愛するということ

緒方宗谷

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10.施設 

1.デート

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 そう言えば、私服で女子と出かけるのは、東京に戻って来てから初めてだと、陸は気が付いた。時々有紀子が家に来るが、大抵は制服だ。加奈子に至っては私服を見た記憶が無い。
 聞いた話によると、7歳の時に自分は有紀子と結婚の約束をしたそうだ。なんて女たらしなガキだったんだろう。今でもそうか?
 陸は、ふと考えた。有紀子と仲良くしているのに、里美とも仲良くしている。どちらとも正式に付き合っていない。当然キスをしようとかは考えていない(はず?)。実際考えていたが、考えていない、ということにした。
 いつの間にか、里美は陸と腕を組んでいる。電車の中で腕を組まれたのには気が付いていたが、いつの時点で組んでいたのか分からない。店のショーウインドのガラスに映る2人は、恋人同士のように見える。
 里美はとても可愛い。縦に伸びる何本ものフリル、半袖でラウンドネックのワイシャツに、ライトカーキ、レッドオレンジ、クリームの三色のチェック柄のロングスカート。大人びた装いに、夏らしいナチュラル素材のスニーカーを履いている。
 とても甘い香りがするから、妙にドキドキしてしまう。陸は少し緊張していた。彼女は左側にいる。高まる心音から緊張が気取られないよう、ゆっくり大きく深呼吸を繰り返す。
「あとで、あのカフェでお茶していこうよ」
 陸がそう言うと、里美はとても喜ぶ。とても女の子らしい可愛い笑顔だ。少しはにかんでいるようにも見えた。
 学校では少し気が強そうでトゲがあるように見えていたが、今日の里美は少ししおらしい。もしかしたら自分に気があるのかもしれない。そう思うと、少し中2病チックになりそうだ。陸は、それを見透かされないように、下心が無い風を装う。
 自然に、自然に振る舞う。曾おばあちゃんに会いに行くのだ。里美はHなことは考えていないはずだ。邪なことを考えている、と思われるわけにはいかない。
 実際、里美はそのようなことは考えていなかった。時折今デートしているようだと思ってはドキドキしていたが、何か進展させようとは微塵も考えていない。ただただ、大好きなひいちゃんへの気持ちを共有したかっただけだ。
 23区といっても、ここはテレビで見る都心とはだいぶ様相が異なる。とても下町のように感じた。道路は狭くガードレールもない。自分達の住んでいる地域の方が整備されているように思える。自宅近くにある畑さえ視界に入れなければ、少し勝った気にさえなる。
 そんなことでも2人は笑えた。ふと目に留まる閑古鳥が鳴いてそうなラーメン屋、店名は書いてあるものの何のお店か分からない店、どれも地元にもある風景だ。2人して、「ここ本当に23区か?」と疑っては、あれもこれもと指摘して笑う。
 それでもやっぱりここは東京だった。少し小高いところから町を見渡すと、どこまでいっても建物で埋め尽くされている。2人ともしばらく絶句した。負けたと思って、また笑った。
「さすが大東京だな」
 2人して、今まで馬鹿にしたお店や風景に冗談めいた謝罪をした。


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