53 / 94
第一章
第52話:閑話・思慕・アイザック視点
しおりを挟む
皇紀2221年・王歴225年・冬・プランケット地方の某城
「侯爵閣下、お帰りなさいませ。
御無事のお帰りを心から願い、毎日神と精霊にお祈りしておりました」
「ありがとう、イザベラ。
イザベラのお祈りのお陰で、無事に帰ってくることができたよ」
侯爵閣下が慈愛の表情を浮かべてイザベラに答えておられる。
いや、侯爵閣下はイザベラだけでなく、我らイシュタム族が集めてきた、全ての孤児に対して慈愛の心を持っておられる。
とてもお忙しい、本当にとてもお忙しいお立場なのに、時間の許す限り、孤児達はもちろん老人達にも言葉をかけ健康を気遣ってくださる。
自分の子供を産ますためだけの存在として、孤児を見ておられるのではないのだ。
「神や精霊に対するお祈りで侯爵閣下をお守りできるなんて、本気で思っているわけではありません。
実力で侯爵閣下をお守りできるようになるために、日々精進しております。
アイザック様からはもう十分強くなったと言って頂いております。
どうか、どうか次からは従軍させてください、お願いします、侯爵閣下」
人はこれほど出会いによって変わるモノなのだな。
俺が初めてイザベラと会った時には、彼女は鬼気迫る表情をしていた。
とても六歳の幼女とは思えない、まるで鬼の子のようだった。
両親と兄姉を領主の兵士に惨殺された事で、単に貴族士族だけでなく、武装した者全てを憎んでいたいイザベラは、幼いながらも討伐にくる兵士を皆殺しにしていた。
とても六歳とは思えない魔力を発現させていたのだ。
もしイシュタム族に数百年に渡る魔力と魔術の知識がなければ、イザベラを捕らえる事などできず、逆に皆殺しにされていただろう。
それくらい莫大な魔力を、イザベラは僅か六歳で発現させていたのだ。
正直イシュタム族内でもイザベラの処遇はもめにもめた。
今はまだ何とか抑えられているが、イザベラの魔力の伸びが早ければ、一年程度で抑えが効かなくなってしまう事が予測されたからだ。
「契約魔術で縛っても、主の魔力を遥かに超えるようになってしまったら、主の方が契約魔力の逆流を受けてしまうかもしれない。
ここまで人間を恨むようになってしまったら、もう人間性は取り戻せない。
ここで殺しておく方がいい、いや、殺さなければならん」
そう強硬に主張する者もいたが、侯爵閣下に御相談して本当によかった。
あれほど人間を、いや、貴族士族を憎んでいたイザベラが、閣下を思慕している。
どれほどの愛情を注げばこれほど変わるのだろうか。
侯爵閣下がイザベラを領内に連れてこいと言われた時には、イザベラが閣下を襲う事を危惧して、強く反対するイシュタム族も多かったのだ。
それが、イシュタム族数十人懸かりで抑えていたイザベラを、たった御一人で軽く抑えてしまわれたばかりか、優しく抱きしめて癒してしまわれた。
何をどうされたかは分からないが、抱きしめられたイザベラは、周りを気にする事なく大声で泣いた。
心の中にどす黒く溜まった恨み辛みを全て流すように大泣きした。
それ以来、イザベラは侯爵閣下への想いを隠そうともしない。
ただ一途に侯爵閣下を慕い、御側近くに仕える事だけを願っている。
その為の努力ならば、血の汗を流すほどの努力も笑顔でこなしてしまう。
結構な修羅場をくぐってきたと自負する俺が、心底恐怖を感じてしまうほどだ。
イザベラの想いが叶わなかった時、その想いが逆流してしまわないかと。
「イザベラを従軍させる事は絶対にないよ。
イザベラには、俺が一番大切に思っている母上を護ってもらわなければいけないから、エレンバラ城かロスリン城の奥に入ってもらう事になる。
戦う技だけではなく、奥での行儀作法も頑張ってくれ、いいね」
「侯爵閣下、もう行儀作法は覚えました、だからお側に仕えさせてください」
「間違いないか、アイザック」
「間違いございません、侯爵閣下。
もう十分侍女として仕えられるようになっております」
「アイザック、俺との約束を忘れてしまったのか。
王族や皇族に相応しい魔力を持った孤児の娘が見つかったら、養女にして俺の正室にする約束だっただろう。
イザベラに俺の正室に相応しい行儀作法を覚えさせろ。
それと、養女ではなくアイザックの実の娘だということにしろ。
そのうえで、どこかの皇国貴族か王国貴族の養女にする、分かったな」
「承りました」
「侯爵閣下、お帰りなさいませ。
御無事のお帰りを心から願い、毎日神と精霊にお祈りしておりました」
「ありがとう、イザベラ。
イザベラのお祈りのお陰で、無事に帰ってくることができたよ」
侯爵閣下が慈愛の表情を浮かべてイザベラに答えておられる。
いや、侯爵閣下はイザベラだけでなく、我らイシュタム族が集めてきた、全ての孤児に対して慈愛の心を持っておられる。
とてもお忙しい、本当にとてもお忙しいお立場なのに、時間の許す限り、孤児達はもちろん老人達にも言葉をかけ健康を気遣ってくださる。
自分の子供を産ますためだけの存在として、孤児を見ておられるのではないのだ。
「神や精霊に対するお祈りで侯爵閣下をお守りできるなんて、本気で思っているわけではありません。
実力で侯爵閣下をお守りできるようになるために、日々精進しております。
アイザック様からはもう十分強くなったと言って頂いております。
どうか、どうか次からは従軍させてください、お願いします、侯爵閣下」
人はこれほど出会いによって変わるモノなのだな。
俺が初めてイザベラと会った時には、彼女は鬼気迫る表情をしていた。
とても六歳の幼女とは思えない、まるで鬼の子のようだった。
両親と兄姉を領主の兵士に惨殺された事で、単に貴族士族だけでなく、武装した者全てを憎んでいたいイザベラは、幼いながらも討伐にくる兵士を皆殺しにしていた。
とても六歳とは思えない魔力を発現させていたのだ。
もしイシュタム族に数百年に渡る魔力と魔術の知識がなければ、イザベラを捕らえる事などできず、逆に皆殺しにされていただろう。
それくらい莫大な魔力を、イザベラは僅か六歳で発現させていたのだ。
正直イシュタム族内でもイザベラの処遇はもめにもめた。
今はまだ何とか抑えられているが、イザベラの魔力の伸びが早ければ、一年程度で抑えが効かなくなってしまう事が予測されたからだ。
「契約魔術で縛っても、主の魔力を遥かに超えるようになってしまったら、主の方が契約魔力の逆流を受けてしまうかもしれない。
ここまで人間を恨むようになってしまったら、もう人間性は取り戻せない。
ここで殺しておく方がいい、いや、殺さなければならん」
そう強硬に主張する者もいたが、侯爵閣下に御相談して本当によかった。
あれほど人間を、いや、貴族士族を憎んでいたイザベラが、閣下を思慕している。
どれほどの愛情を注げばこれほど変わるのだろうか。
侯爵閣下がイザベラを領内に連れてこいと言われた時には、イザベラが閣下を襲う事を危惧して、強く反対するイシュタム族も多かったのだ。
それが、イシュタム族数十人懸かりで抑えていたイザベラを、たった御一人で軽く抑えてしまわれたばかりか、優しく抱きしめて癒してしまわれた。
何をどうされたかは分からないが、抱きしめられたイザベラは、周りを気にする事なく大声で泣いた。
心の中にどす黒く溜まった恨み辛みを全て流すように大泣きした。
それ以来、イザベラは侯爵閣下への想いを隠そうともしない。
ただ一途に侯爵閣下を慕い、御側近くに仕える事だけを願っている。
その為の努力ならば、血の汗を流すほどの努力も笑顔でこなしてしまう。
結構な修羅場をくぐってきたと自負する俺が、心底恐怖を感じてしまうほどだ。
イザベラの想いが叶わなかった時、その想いが逆流してしまわないかと。
「イザベラを従軍させる事は絶対にないよ。
イザベラには、俺が一番大切に思っている母上を護ってもらわなければいけないから、エレンバラ城かロスリン城の奥に入ってもらう事になる。
戦う技だけではなく、奥での行儀作法も頑張ってくれ、いいね」
「侯爵閣下、もう行儀作法は覚えました、だからお側に仕えさせてください」
「間違いないか、アイザック」
「間違いございません、侯爵閣下。
もう十分侍女として仕えられるようになっております」
「アイザック、俺との約束を忘れてしまったのか。
王族や皇族に相応しい魔力を持った孤児の娘が見つかったら、養女にして俺の正室にする約束だっただろう。
イザベラに俺の正室に相応しい行儀作法を覚えさせろ。
それと、養女ではなくアイザックの実の娘だということにしろ。
そのうえで、どこかの皇国貴族か王国貴族の養女にする、分かったな」
「承りました」
21
お気に入りに追加
403
あなたにおすすめの小説
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる