幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全

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徳川家基毒殺未遂事件

徳川家基・松平頼真・平賀源内

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「大納言様の麗しき御尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じ奉りまする」
「よく来てくれた、中将」
「大納言様の御呼出しならば、中将、何時いかなる時にもすぐさま参じさせていただきます」
「そう言ってくれて嬉しく思う。それで今日来てもらった要件なのだが、この者の件なのだ」
「はい。どなた様でございましょう」
「この者は、そなたの父、讃岐侍従に仕えていた平賀源内じゃ」
「御久し振りでございます。平賀源内国倫でございます」
「うむ。久しいな。大納言様、何故ここに源内がいるのでしょうか」
「中将も聞き及んでいるだろうが、余は治済に殺されかけた」
「はい。憎きことでございます」
「その折には毒を盛られたのだが、奥医師が何の手立ても講じられないのに比べ、ここのおる源内をはじめとする、市井の蘭学者や医師が八方手を尽くしてくれて、何とか命を取り留めることが出来たのじゃ」
「それは重畳でございました」
「そこでその恩に報いるために、実力と実績に応じて奥医師に召し抱えようと思ったのだが、源内だけはそれが出来なかったのだ」
「それは・・・・・」
「うむ。源内が讃岐侍従の元を致仕したおりに、奉公構が出されていたのだ」
「それは・・・・・」
「分かっておる。源内ほどの異才に致仕されたら、腹立ちも大きかっただろうし、藩の殖産である薬草や和三盆、塩田の秘密が漏れるのも防ぎたかったであろう」
「大納言様・・・・・」
「だがな中将、命を救ってくれた者に報いたいという、余の気持ちを汲んでくれぬか」
「真に恐れ多い事でございます。我が家は彦根井伊家と会津松平家に並んで、代々溜詰を務めさせていただいております。大納言様の命を救った者が、元は家臣であったことを喜びこそすれ、遺恨を持つなど有り得ぬことでございます」
「おお、それでは余が召し抱えてよいのだな」
「はい。今日の内に奉公構を解かせていただきます」
「嬉しく思うぞ」
「中将様、ありがとうございます」
「いや、よく大納言様を御救いしてくれた。心より礼を申すぞ」
「有難き幸せでございます」
「よく言ってくれた。ささやかだが酒肴を用意した。一献酌み交わそうではないか」
「有難きことでございます」
 パンパン
「話は終わった。膳の用意を致せ」
「は」
 思うように話が終わった徳川家基は、上機嫌で酒肴を持たせた。
 だが平賀源内は極力飲まないようにした。
 傍若無人な所の有る源内だが、それでも自分が酒乱の気があることは理解していたのだ。
 この様な席で、無礼に及ぶわけにはいかないので、気力を振り絞り飲み過ぎないようにした。
 もっとも、この席の世話をするのは、小姓を務める中条謹一郎の庶子と白銀温太郎の子息なので、平賀源内が少しでもおかしな言動や振る舞いに及んだら、家基や頼真が気づかないうちに、当て身で気絶させただろう。
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