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29.模索
1. 性と感情の認識
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冬休みが終わって新学期が始まった。夕方、加奈子は自分の部屋の机で勉強していたが、全く手につかない。
加奈子は自分が分からなかった。心と体に性の不一致は無い。幼い頃、自分はいつか男の子になると思っていたし、今も思っている。しかし、心は女の子だとも思っている。有紀子のことが好きだったが、それでも今は自分自身は女の子である、と認識していた。
(自分は女の子だ。そして、女の子として有紀子が好きだ)
加奈子は、普段は体が女の子でも特別違和感はない。ただ、ある理由で男子になりたいとも思っていた。それは、心身の性属性に違和感があるというわけではない。ただただ有紀子と結ばれたいがためだ。だから正確には、どのような自分自身を望んでいるか分からないでいた。
答えが出せずダラダラと時間を過ごしてきた加奈子だが、もはやそういうわけにはいかない。
(私のせいだ。私のせいで陸君はあのような事件を起こしてしまった。有紀子との関係もギクシャクしている)
加奈子はそう思った。だから、この事態を打開したかった。
だからと言って、良い方法が考えついているわけではない。だが、自分の想いを断ち切らねばならない。それは正しい方法ではない。内より溢れ出る愛情を断ち切るなど、精神を殺すに等しい。でも加奈子には分からない。そうしなければ、一歩先に進めない、と思った。
ちょうど自分を好いてくれていると思われる大学生がすぐ隣にいる。悪い人ではない。中学生の時から知っている。加奈子は、私は女子なのだと自分自身に分からせるために、女になる必要がある、と思った。
もちろん家庭教師の島根のことが好きなわけではない。島根と陸を比べれば陸の方が好きだ。もし有紀子との関係が無い中で、自分を女にしようと思ったとしたら、陸を選ぶ。
勉強を教えてもらっている間、加奈子はずっとソワソワしていた。その動揺は島根にも伝わっていて、彼も妙に落ち着かない。少し苦しそうに呼吸しながら話している。
加奈子はとても綺麗になった。島根は彼女のことを中学生の時からとても綺麗な少女だと思っていたが、今では女優かモデルの様だ。もちろん部屋に上がる度に、彼女に対して特別な感情をいだいていた。異性であることはもちろんだが、性対象でありながら、それとはまた別のようにも思える感情。
不純な想いは込み上げてこないものの、彼女を抱きしめたい、という想いに刈られることは度々ある。教え子として、友達として、妹として、島根は加奈子のことが大好きだった。その気持ちの発露として、無意識の内に村上加奈子を抱きしめたいと望んでいた。
一度も実行に移したことは無かったが、今日は何故か心の距離が妙に近い。お互いがまとう空気が溶け合っている感じだ。だが何だろう、彼女の中に弱々しさも感じる。そして、彼女には抵抗する力が無いようにも見える。
無理やりというわけでは当然ない。自然とそのような雰囲気に浸っていって、きっかけさえあれば、彼女は自分を受け入れるだろう。島根にはそう思えた。
「加奈ちゃん?」
勉強の進行を止めた島根は、加奈子の横顔に一言語りかけた。加奈子が振り向く。見つめる加奈子の眼差しに、抵抗の光は無い。数十cm先に唇がある。島根は、何も言わずに唇を近づける素振りを見せる。
加奈子は顔を背けなかった。
特別抵抗はしないと誓った。自分は女子だ。島根を同姓と思っていない。
少し表面が硬いそうな男の唇が自分の唇に重なると想像した時に、加奈子はふと思った。(私は女で本当によかった)と。こんな唇にはなりたくない。
自分は何なのだろう。性同一性障害なのか。それとも精神的なことなのか。心は男子なのに女子だと思い込んでいるのか。男子かもしれないと思い込んでいる女子なのか。色々な可能性があり過ぎではかりきれない。
母親は先ほど買い物に出た。加奈子が時計を見ると、4時を回ったところ。いつも5時前には戻ってくる。行為は何分くらいかかるのか。4、50分あれば十分なのだろうか。行為がどういうものかは知ってはいる。だが想像できない。意外に無知な自分に、加奈子は冷笑した。
加奈子は自分が分からなかった。心と体に性の不一致は無い。幼い頃、自分はいつか男の子になると思っていたし、今も思っている。しかし、心は女の子だとも思っている。有紀子のことが好きだったが、それでも今は自分自身は女の子である、と認識していた。
(自分は女の子だ。そして、女の子として有紀子が好きだ)
加奈子は、普段は体が女の子でも特別違和感はない。ただ、ある理由で男子になりたいとも思っていた。それは、心身の性属性に違和感があるというわけではない。ただただ有紀子と結ばれたいがためだ。だから正確には、どのような自分自身を望んでいるか分からないでいた。
答えが出せずダラダラと時間を過ごしてきた加奈子だが、もはやそういうわけにはいかない。
(私のせいだ。私のせいで陸君はあのような事件を起こしてしまった。有紀子との関係もギクシャクしている)
加奈子はそう思った。だから、この事態を打開したかった。
だからと言って、良い方法が考えついているわけではない。だが、自分の想いを断ち切らねばならない。それは正しい方法ではない。内より溢れ出る愛情を断ち切るなど、精神を殺すに等しい。でも加奈子には分からない。そうしなければ、一歩先に進めない、と思った。
ちょうど自分を好いてくれていると思われる大学生がすぐ隣にいる。悪い人ではない。中学生の時から知っている。加奈子は、私は女子なのだと自分自身に分からせるために、女になる必要がある、と思った。
もちろん家庭教師の島根のことが好きなわけではない。島根と陸を比べれば陸の方が好きだ。もし有紀子との関係が無い中で、自分を女にしようと思ったとしたら、陸を選ぶ。
勉強を教えてもらっている間、加奈子はずっとソワソワしていた。その動揺は島根にも伝わっていて、彼も妙に落ち着かない。少し苦しそうに呼吸しながら話している。
加奈子はとても綺麗になった。島根は彼女のことを中学生の時からとても綺麗な少女だと思っていたが、今では女優かモデルの様だ。もちろん部屋に上がる度に、彼女に対して特別な感情をいだいていた。異性であることはもちろんだが、性対象でありながら、それとはまた別のようにも思える感情。
不純な想いは込み上げてこないものの、彼女を抱きしめたい、という想いに刈られることは度々ある。教え子として、友達として、妹として、島根は加奈子のことが大好きだった。その気持ちの発露として、無意識の内に村上加奈子を抱きしめたいと望んでいた。
一度も実行に移したことは無かったが、今日は何故か心の距離が妙に近い。お互いがまとう空気が溶け合っている感じだ。だが何だろう、彼女の中に弱々しさも感じる。そして、彼女には抵抗する力が無いようにも見える。
無理やりというわけでは当然ない。自然とそのような雰囲気に浸っていって、きっかけさえあれば、彼女は自分を受け入れるだろう。島根にはそう思えた。
「加奈ちゃん?」
勉強の進行を止めた島根は、加奈子の横顔に一言語りかけた。加奈子が振り向く。見つめる加奈子の眼差しに、抵抗の光は無い。数十cm先に唇がある。島根は、何も言わずに唇を近づける素振りを見せる。
加奈子は顔を背けなかった。
特別抵抗はしないと誓った。自分は女子だ。島根を同姓と思っていない。
少し表面が硬いそうな男の唇が自分の唇に重なると想像した時に、加奈子はふと思った。(私は女で本当によかった)と。こんな唇にはなりたくない。
自分は何なのだろう。性同一性障害なのか。それとも精神的なことなのか。心は男子なのに女子だと思い込んでいるのか。男子かもしれないと思い込んでいる女子なのか。色々な可能性があり過ぎではかりきれない。
母親は先ほど買い物に出た。加奈子が時計を見ると、4時を回ったところ。いつも5時前には戻ってくる。行為は何分くらいかかるのか。4、50分あれば十分なのだろうか。行為がどういうものかは知ってはいる。だが想像できない。意外に無知な自分に、加奈子は冷笑した。
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