45 / 94
第一章
第44話:願望
しおりを挟む
皇紀2220年・王歴224年・晩春・ゴーマンストン子爵家との領境
「ゴーマンストン子爵家は攻め込んできたアザエル教団と戦っている。
我が領地との境目に残っている兵はわずかだ。
一気に城を攻め落として港を確保し、ゴーマンストン子爵家中央部に通じる渓谷と、トリムレストン子爵家に通じる渓谷を抑える。
そうすれば我が家の護りが固くなり、交易による利益が多くなる。
港が増えれば海軍が増強され、海を使って南北に攻め込める。
我が家の繁栄のために何としてでも勝つぞ」
「「「「「おう」」」」」
ちょっと余計な事を言い過ぎてしまったようだ。
末端の将兵には、単に城を落とせと言えばよかった。
領民が二万人しかいない、ゴーマンストン子爵家の港を奪う意義は、指揮官であり領主でもある騎士を集めた時に話せばいい。
次の機会には同じ間違いを犯さないようにしなければいけない。
今回の出兵は、事前に仕掛けていた謀略が成功した事で行われた。
イシュタム衆が流した流言飛語に踊らされ、レイ地方のアザエル教団がゴーマンストン子爵家の東領境から一気に攻め込んだのだ。
まあ、イシュタム衆が流した流言飛語に真実味を出すために、我が家の特産品を積んだ船を、ゴーマンストン子爵領の北側にある港に交易に行かせている。
アザエル教徒は堕落しているから、我が家の酒が飲みたいのだろう。
邪魔をしそうなトリムレストン子爵家は、追い込んだエクセター侯爵家に止めを刺そうと躍起になっていて、俺の事を低く見ている。
俺が強いと考えてしまったら、折角追い込んだエクセター侯爵家への侵攻を中止して、俺の備えなければいけなくなる。
人間はどうしても自分の願望に合わせた見方をしてしまうモノだ。
自分で言うのは気が引けるが、あれほど鮮やかにロスリン伯爵家とクレイヴェン伯爵家を攻め滅ぼし、エクセター侯爵家の主力軍二万を討ち破って捕虜にした俺を、甘く見てしまうくらいだからな。
まあ、俺を甘く見たいトリムレストン子爵の気持ちも分からない訳ではない。
形だけはエクセター侯爵家の属臣から抜け出せたが、本当に独立できた訳ではなく、ゴーマンストン子爵家の属臣に変わっただけだ。
だがここでエクセター侯爵領を攻め取る事ができれば、トリムレストン子爵家は一気に領民七十一万人の大貴族になれるのだ。
それも首都に隣接した最重要な地方の大半を治める有力貴族だ。
全盛期のエクセター侯爵には及ばないが、今の盟主であるゴーマンストン子爵を超える大貴族となり、本当に押しも押されもしない独立した存在に成れるのだ。
現実を正しく見れなくなってもしかたがない。
一番の難敵、カンリフ公爵家は動けない状況になっている。
バルフォア地方とヘプバーン地方の二つを治める、三大宰相家の一つと激しい戦いになっていて、カンリフ公爵家を妬み蔑む多くの周辺地方とも戦っている。
馬鹿王が出した勅書が効果を表したのだ。
馬鹿王はカンリフ公爵家から与えてもらった屋敷の中で、喜びの余り踊り狂ったそうだが、愚かとしか言いようがない。
俺とエクセター侯爵家にトリムレストン子爵家まで潰せる絶好の機会を、王に据えてやった傀儡に邪魔されたのだ。
幾ら忍耐強い戦略家のカンリフ公爵でも、我慢の限界と言うモノがある。
カンリフ公爵は我慢できても、一族郎党衆の我慢が限界を超えるかもしれない。
もしこの余計な戦いで、大切な嫡男や弟達を失うような事があれば、馬鹿王は殺されてしまうかもしれないのだ。
港を奪って二つの峡谷に城砦群を築いたら、馬鹿王が殺された場合の策を考える。
馬鹿王には弟が二人いるのだが、そのどちらかを担いで戦った方がいいのか、それとも王家など無視してひたすら北に攻め上がるのか。
それとも、エクセター侯爵家とトリムレストン子爵家を攻め滅ぼして、プランケット地方を統一した有力貴族になるのか。
だが、プランケット地方を完全統一するには、教団が邪魔だ。
ベリアル教団とアザエル教団だけでなく、領民を誑かして貪欲に現世利益を貪り貴族の統治の邪魔をする、全ての教団が邪魔だ。
だが今はまず港を確保して、領地に攻め込む可能性のある貴族や教団を防ぐための城砦群を築く事だ。
「ゴーマンストン子爵家は攻め込んできたアザエル教団と戦っている。
我が領地との境目に残っている兵はわずかだ。
一気に城を攻め落として港を確保し、ゴーマンストン子爵家中央部に通じる渓谷と、トリムレストン子爵家に通じる渓谷を抑える。
そうすれば我が家の護りが固くなり、交易による利益が多くなる。
港が増えれば海軍が増強され、海を使って南北に攻め込める。
我が家の繁栄のために何としてでも勝つぞ」
「「「「「おう」」」」」
ちょっと余計な事を言い過ぎてしまったようだ。
末端の将兵には、単に城を落とせと言えばよかった。
領民が二万人しかいない、ゴーマンストン子爵家の港を奪う意義は、指揮官であり領主でもある騎士を集めた時に話せばいい。
次の機会には同じ間違いを犯さないようにしなければいけない。
今回の出兵は、事前に仕掛けていた謀略が成功した事で行われた。
イシュタム衆が流した流言飛語に踊らされ、レイ地方のアザエル教団がゴーマンストン子爵家の東領境から一気に攻め込んだのだ。
まあ、イシュタム衆が流した流言飛語に真実味を出すために、我が家の特産品を積んだ船を、ゴーマンストン子爵領の北側にある港に交易に行かせている。
アザエル教徒は堕落しているから、我が家の酒が飲みたいのだろう。
邪魔をしそうなトリムレストン子爵家は、追い込んだエクセター侯爵家に止めを刺そうと躍起になっていて、俺の事を低く見ている。
俺が強いと考えてしまったら、折角追い込んだエクセター侯爵家への侵攻を中止して、俺の備えなければいけなくなる。
人間はどうしても自分の願望に合わせた見方をしてしまうモノだ。
自分で言うのは気が引けるが、あれほど鮮やかにロスリン伯爵家とクレイヴェン伯爵家を攻め滅ぼし、エクセター侯爵家の主力軍二万を討ち破って捕虜にした俺を、甘く見てしまうくらいだからな。
まあ、俺を甘く見たいトリムレストン子爵の気持ちも分からない訳ではない。
形だけはエクセター侯爵家の属臣から抜け出せたが、本当に独立できた訳ではなく、ゴーマンストン子爵家の属臣に変わっただけだ。
だがここでエクセター侯爵領を攻め取る事ができれば、トリムレストン子爵家は一気に領民七十一万人の大貴族になれるのだ。
それも首都に隣接した最重要な地方の大半を治める有力貴族だ。
全盛期のエクセター侯爵には及ばないが、今の盟主であるゴーマンストン子爵を超える大貴族となり、本当に押しも押されもしない独立した存在に成れるのだ。
現実を正しく見れなくなってもしかたがない。
一番の難敵、カンリフ公爵家は動けない状況になっている。
バルフォア地方とヘプバーン地方の二つを治める、三大宰相家の一つと激しい戦いになっていて、カンリフ公爵家を妬み蔑む多くの周辺地方とも戦っている。
馬鹿王が出した勅書が効果を表したのだ。
馬鹿王はカンリフ公爵家から与えてもらった屋敷の中で、喜びの余り踊り狂ったそうだが、愚かとしか言いようがない。
俺とエクセター侯爵家にトリムレストン子爵家まで潰せる絶好の機会を、王に据えてやった傀儡に邪魔されたのだ。
幾ら忍耐強い戦略家のカンリフ公爵でも、我慢の限界と言うモノがある。
カンリフ公爵は我慢できても、一族郎党衆の我慢が限界を超えるかもしれない。
もしこの余計な戦いで、大切な嫡男や弟達を失うような事があれば、馬鹿王は殺されてしまうかもしれないのだ。
港を奪って二つの峡谷に城砦群を築いたら、馬鹿王が殺された場合の策を考える。
馬鹿王には弟が二人いるのだが、そのどちらかを担いで戦った方がいいのか、それとも王家など無視してひたすら北に攻め上がるのか。
それとも、エクセター侯爵家とトリムレストン子爵家を攻め滅ぼして、プランケット地方を統一した有力貴族になるのか。
だが、プランケット地方を完全統一するには、教団が邪魔だ。
ベリアル教団とアザエル教団だけでなく、領民を誑かして貪欲に現世利益を貪り貴族の統治の邪魔をする、全ての教団が邪魔だ。
だが今はまず港を確保して、領地に攻め込む可能性のある貴族や教団を防ぐための城砦群を築く事だ。
22
お気に入りに追加
403
あなたにおすすめの小説
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる