FRIENDS

緒方宗谷

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一年生の三学期

第七十八話 ラビリンス

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「どうする?」
 奈緒が、唖然呆然の三人に訊く。
「打つ手なし」
 そう言った春樹に、務が提案した。
「そうだ、親に頼んで引き取りに行ってもらう」
「でも、いんのかな? 電話かけても出ないって言っていたぜ」
 どこかでカラスの鳴き声が木霊している。その主を探すように空を見上げた杏奈が、少し心配げな表情を浮かべる。
「とりあえず見に行こうよ。どこにあるの?」
 春樹は答えられず、みんなの顔を見渡す。
「荏原中延」奈緒が答えた。
「近いじゃん。ここで話していても埒が明かないし、とりあえず行こうぜ」
 渡りに船とばかりに春樹が歩み始めると、軽く振り返って続けてこの子に訊く。
「どのへん?」
「知らない」
「そうなの?」杏奈が、少し驚いた様子で言う。
「うん。わたし、南ちゃんちに遊びに行ったこと ないもん」
 春樹が辺りを見渡す。
「とりあえず駅に戻ろーぜ。その間に俺、家に電話して親に訊く。名簿見れば書いてあるだろうし」
 四人は、地図アプリを開く務を先頭に歩み始める。それと同時に、春樹が家に電話をかけた。
 荏原中延駅に着いた頃には、空の景色は夕明かりに輝いていた。昼と夜の境間を彩るほんの短い時間に見せる茜色の光に照らされた街の情景は、賑わっているものの少し物悲しさを感じさせる。例えば、満開に咲き誇っていたアジサイの花びらが、飛散する蝶のようにどこかへ飛んで行ってしまって、最後に残った花びらも蝶になっていなくなりつつあるといった、そんな人の流れだった。
 コロッケの香りを纏う買い物袋を持った親子が、手をつないで温かなおうちへと向かう様子を見ながら、杏奈が春樹を優しく急かす。
「早くいきましょう。あまり遅くなると親に怒られちゃうし。とりあえず親御さんに事情を訊いて、あとは自宅で解決を待つしかないと思うの」
「ああ、駅の裏のほうだな。そんなに遠くないよ、歩いても五分、十分くらいじゃないか」
 四人はとりあえず、中延スキップロードのほうへと歩き始めた。






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