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第一章

第45話:決断

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皇紀2220年・王歴224年・晩春・ロスリン城

「アイザック、キャメロン地方のキャヴェンディッシュ侯爵から、領民が我が領地に逃げたから送り返せと使者を送ってきたのだが、あの地はどのような状況なのだ」

 俺が皇国の名誉侯爵でしかないからだろう、とても居丈高な使者が来た。
 王国貴族の基準で言えば、俺は単なる男爵でしかない。
 領民がとても少ないバーリー地方とはいえ、一つの地方を武力で征服したのだから、領地の格から言えば王国伯爵に叙爵されるはずなのだが、認められていない。

 まあ、名門地方支配者を下克上して追い出した場合は、支配を認められても子爵位しか与えられない事も多い。
 トリムレストン子爵家もゴーマンストン子爵家も同じだからな。
 特にバーリー地方を支配していたクレイヴェン伯爵家には王の妹が嫁いでいたから、王に疎まれるのは仕方がない事だ。

「キャヴェンディッシュ侯爵の民に対する支配は過酷極まりなく、多くの領民が食うや食わずの生活をしており、弱い者が次々と餓死しております。
 特に子供と老人に犠牲が多く、民からは怨嗟の声が上がっております。
 そんな中で、侯爵閣下はバーリー地方の税を半分近くにされました。
 仕事がなく食べ物を手に入れられない者には、仕事と食糧を与えられました。
 税を治められない農民にも、同じように日雇い仕事を与えられました。
 そのような噂が隣のキャメロン地方にも流れたのでございます。
 民が生きるために逃げてくるのは当然でございます」

「本当にそれだけか、アイザック」

 俺がそう聞くと、アイザックがニヤリと笑った。

「民の中には、隠れた魔力持ちがいるかもしれません。
 特に幼い子供達の中には、まだ知られていない魔力持ちが多いものでございます。
 閣下の御言葉に従い、積極的に集めさせて頂きました」

「子供達だけを集めたのか、違うだろ」

「子供達の世話をする者が必要でございます。
 戦争で戦える者、農民や職人として働けるものは、キャヴェンディッシュ侯爵も領地から出さないように厳しく取り締まっております。
 ですが何の役にも立たないと思っている子供や老人ならば、比較的簡単に御領地まで連れてくることができます。
 特に閣下が増強された艦艇を使えば、安全に連れてこられました。
 海岸にさえ連れて行けば、誰にも邪魔されませんでしたから」

「ではこのキャヴェンディッシュ侯爵の苦情を聞くとなると、アイザックが集めてくれた子供達や老人達も、侯爵に返さなければいけなくなるのだな」

「はい、向こうは子供や老人など不要だと言うかもしれませんが、そうなります」

「まず間違いなく子供達は奴隷として売られるだろうな」

「はい、短い間ではありますが、読み書き計算を教えましたので、多少は価値が上がっておりますし、中には魔術が発現した子もおります。
 そういう魔力持ちを、契約魔術で縛って利用する可能性もございます」

「子供や老人を見殺しにするくらいなら、悪名を買った方がましだな」

「閣下のお考え次第でございます。
 キャメロン地方のキャヴェンディッシュ侯爵とフェアファクス地方の騎士達は、国王の勅命に従ってカンリフ公爵達と戦っております。
 カンリフ公爵達と戦い首都とその周辺を手に入れる御心算ならば、同盟の布石にために、めぼしい者達だけ残して、役に立たない子供と老人を返す方法もございます」

「俺を試す気か、アイザック」

「そのような気持ちはございません。
 多くの民を助けるために、誰かを犠牲にしなければいけない事もございます。
 現に閣下は民のために多くの犠牲を払っておられます」

「御世辞はいい、それよりも確認しておかなければいけない事がある」

「何でございましょうか」

「キャヴェンディッシュ侯爵もフェアファクス地方の騎士達も、自分達の利益にならない事のために戦うはずがない。
 国王はどのような条件を出して奴らを味方につけたのだ。
 まあ、どんな条件を出したのかはだいたい想像できているが、確認したい」

「御想像されている通りだと思います、閣下。
 国王は閣下が多大な犠牲を払って支配下に置かれた、バーリー地方を与えるという条件で、彼らを味方につけたのです」

「一つの地方を二重売りしたとう事か」

「はい、その通りでございます」

「馬鹿王は馬鹿なだけではなく屑だな」

「わたくしもそのように思います」

「では、やられる前にやってしまったほうがいいな、耳を貸せアイザック」
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