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一年生の三学期
第八十七話 奈緒と務
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とりあえず二時間かけて、地歴公民の回答解読を終えた奈緒が、一人で教室に戻る。そこには、帰る準備をしている務が一人だけいて、二人は挨拶を交わした。しかし、意外にも会話が続かない。友達なのに二人して、なにを話そうかと会話を探している様子だ。
しばらく無言が続いたのち、席に座って答案用紙を眺めていた奈緒に、務が言った。
「そういえば僕たち、あまり二人で話す機会がなかったね」
「……うん、ふしぎ。いつもいっぱいお喋り しているのに」
すぐに会話が途切れた。
「帰らないん ですか?」奈緒が訊く。
「うん。杏奈が来るはずだから……」
立ち呆けていた務が後ろのドアを見やって言うと、おもむろにペットボトルを机の上のリュックから取り出して、一口飲む。
それを見て、奈緒が瞳を奪われた。
「そのボトルカバー、色違いで杏奈 ちゃんと おそろい だ ね。花柄で、務 君が 青、杏奈ちゃんが オレンジ」
「ああ、去年鳥羽さんたちから、地域交流会で奔走した杏奈をねぎらって、なにかあげたほうがいいって言われたから。なにあげたらいいか分からなかったんだけど、ちょうど『なーに? お茶』を買った時にこれがおまけがついていて、杏奈が欲しがったからあげたんだ」
奈緒が含み笑いを浮かべた。
「務君と杏奈ちゃん、仲いいね。お付き合いして いるのかな?」
そう言われて、彼は急に真っ赤になって慌てふためく。
「まさか、そんなんじゃないよ」
「でも、杏 奈 ちゃん、務君のこと頼りになるってよく言って るよ。わたしもそう思う」
「向こうは、そういうふうに見ていないよ。僕がのろまだから、いろいろ世話を焼いてくれているんだと思う。ほら彼女、面倒目がいいし、褒めるの上手いじゃない。人をやる気にさせるのが上手っていうか。成瀬さんも体験して分かるでしょ」
「一番最初に助けてくれたの、南ちゃんと杏奈ちゃんだった。そ う い え ば、男子で最初に助けてくれたの、務君だったよ ね。な ん で わたしなんかを 助けてくれた の? し か も、部活や生徒会が あって、その上 塾と バイトもあった のに」
真剣なまなざしを向ける奈緒の瞳を見返してきた務は、一瞬、切り取った写真であるかのように動かなくなった。すぐに視線をそらして口を開く。
しばらく無言が続いたのち、席に座って答案用紙を眺めていた奈緒に、務が言った。
「そういえば僕たち、あまり二人で話す機会がなかったね」
「……うん、ふしぎ。いつもいっぱいお喋り しているのに」
すぐに会話が途切れた。
「帰らないん ですか?」奈緒が訊く。
「うん。杏奈が来るはずだから……」
立ち呆けていた務が後ろのドアを見やって言うと、おもむろにペットボトルを机の上のリュックから取り出して、一口飲む。
それを見て、奈緒が瞳を奪われた。
「そのボトルカバー、色違いで杏奈 ちゃんと おそろい だ ね。花柄で、務 君が 青、杏奈ちゃんが オレンジ」
「ああ、去年鳥羽さんたちから、地域交流会で奔走した杏奈をねぎらって、なにかあげたほうがいいって言われたから。なにあげたらいいか分からなかったんだけど、ちょうど『なーに? お茶』を買った時にこれがおまけがついていて、杏奈が欲しがったからあげたんだ」
奈緒が含み笑いを浮かべた。
「務君と杏奈ちゃん、仲いいね。お付き合いして いるのかな?」
そう言われて、彼は急に真っ赤になって慌てふためく。
「まさか、そんなんじゃないよ」
「でも、杏 奈 ちゃん、務君のこと頼りになるってよく言って るよ。わたしもそう思う」
「向こうは、そういうふうに見ていないよ。僕がのろまだから、いろいろ世話を焼いてくれているんだと思う。ほら彼女、面倒目がいいし、褒めるの上手いじゃない。人をやる気にさせるのが上手っていうか。成瀬さんも体験して分かるでしょ」
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