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それは私と言いました
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デニーとフローラは毒杯が与えられ、国民には急な病死と発表された。
デニーは全てを諦めたように、黙って従っていた。最後の時まで静かに過ごしていたそうだ。牢屋の中で思い詰めたように何処か遠くを見つめる姿が見られたが、今まで働いた悪事への後悔か、娘デイジーの事を思っていたのか、それとも開き直っていたのか、誰にもわからない。
対するフローラは、何故自分が捕らえられたのかもわからず、ずっとアーロンの名を呼んでいた。授けられた毒杯も、それが何かも知らずに喜んで飲んだ。人に言われた言葉を何も考えずに信じ、自分が聖女であると最後まで信じていたフローラは、アーロンがすぐに助けに来てくれると待ちながら深い眠りについた。二度と目覚めることはない。
ライラとデイジーは幽閉され、数年後には病死と伝えられる事だろう。
聖女の急死に嘆いていた民達だったが、次第に流れて来る噂の話題で持ち切りだった。
「イザベラは悪女じゃないらしい」
「リック大臣とデニー宰相に罪を着せられたらしい」
「本当の悪女はフローラで、二人の姫は王族の血が流れていないらしい」
最初は信じていなかった人々も、二人の姫が病死したと伝えられ、相次ぐ関係者全員の病死に確信した。そして、皆が城に詰め寄った。
「一体どういう事なんだ!」
「説明してくれ!」
「皆の者、どうか落ち着いてくれ」
アーロンが宥めても、民達は騒ぎ続けていた。
「次代はどうなる?」
「俺達の未来はどうなるんだ!」
「次代にはエイドリアンがいる」
アーロンの言葉に民達は静まり返った。
「エイドリアン様は何年も前に病死したじゃないか!」
「また嘘を吐くのか!」
「王家は信用できない!」
だが、火に油を注ぐかのように、民達は更に騒ぎだした。
「エイドリアンは生きているんだ!本当だ!」
アーロンは騒ぎを鎮めようと叫んだ。だが、民達は変わらず騒いでいた。
「エイドリアン様の病死を発表したのはアーロン国王じゃないか!」
「「そうだそうだ!」」
「それは…」
アーロンは何も言えなかった。
(こんな時はリックとデニーが良い案を出してくれていたというのに…フローラの笑顔が民達を鎮めていたというのに…)
アーロンは自分が毒杯を授けた、今は亡き三人に縋っていた。
何も明確な説明をしない王家に対する怒りが治まるはずもなく、王都は暴徒化し、王家は滅びた。
誰も新たに王族に名乗りを挙げる貴族もなく、それぞれの貴族達が領地を治める共和国となったのだった。
民達に捕らえられたアーロンは、ブツブツと一人で喋り続けていた。
「私は悪くない。騙したリックとデニーが悪いんだ。嘘を吐いたフローラが悪いんだ。騙された民達が悪いんだ。何故誰も私を助けてくれないんだ?私は悪くない…」
新しく共和国になったこの国では、こんな事を言われるようになった。
「人を簡単に信じてはいけないよ。自分で調べて事実か確認しなくてはいけないよ」
「人に嘘を吐いてはいけないよ。すぐにバレてしまうから」
「そうでないと、愚かなアーロン国王のようになってしまうよ」
一体誰が悪いのか…
・・・・・
「一体誰が悪いのか…?それは俺かも知れない…」
アーロン元国王の訃報が届き、エドは呟いた。
「エドは何も悪くないよ!」
ベラは励ますように言った。
「でも、俺の所為で罪のない二人の義妹が…俺が復讐なんてしなければ、あの二人は今でも笑っていられたんだ」
「それは…」
ベラが言葉を探していると、家の外から女性の声が聞こえた。
「ただいま!」
マーカスが急いでドアを開けると、そこにはサラがいた。
「ようやく終わったね」
「サラ…」
二人は抱き合って泣いていた。
「サラさん…?」
「ベラ、ただいま」
サラは涙を拭ってベラに笑顔を見せた。そして、マーカスがベラに伝えた。
「実は、サラはベラの母親なんだ。今まで黙っていてすまなかった…」
「サラさんが私のお母さん…?」
ベラは両手で口を抑えた。
「黙っていてごめんね…ベラ、今までよく頑張ったね」
「お母さん!」
ベラはサラに抱きついた。
「寂しい思いをさせてごめんね」
「ううん、いいの。こうして帰って来てくれたんだもん!」
抱き合う母娘を見て嬉しい気持ちになったエドだったが、サラの後ろに人影を見つけた。
「まさか…」
「あ、ごめんね。新しい家族だよ。入っておいで?」
サラに言われて入って来たのは、ライラとデイジーだった。
「「お兄様!」」
二人は走ってエドに抱きついた。
「でも、どうして…?」
マーカスは片目を瞑ってエドに答えた。
「言っただろう?私には伝手があると…」
サラは王城で使用人として働いていた。悪事の証拠を掴もうとあの三人を探っていたのだ。他にも何人かの仲間が王城に潜んでいた。二人の姫達を助けたのは仲間の仕業だった。
「良かった。二人が無事で本当に良かった…」
エドは力強く二人の義妹を抱きしめたのだった。
三人家族が一気に六人家族になったエド達。ライラはラトーニャ、デイジーはディアンヌと名前を変えた。頭の回転が早い二人は、すぐに新しい生活にも慣れ、楽しく過ごしていた。
そして…
今日はエドとベラの結婚式。
幸せそうに歩く二人を見て、マーカスは呟いた。
「一体誰が悪いのか…?それは私かも知れないね」
サラは俯いたマーカスの手をそっと握った。
「私の復讐の為に若いエドを利用して、ベラにも母親のいない寂しい生活をさせた…サラ、君からもベラとの思い出を奪ってしまった…」
「あの子の顔を見て?」
サラに言われてマーカスはベラ達を見た。
「とても幸せそうにしているわ。それに、ベラはいい子に育った。あなたのお陰よ?」
「だが…」
「私はこうしてあの子の花嫁姿が見れたもの。それに、今は一緒に暮らしているわ。今が幸せなら、それで良いじゃない?」
「サラ…ありがとう。長い間私を支えてくれて、本当にありがとう」
サラは何も言わずに微笑んだ。
マーカスとサラ、エドとベラ、そして、ラトーニャとディアンヌの家族は、いつまでも仲良く暮らしていた。
エドとベラの間に子供が生まれると、皆が可愛がり、笑顔が絶えない家族だった。
ラトーニャとディアンヌは、嫁ぐ最後の日まで、この家から出なかったという。エドを本当の兄だと信じて…
― おわり ―
デニーは全てを諦めたように、黙って従っていた。最後の時まで静かに過ごしていたそうだ。牢屋の中で思い詰めたように何処か遠くを見つめる姿が見られたが、今まで働いた悪事への後悔か、娘デイジーの事を思っていたのか、それとも開き直っていたのか、誰にもわからない。
対するフローラは、何故自分が捕らえられたのかもわからず、ずっとアーロンの名を呼んでいた。授けられた毒杯も、それが何かも知らずに喜んで飲んだ。人に言われた言葉を何も考えずに信じ、自分が聖女であると最後まで信じていたフローラは、アーロンがすぐに助けに来てくれると待ちながら深い眠りについた。二度と目覚めることはない。
ライラとデイジーは幽閉され、数年後には病死と伝えられる事だろう。
聖女の急死に嘆いていた民達だったが、次第に流れて来る噂の話題で持ち切りだった。
「イザベラは悪女じゃないらしい」
「リック大臣とデニー宰相に罪を着せられたらしい」
「本当の悪女はフローラで、二人の姫は王族の血が流れていないらしい」
最初は信じていなかった人々も、二人の姫が病死したと伝えられ、相次ぐ関係者全員の病死に確信した。そして、皆が城に詰め寄った。
「一体どういう事なんだ!」
「説明してくれ!」
「皆の者、どうか落ち着いてくれ」
アーロンが宥めても、民達は騒ぎ続けていた。
「次代はどうなる?」
「俺達の未来はどうなるんだ!」
「次代にはエイドリアンがいる」
アーロンの言葉に民達は静まり返った。
「エイドリアン様は何年も前に病死したじゃないか!」
「また嘘を吐くのか!」
「王家は信用できない!」
だが、火に油を注ぐかのように、民達は更に騒ぎだした。
「エイドリアンは生きているんだ!本当だ!」
アーロンは騒ぎを鎮めようと叫んだ。だが、民達は変わらず騒いでいた。
「エイドリアン様の病死を発表したのはアーロン国王じゃないか!」
「「そうだそうだ!」」
「それは…」
アーロンは何も言えなかった。
(こんな時はリックとデニーが良い案を出してくれていたというのに…フローラの笑顔が民達を鎮めていたというのに…)
アーロンは自分が毒杯を授けた、今は亡き三人に縋っていた。
何も明確な説明をしない王家に対する怒りが治まるはずもなく、王都は暴徒化し、王家は滅びた。
誰も新たに王族に名乗りを挙げる貴族もなく、それぞれの貴族達が領地を治める共和国となったのだった。
民達に捕らえられたアーロンは、ブツブツと一人で喋り続けていた。
「私は悪くない。騙したリックとデニーが悪いんだ。嘘を吐いたフローラが悪いんだ。騙された民達が悪いんだ。何故誰も私を助けてくれないんだ?私は悪くない…」
新しく共和国になったこの国では、こんな事を言われるようになった。
「人を簡単に信じてはいけないよ。自分で調べて事実か確認しなくてはいけないよ」
「人に嘘を吐いてはいけないよ。すぐにバレてしまうから」
「そうでないと、愚かなアーロン国王のようになってしまうよ」
一体誰が悪いのか…
・・・・・
「一体誰が悪いのか…?それは俺かも知れない…」
アーロン元国王の訃報が届き、エドは呟いた。
「エドは何も悪くないよ!」
ベラは励ますように言った。
「でも、俺の所為で罪のない二人の義妹が…俺が復讐なんてしなければ、あの二人は今でも笑っていられたんだ」
「それは…」
ベラが言葉を探していると、家の外から女性の声が聞こえた。
「ただいま!」
マーカスが急いでドアを開けると、そこにはサラがいた。
「ようやく終わったね」
「サラ…」
二人は抱き合って泣いていた。
「サラさん…?」
「ベラ、ただいま」
サラは涙を拭ってベラに笑顔を見せた。そして、マーカスがベラに伝えた。
「実は、サラはベラの母親なんだ。今まで黙っていてすまなかった…」
「サラさんが私のお母さん…?」
ベラは両手で口を抑えた。
「黙っていてごめんね…ベラ、今までよく頑張ったね」
「お母さん!」
ベラはサラに抱きついた。
「寂しい思いをさせてごめんね」
「ううん、いいの。こうして帰って来てくれたんだもん!」
抱き合う母娘を見て嬉しい気持ちになったエドだったが、サラの後ろに人影を見つけた。
「まさか…」
「あ、ごめんね。新しい家族だよ。入っておいで?」
サラに言われて入って来たのは、ライラとデイジーだった。
「「お兄様!」」
二人は走ってエドに抱きついた。
「でも、どうして…?」
マーカスは片目を瞑ってエドに答えた。
「言っただろう?私には伝手があると…」
サラは王城で使用人として働いていた。悪事の証拠を掴もうとあの三人を探っていたのだ。他にも何人かの仲間が王城に潜んでいた。二人の姫達を助けたのは仲間の仕業だった。
「良かった。二人が無事で本当に良かった…」
エドは力強く二人の義妹を抱きしめたのだった。
三人家族が一気に六人家族になったエド達。ライラはラトーニャ、デイジーはディアンヌと名前を変えた。頭の回転が早い二人は、すぐに新しい生活にも慣れ、楽しく過ごしていた。
そして…
今日はエドとベラの結婚式。
幸せそうに歩く二人を見て、マーカスは呟いた。
「一体誰が悪いのか…?それは私かも知れないね」
サラは俯いたマーカスの手をそっと握った。
「私の復讐の為に若いエドを利用して、ベラにも母親のいない寂しい生活をさせた…サラ、君からもベラとの思い出を奪ってしまった…」
「あの子の顔を見て?」
サラに言われてマーカスはベラ達を見た。
「とても幸せそうにしているわ。それに、ベラはいい子に育った。あなたのお陰よ?」
「だが…」
「私はこうしてあの子の花嫁姿が見れたもの。それに、今は一緒に暮らしているわ。今が幸せなら、それで良いじゃない?」
「サラ…ありがとう。長い間私を支えてくれて、本当にありがとう」
サラは何も言わずに微笑んだ。
マーカスとサラ、エドとベラ、そして、ラトーニャとディアンヌの家族は、いつまでも仲良く暮らしていた。
エドとベラの間に子供が生まれると、皆が可愛がり、笑顔が絶えない家族だった。
ラトーニャとディアンヌは、嫁ぐ最後の日まで、この家から出なかったという。エドを本当の兄だと信じて…
― おわり ―
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