愛するということ

緒方宗谷

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29.模索

2. 加奈子への愛情 

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 同じ日、有紀子は1学年上の茂木とデートをしていた。陸が転校してくる直前に告白してきた先輩だ。陸と加奈子が既に他の道を歩み始めていることなど露知らず、自らも別の道を歩み出そうとしていた。
 有紀子が陸と距離を取るようになったと知った3年の茂木は、以前フラれたにもかかわらず、有紀子を忘れられずに帰り道で声をかけた。
 付き合ってはいない。ただ、放課後にデートするだけ。有紀子は、1対1で男子と喋る性格ではないが、茂木は良くしゃべる人だったから、歩いていても喫茶店にいても会話が途切れない。だから、居心地が悪いことは無かった。
 あまつさえ、いつまでたっても陸や加奈子と関係が修復できない苛立ちを忘れさせてくれた。
 有紀子は、加奈子と同じようなことを考えていた。停滞した状況を打破するためには、陸への気持ちを断ち切らなければならない。しかし、自分は男子が好きな女子なのだと示そうとは思わなかった。それは加奈子を完全に拒絶するということだったからだ。
 大大大の大親友である加奈子に、引導を渡すようなことは出来ない。なんとか加奈子の気持ちを受け入れることが出来ないものか、と思い悩んだ。
 加奈子の告白が無ければ、自らに失恋を与えるために茂木と付き合って陸を忘れさせてもらうとか、取り返しがつかない行為を行うことによって、自分に陸を忘れろ、と言い聞かせることをしたかもしれない。
 加奈子の言葉が、茂木と正式に付き合うことを踏み止まらせていた。それでも否応なくその方向に思考が流れていく。
 加奈子が自分を好きであるという事実は、陸の想いが成就しない、ということだ。加奈子の気持ちを受け入れきれずに思考停止した有紀子の脳は、そのことだけを理解していた。そして喜んだ。
 それと同時に、有紀子は自分に嫌悪を感じた。加奈子の気持ちを利用して、陸に振り向いてもらおうと思ってしまったことが嫌で堪らない。だから、やはり陸への気持ちは断ち切らなければならない。それ以外に方法は無い、と思った。
 有紀子は、同性愛に対して差別意識は無い。ただ考えたこともない。だから、趣向の問題だと考えた。格好良い女性を好む男性とか、可愛い男性を好む女性とか、それの延長線上だと思った。
 実際そういう男女もいるのであろうが、加奈子は違う。彼女の可能性の中に、趣向の問題と言う可能性もあるにはある。だが、彼女にとっては“有紀子が好きだ”、それが全てだった。有紀子も内心それに気がついているのかもしれない。だからこそ陸と加奈子への想いの狭間で揺れ動いているのだろう。
 結局、陸への想いを断ち切らなければ、と結論付けた有紀子は、手をつなごうとする茂木を拒まなかった。
 本当に好きな人とすれ違ったにもかかわらず気が付けないほど、加奈子のことを考えていた。

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