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生存ゲーム
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突然、男の奇声が響き渡った。
キッチンで働いていた4人のスタッフは、声の方を見やった。
「早紀! 別れるなんて嘘だよな? 俺は信じねーぞ! 別れないからな!!」
「西宮君?」
黒木が叫ぶ。
西宮が持っていたボーガンの矢じりに恐怖を感じて、ドリンク側の入り口から逃げようとした黒木を岡田が引き留めた時、西宮の一番近くにいた町田が、目を盗んで逃げ出した。
だが、木製の床に響く靴音に気がついた西宮は、ホールに出て、ボーガンを構えた。
「ぎゃっ」
背中から射抜かれた町田の声が、キッチンにまで届いた。自動ドア前で倒れたまま動かない。
千畑は裏口に回って逃げようとするが、気が付いた男に取り押さえられて、キッチンに引き戻される。
「おい! 早紀、こっちへ来い! さもなくばこの女を射つぞ!」
千畑と引き換えに黒木をよこせと言う西宮に対して、岡田は彼女を渡さない。
「助けて! 助けて、岡田さん! 岡田さん!岡田ー!!」
千畑が叫ぶ。だが岡田は渡さない。千畑が恨めしげな声で叫び続けた。その声が途切れる前にトリガーが引かれて、千畑の左目が射抜かれた。
「ギャー!!」
矢をつがえる間がチャンスだと、岡田は西宮に襲い掛かる。すんでのところで矢をセットした西宮はこちらを向き返った。
矢は真っ直ぐにしか飛ばない。咄嗟にそう考えた岡田は、矢じりの先に左手をかざし、頭を矢尻が指す筋から外す。
掌に矢の圧力と摩擦を感じる。激痛という激痛は無かった。傷みが全身に広がる前に、右手で殴り倒して馬乗りになり、殴打殴打殴打。岡田は、西宮の意識が無くなるまで殴り続けた。
サイレンが聞こえる。岡田の勝利を察した黒木は、ドリンクエリアに走って行って電話の子機を取り、警察と消防に通報したのだ。
お店は繁華街にあるから、巡回していたパトカーが直ぐに到着した。駆け入ってきた数名の警察官に羽交い絞めにされて、西宮から引きはがされた岡田は、ようやく拳を振るのをやめた。
1人の命が失われたこともあり、ニュースは大々的に報道された。
そして、岡田はインタビューの席で問われてこう答えた。
Q
何故、逃げようとした黒木をその場に留めたのか、黒木を渡さなかったのはなぜか?
A
キッチンからウォッシャーを回ってドリンク側から出入り口に向かうよりも、西宮のいる配膳から出入り口に向かう方が近い。
であるから、自分が黒木をとどめなければ、確実に殺されている。
西宮の目的は黒木だ。黒木を引き渡たしたり、彼女から離れれば、確実に殺される。
他の店員3人といる方が、西宮の警戒が散漫になるから、黒木に的が絞られにくい。
Q
なぜ千畑を助けなかったのか?
A
必ずどちらかが撃たれるのは間違いない。
ターゲットは黒木なのだから、撃たれる可能性は黒木を引き渡すほうが高くなる。
それに、千畑は自分から距離がある上、キッチン台の向こうの配膳側にいる。彼女のもとに行くには、西宮の前を通らなければならないから、今既に保護している黒木の守りに徹するべきだと判断した。
犯人から見ると、自分と千畑の位置を狙うには90度の方向転換が必要になる。矢が千畑の方を向いている状況は、西宮を襲うチャンスにつながる。
岡田は、恐怖を紛らわせようと、状況を大好きな戦争ゲームに見立てていた。
ミッションにおける損得を考えると、自分が死ぬのが一番の損だ。
自分の生存をポイント化すると、+2
他のスタッフは、黒木+2、他は各+1
自分が死ねば、-2、
他のスタッフは、黒木-2他は各-1
そう考えた場合、
①黒木を引き渡せば、黒木-2、生き残りは計+4
②黒木と一緒に逃げると、岡田・黒木死亡で計-4、生き残りは計+2
③千畑を助けるとすればと、矢をつがえた西田と戦う事になるから、岡田、黒木、町田計-5、千畑+1、若しくは全滅して-6
一番良いのは、矢が無くて、自分と西宮の距離が近い状況だ。
④岡田と黒木が生存して+4、-1.5(千畑が怪我してー0.5、町田死亡でー1)
⑤もし町田が逃げなければ、自分の斜め後ろにいた黒木にめがけて発射しただろうから、その瞬間襲い掛かって、+4、黒木死亡で-2になる。
「今考えると、①最初に黒木さんを引き留めずに出入口に行かせて、撃たれている間に裏口から逃げれば、+4と黒木死亡で-2でしたね」
岡田の言葉に、インタビュアーが質問する。
「なら、黒木さんを引き渡して、千畑さんを助けた方が良かったのでは?
点数が同じなら、田町さんと千畑さんが死ぬより良いじゃないですか」
「ターゲットの黒木さんを取られたら、ゲームオーバーです。
点数だけをみると、一番手っ取り早いのはのは、①か⑤でしたけど、ターゲット生存の条件をクリアにしようと思うと、あの状況の中で取れる最大利益は、④だったんです。
ルール上、黒木さんと自分が死ぬ結果はあり得ませんから。
だから、こういう行動をとりました」
岡田は続けて言った。
「結果的に最高得点でした。
ただ、考え方次第ですよね、彼の目的は黒木ですから、黒木を射抜けないのが一番の損害なのは勿論ですが、他を巻き込んだら刑が重くなるので、マイナスかもしれないし」
黒木と岡田が生き残らなくてはならないゲーム盤上のルール、自分さえ生き残れば良い岡田ルール、ターゲットの黒木以外は殺さない方が罪が軽い法律上のルールを、岡田は淡々と話す。
「ただ、今まで話した生存ゲームのルールでいえば、完全勝利でしたよ。
自分にとって絶対条件の自分の生存と、向こうの絶対条件だった黒木殺害の阻止を成したんですから。
町田さんと千畑さんは負けたんです」
岡田は自慢げに語った。しかし、インタビューの放送を見た視聴者からは、非難の嵐だった。
キッチンで働いていた4人のスタッフは、声の方を見やった。
「早紀! 別れるなんて嘘だよな? 俺は信じねーぞ! 別れないからな!!」
「西宮君?」
黒木が叫ぶ。
西宮が持っていたボーガンの矢じりに恐怖を感じて、ドリンク側の入り口から逃げようとした黒木を岡田が引き留めた時、西宮の一番近くにいた町田が、目を盗んで逃げ出した。
だが、木製の床に響く靴音に気がついた西宮は、ホールに出て、ボーガンを構えた。
「ぎゃっ」
背中から射抜かれた町田の声が、キッチンにまで届いた。自動ドア前で倒れたまま動かない。
千畑は裏口に回って逃げようとするが、気が付いた男に取り押さえられて、キッチンに引き戻される。
「おい! 早紀、こっちへ来い! さもなくばこの女を射つぞ!」
千畑と引き換えに黒木をよこせと言う西宮に対して、岡田は彼女を渡さない。
「助けて! 助けて、岡田さん! 岡田さん!岡田ー!!」
千畑が叫ぶ。だが岡田は渡さない。千畑が恨めしげな声で叫び続けた。その声が途切れる前にトリガーが引かれて、千畑の左目が射抜かれた。
「ギャー!!」
矢をつがえる間がチャンスだと、岡田は西宮に襲い掛かる。すんでのところで矢をセットした西宮はこちらを向き返った。
矢は真っ直ぐにしか飛ばない。咄嗟にそう考えた岡田は、矢じりの先に左手をかざし、頭を矢尻が指す筋から外す。
掌に矢の圧力と摩擦を感じる。激痛という激痛は無かった。傷みが全身に広がる前に、右手で殴り倒して馬乗りになり、殴打殴打殴打。岡田は、西宮の意識が無くなるまで殴り続けた。
サイレンが聞こえる。岡田の勝利を察した黒木は、ドリンクエリアに走って行って電話の子機を取り、警察と消防に通報したのだ。
お店は繁華街にあるから、巡回していたパトカーが直ぐに到着した。駆け入ってきた数名の警察官に羽交い絞めにされて、西宮から引きはがされた岡田は、ようやく拳を振るのをやめた。
1人の命が失われたこともあり、ニュースは大々的に報道された。
そして、岡田はインタビューの席で問われてこう答えた。
Q
何故、逃げようとした黒木をその場に留めたのか、黒木を渡さなかったのはなぜか?
A
キッチンからウォッシャーを回ってドリンク側から出入り口に向かうよりも、西宮のいる配膳から出入り口に向かう方が近い。
であるから、自分が黒木をとどめなければ、確実に殺されている。
西宮の目的は黒木だ。黒木を引き渡たしたり、彼女から離れれば、確実に殺される。
他の店員3人といる方が、西宮の警戒が散漫になるから、黒木に的が絞られにくい。
Q
なぜ千畑を助けなかったのか?
A
必ずどちらかが撃たれるのは間違いない。
ターゲットは黒木なのだから、撃たれる可能性は黒木を引き渡すほうが高くなる。
それに、千畑は自分から距離がある上、キッチン台の向こうの配膳側にいる。彼女のもとに行くには、西宮の前を通らなければならないから、今既に保護している黒木の守りに徹するべきだと判断した。
犯人から見ると、自分と千畑の位置を狙うには90度の方向転換が必要になる。矢が千畑の方を向いている状況は、西宮を襲うチャンスにつながる。
岡田は、恐怖を紛らわせようと、状況を大好きな戦争ゲームに見立てていた。
ミッションにおける損得を考えると、自分が死ぬのが一番の損だ。
自分の生存をポイント化すると、+2
他のスタッフは、黒木+2、他は各+1
自分が死ねば、-2、
他のスタッフは、黒木-2他は各-1
そう考えた場合、
①黒木を引き渡せば、黒木-2、生き残りは計+4
②黒木と一緒に逃げると、岡田・黒木死亡で計-4、生き残りは計+2
③千畑を助けるとすればと、矢をつがえた西田と戦う事になるから、岡田、黒木、町田計-5、千畑+1、若しくは全滅して-6
一番良いのは、矢が無くて、自分と西宮の距離が近い状況だ。
④岡田と黒木が生存して+4、-1.5(千畑が怪我してー0.5、町田死亡でー1)
⑤もし町田が逃げなければ、自分の斜め後ろにいた黒木にめがけて発射しただろうから、その瞬間襲い掛かって、+4、黒木死亡で-2になる。
「今考えると、①最初に黒木さんを引き留めずに出入口に行かせて、撃たれている間に裏口から逃げれば、+4と黒木死亡で-2でしたね」
岡田の言葉に、インタビュアーが質問する。
「なら、黒木さんを引き渡して、千畑さんを助けた方が良かったのでは?
点数が同じなら、田町さんと千畑さんが死ぬより良いじゃないですか」
「ターゲットの黒木さんを取られたら、ゲームオーバーです。
点数だけをみると、一番手っ取り早いのはのは、①か⑤でしたけど、ターゲット生存の条件をクリアにしようと思うと、あの状況の中で取れる最大利益は、④だったんです。
ルール上、黒木さんと自分が死ぬ結果はあり得ませんから。
だから、こういう行動をとりました」
岡田は続けて言った。
「結果的に最高得点でした。
ただ、考え方次第ですよね、彼の目的は黒木ですから、黒木を射抜けないのが一番の損害なのは勿論ですが、他を巻き込んだら刑が重くなるので、マイナスかもしれないし」
黒木と岡田が生き残らなくてはならないゲーム盤上のルール、自分さえ生き残れば良い岡田ルール、ターゲットの黒木以外は殺さない方が罪が軽い法律上のルールを、岡田は淡々と話す。
「ただ、今まで話した生存ゲームのルールでいえば、完全勝利でしたよ。
自分にとって絶対条件の自分の生存と、向こうの絶対条件だった黒木殺害の阻止を成したんですから。
町田さんと千畑さんは負けたんです」
岡田は自慢げに語った。しかし、インタビューの放送を見た視聴者からは、非難の嵐だった。
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