に似てたかもしれないな」
う、贈り物の重さが増した気がする。
形見を誰かに託す人の、心情はわからない。
僕なら、例えば姉が亡くなったとして、その形見は誰にも渡したくない。
だけど……。
「弟さんの、夢って……?」
「付呪の力で、皆を豊かにしたいと言っていた」
思わず、僕は息を呑む。
弟さんは、そんなことを――。
リーダーが寂しそうに言う。
「……駄目かい?」
夢を、継ぐ――。
誰かの成し遂げたかったことを。
いなくなってしまった人の、思いを――。
わかった。
その重さも、夢も、全部ひっくるめて、僕が引き継ごう。
僕は、その資格があると見込まれたのだ。
これを無下にしたくない。
「……わかりました。貴方の、弟が辿りたかった道は、僕が貰い受けます」
僕は、[魔法ペン]を受け取る。
すると、ペンに残されていた前任者の魔力がぱちぱちと跳ね、輝きを放った。
魔力には、性格が出る。
それは僕の実感だ。
この[魔法ペン]の前の持ち主は、真っ直ぐで、穏やかな人だったように感じられる。
その暖かな輝きに触れ、僕は一つひらめいた。
「そうだ! 僕の……最後の杖があります!」
愛着はある。
何せ、[魔法学校]に入学した時から使っていたのだ。
思い出だって、たくさんある。
支給品のため、安物だが……。
しかし、この杖には対キングベヒーモスを想定した大火力の魔法を付呪してあるのだ。
それなりに価値はあるはずだ。
……流石に弟の形見には見劣りするだろうが。
「これを受け取ってください。せめてものお礼です」
だが、今出せる物はこれくらいしか無いのだ。
ここで、はいお金です、というのは違う気がする。
リーダーは少しばかり苦笑してから僕の杖を受け取った。
「ありがとう、リゼル君。――キミの旅が、報われることを祈っている」
こうして、僕は付呪師の必需品、[魔法ペン]を手に入れた。
いくつもの思いと、一緒に――。
そして僕たちは更に旅を続け、三日経つ頃にはようやく荒野を抜けようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる