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一年生の二学期
第六十話 シュークリームと気持ち
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奈緒は、余韻に浸って溶けたキャラメルのようにまったりと微笑んで、昨日のことを振り返った。
「“たなしかったなー”。人前で踊るの。病気にならな かったら、思いもよらなかった、わたし。世の 中 には わたしみたい だ け れ ど、頑張って いる人もい る ん だよって伝えた かったし、見て ほしかったから やっちゃった。えへへ」
「その意気だよ。奈緒なら、どんな困難も打ち砕けるって信じているよ。だって、昨日それを見せてくれたじゃん。入学するまでの頑張りも教えてくれたじゃん」
南に褒められて照れるこの子は、うれしさや喜びを抑えきれない様子で破顔する。
「世 界 には、裕福な人は、とても裕福で、きりがないけ れ ど、貧しい人は、とても貧しくて、きりがなくて、世 界 に は 戦争があっても、 、 、 、飢餓もあって、とても大変なのに、日本はとても“ゆ か た” で、世界的に見れば裕福ですから、わたしはこんなになってしまった けれど、幸福だと思わなければ 罰が当たるから、幸 福 だと言いたいで す」
ぺこり、と頭を下げた奈緒に、みんなが拍手を送る。
「じゃあ、これでお開きにしましょうか。伝票は分けてあるでしょ。自分のは自分で払ってね」
杏奈がそう言うと、それぞれ立ち上がってレジへと向かう。そして、三番目に並んだ春樹が、後ろに振り向いてきて奈緒に言った。
「昨日、さんざん駄々こねたんだって? 自分がおごるって」
「説得するのに苦労したよ」
南が疲れた笑みを浮かべる横で、奈緒がつんと澄ました様子で口を開く。
「あら、わたしはまだ納得していませんよ」
笑うみんなに向かって、奈緒がつんと顎を上げた。
「ここは、わたしのいどこ。憩いのいどこ。だから秘密だけれども、みんなに教えてあげるの」
務が、微笑むみんなを代表するように言った。
「その気持ちが一番のお礼だよ」
奈緒は、彼の莞爾とした微笑に、とても穏やかに、それでいて溢れんばかりの感情を湛えた笑みを返す。そしてみんなの微笑にも返した。
「“たなしかったなー”。人前で踊るの。病気にならな かったら、思いもよらなかった、わたし。世の 中 には わたしみたい だ け れ ど、頑張って いる人もい る ん だよって伝えた かったし、見て ほしかったから やっちゃった。えへへ」
「その意気だよ。奈緒なら、どんな困難も打ち砕けるって信じているよ。だって、昨日それを見せてくれたじゃん。入学するまでの頑張りも教えてくれたじゃん」
南に褒められて照れるこの子は、うれしさや喜びを抑えきれない様子で破顔する。
「世 界 には、裕福な人は、とても裕福で、きりがないけ れ ど、貧しい人は、とても貧しくて、きりがなくて、世 界 に は 戦争があっても、 、 、 、飢餓もあって、とても大変なのに、日本はとても“ゆ か た” で、世界的に見れば裕福ですから、わたしはこんなになってしまった けれど、幸福だと思わなければ 罰が当たるから、幸 福 だと言いたいで す」
ぺこり、と頭を下げた奈緒に、みんなが拍手を送る。
「じゃあ、これでお開きにしましょうか。伝票は分けてあるでしょ。自分のは自分で払ってね」
杏奈がそう言うと、それぞれ立ち上がってレジへと向かう。そして、三番目に並んだ春樹が、後ろに振り向いてきて奈緒に言った。
「昨日、さんざん駄々こねたんだって? 自分がおごるって」
「説得するのに苦労したよ」
南が疲れた笑みを浮かべる横で、奈緒がつんと澄ました様子で口を開く。
「あら、わたしはまだ納得していませんよ」
笑うみんなに向かって、奈緒がつんと顎を上げた。
「ここは、わたしのいどこ。憩いのいどこ。だから秘密だけれども、みんなに教えてあげるの」
務が、微笑むみんなを代表するように言った。
「その気持ちが一番のお礼だよ」
奈緒は、彼の莞爾とした微笑に、とても穏やかに、それでいて溢れんばかりの感情を湛えた笑みを返す。そしてみんなの微笑にも返した。
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