上 下
52 / 94
第一章

第51話:勅命

しおりを挟む
皇紀2221年・王歴225年・晩春・フェアファクス地方の某城

「いいか、よく聞け、御前達。
 畏れ多くも我が家は皇帝陛下から勅命を賜った。
 それも代々の国王や宰相が勅命を受けたのにもかかわらず、できなかった事だ。
 当代の国王や宰相はもちろん、王国軍総指揮官の名誉公爵殿すらできないでいる、とても困難な役目を仰せつかったのだ。
 命を惜しむことなく勅命を果たせ」

「「「「「おう」」」」」

 などと表向きはとても厳しい事を言っているが、実際には楽勝だと思う。
 俺の圧倒的な魔力と絶大な破壊力を誇る創造魔術に勝てる人間などいない。
 普通の攻撃なら耐えられる堅固な山城も、俺の魔術を防ぐことなどできない。
 俺は今まで敵対した相手をこの手で殺した事がない。
 だが今回は、俺の敵と言うよりも皇国の敵なのだ。
 一切の容赦をしないとフェアファクス地方の全騎士家に通達してある。

 結局、俺と俺の軍が困った事といえば、険しい地形と道なき道だけだった。
 常に盟主に逆らってきたフェアファクス地方の騎士達は、盟主軍を領内で迎え討つことを大前提に、道を整備しないようにしてきた。
 だから、三万二千の軍勢は縦一列になって山道を進軍しなければいけない。
 兵糧や武器を運ぶにも、馬車や荷車が使えないのだ。
 俺が一輪車を開発配備してなければ、全部背負って運ばなければいけなかった。

 俺が騎士程度の魔力と魔術に後れを取る可能性は殆どない。
 だが絶対にないと断言する事もできないのが、この世界の怖い所だ。
 俺と同じような転生者がいないとは断言できないし突然変異がいるかもしれない。
 特に怖いのが、血統など関係なく魔力を高める結婚をする影衆だ。
 フェアファクス地方の騎士達に仕える影衆の中に、俺を超える魔力持ちがいないとは断言できないのだ。

 だから厳重な警戒をして進軍をする事にした。
 俺は三万二千の軍勢の中央に位置して、数多くの影武者を置いた。
 影武者を使うだけでなく、イシュタム影衆を近衛の護りに使ったが、最も身近にいて俺を護ってくれるのは、百頭以上に増えた魔狼達だろう。
 山道の左右にある山や森には、索敵兵を派遣して敵を寄せ付けないようにした。
 金で雇ったダエーワの影衆をその外側に配置して、万全を期した。

 俺達は侵攻路に沿った城砦を次々と落としていった。
 皇家の勅命による逆賊討伐に逆らうのなら、異国に食用奴隷として売り払うと脅したら、抵抗する事なく降伏した。
 海を渡った大陸の国では、人間を食べる習慣があった。
 大陸の皇帝料理人は、忠誠の証に自分の子供を蒸し焼きにして食卓に供する。
 そうこの国では信じられているのだから、恐怖に打ち震えるのは当然だった。

「騎士シェフィールド、長年に渡って皇家の御領地を押領した罪軽からず。
 今まで御領地の税を押領した償いとして、一族郎党全てを終身刑として魔力を絞りとる、覚悟しろ」

 騎士シェフィールドとその家族はもちろん、一族郎党を睡眠魔術で捕らえた俺は、彼らに一生をかけて皇家に償わせることにした。
 俺が創造した魔術の中には、魔力持ちの魔力を根こそぎ奪うという術式がある。
 その魔術陣を組み込んだ牢屋にシェフィールド騎士家の連中を閉じ込めて、死ぬまで魔力を絞りとり、その売価の半分を皇帝陛下に献上するのだ。
 残る半分は、俺の手間賃として利用させてもらう。

「シェフィールド騎士家は討伐し、皇家の御領地を回復する事ができた。
 だがそれだけでは正義を成し遂げた事にはならない。
 シェフィールド騎士家と手を組み、皇家の御領地を押領した、騎士家の風上にも置けない薄汚い連中がいるのだ。
 ケンジントン騎士家とマクドナルド騎士家を攻め滅ぼさない限り、故郷には戻れないと思え、いいか」

「「「「「おう」」」」」

 さて、皇帝陛下の勅命を受けられた事で、俺の領地に対する単なる軍事侵攻の報復ではなく、正義の軍としてのフェアファクス地方占領が可能になった。
 長期戦の準備は十分整えてあるから、連戦になっても大丈夫だ。
 フェアファクス地方の騎士達を討伐するだけではない。
 馬鹿王とカンリフ公爵が文句を言ってくるのなら、いい機会だ。
 この国の支配権をかけて天下分け目の戦いをしてやろうじゃないか。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...